アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男

 アマゾン・プライムで『アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男』を観た。

   ナチスの戦犯を追い詰めるドイツの地方検事の活躍を描いている。主人公のフリッツ・バウワーは戦時中亡命を強いられたユダヤ人法律家。戦後、戦犯追及に尽力し、アルゼンチンに逃れていたアイヒマン逮捕のため、イスラエル諜報機関モサドと協力する。彼がモサドに情報を流し、アイヒマン逮捕にも活躍していたことは、彼の死後発表されたという。

 バウワーが活躍した1950年代のドイツは戦後復興期の真っただ中で、経済成長が著しい時期だった。ドイツ国民の多くは経済成長にまい進する中で、過去の忌まわしい出来事を意識的に目を逸らす傾向もあった。さらにいえば、ドイツの政財界にはナチス協力者も多く活躍していた時期でもある。

 そうした中、ナチス戦犯追及を行うバウワーは単なるユダヤの復讐鬼のような存在としてみられることも多かった。しかしバウワーはナチスの戦犯を自国で裁くことに執念を燃やしていたという。しかし拘束されたアイヒマンドイツ国内に連れ戻すことは叶わず、アイヒマンイスラエルで裁判を受け死刑となったという。

 フリッツ・バウワーのような人物がいて、様々な妨害にあいながらも仕事を続け成果を得たことに、そして50年近く後になってからもこうして映画が作られることに、ドイツの民主主義の成熟をみることができる。

 この映画を観るにつけ、歴史修正主義が息を吹き返し、ヘイトや人種差別主義が声高にあがる日本との対比に暗い気持ちにもなる。

 さらにいえば、フリッツ・バウワーが同性愛者であったこと、それが慎重に描かれていることにもこの映画の奥深さを感じる。ドイツでは1990年代まで同性愛は法律で禁じられており、同性愛者は自らの性自認を秘匿しなくてはいけなかった。

 フリッツ・バウワーの反対者、ナチス同調者は彼の足を引っ張るため、彼の身辺をも洗っていたともいわれている。様々な意味で難しい時代に、バウワーは自国の歴史と向き合おうとしていた。