トーハク「名作誕生ーつながる日本美術」を観る

 5日に一度行った東京国立博物館の特別展「名作誕生ーつながる日本美術」のを再度観て来た。国宝、重文がてんこ盛りの企画展なのだが、前期展示と後期展示で大幅に展示替えが行われている。後期展示にも目玉となるものが多数あり、どうしても観たいという思いにかられた。しかも今日がこの企画展の最終日である。
 午前中、家族の朝食作り、なんと夕食の用意(カレー)もする。その後、昨日買ったシーツ、布団カバー類を出して、家族三人分 ベッドを夏仕様に替える。それからカミさんをシャワー浴びさせて準備完了。1時半に家を出て3時少し過ぎた頃に上野のパーキングへ着いた。この日は5時閉館が最終日ということもあり、1時間延長の6時というのも調べ済みだった。
 個人的には後期展示の目玉は雪舟の「天橋立図」。国宝で京都博物館からの貸し出しという。京都にはめったに行けないし、こういう機会でもないと観れない一品でもある。

 雪舟が中国で身につけた「実際の風景」を描き出す技法、理想郷を描き出す山水画とは異なるリアリティの描写の到達点を成す作品といわれる。いわば山水画と実景の融合とでもいうべき作品で、観光名所として名高い天橋立はこの作品で有名になったともいわれる。
 実際にはこの絵のような風景を見ることは難しいともいわれる。図録には高度800メートルくらいの上空からは、これに似た風景を見ることが可能だと解説されている。とすれば、雪舟は様々な角度から天橋立を見て、スケッチし、それらを再構成しながら描いたということになるようだ。実景から山水画のような理想郷の風景を描き出すというところが、雪舟の真骨頂なのかもしれない。
 実景、リアルからの理想的な風景を再構成する。多分、西洋絵画にあってもそうした作風、作品は方法論として確立しているのだとは思う。しかし東アジアの辺境にあって15世紀という時代的限界の中で試みたところが雪舟の天才たる所以なのかもしれない。日本画には門外漢な自分であっても、なにか琴線に触れる作品である。
 後期展示ではテーマ9「山水をつなぐ」にあって、モチーフとしての富士、三保の松原の図の関連を雪舟狩野山雪曾我蕭白へとつないでいく。
 まずモチーフの元となるのは雪舟の「富士三保清見寺図」。

 富士を題材とした優れた山水画という雰囲気である。この絵をおそらく参考にしたであろう狩野山雪は「富士三保松原図屏風」を描いた。そこには細部での実景をもとにした描写と全体としては画家の印象、主観を元にしたゆったりとした空気、叙情性をかんじさせる。
<左隻>

<右隻>

 さらにこれが1世紀を下り、曾我蕭白がこの題材に挑む。
「富士三保松原図屏風」

 ここには実景の描写を離れ富士の頂きを四つに分けるといったデフォルメなど、人の意表をつく意匠が全面に出ている。三保の松原には虹が描かれるなどサービス満点でもある。それでいて細部の描写は精密でリアリティがあり、全体の構成と抜群のバランスをとっている。
 16世紀初頭の雪舟、17世紀の初頭から半ばにかけて活躍した狩野山雪、そして18世紀の中頃に活躍した曾我蕭白、ほぼ100年の年月を隔てて富士三保松原という題材を描く画家の意匠は先達を参考にしながら変貌を遂げていく。系統展示というのあるべき姿をみたような感じで、この三作を観るだけでも後期展示を最終日とはいえ観ることができたのは僥倖だったといえるかもしれない。