MOMATへ

 午前中、依頼ごとの電話をしたところ午後一番で来てくれという話になり、急遽都内まで行くことになった。要件としては10分かそこらで済み、依頼の件は快諾していただいた。役職への就任依頼みたいことで、電話で済ませる訳にはいかないし、まあこういうのは誠意を尽くすという意味では当然といえば当然、致し方なしというところ。
 その後、会社に戻っても4時過ぎとかそういうことになるので、ばっくれてしまおうと決め込む。まあこのへんは立場的にはフリーというか、束縛のない身だからということで、勝手に午後休みたいなことにしてしまう。ロクでもないね。
 それで久々、東京国立近代美術館(MOMAT)に行くことにする。まだ企画展の横山大観展をやっているはずなんだが、さすがに朦朧体を3度も観るのもなんなんで、常設展だけのつもりだったのだが、行ってみてびっくりした。物凄い混んでいる。まずチケットを買うのに長い列ができている。おまけに1階のロビーも人でごった返している。それが全部お年寄りたち。よく見るとどうもバスツアーでやってきた方々ばっかり。これが時々新聞の旅行広告とかで見る美術館巡りバスツアーというやつなのか。
 しかし人混みとは無縁な近代美術館で人がごった返すという状況は初めてのこと。もう驚愕の世界である。ただし多くの人がみな横山大観展の方に吸い込まれていくので、4階からの常設展はさほど混んではいなかった。とはいえこんなに人が多い常設展も初めてのことだ。
 ただしお年寄りとはいえみんな美術品を愛好されている先輩たちと思いきや、どう考えてもお付き合いで来ましたみたいな方々もいる。3階の日本画フロアには、椅子が置かれていて休みながら絵の鑑賞ができるようになっているのだが、そこに座って談笑するご婦人方が3名。しだい世間話に花が咲き、だんだんと声も大きくなる。
 監視員さんに言いつけにいくのもなんだし、かといって口に指をあてるとかするのもどうかと思い、早々にその部屋を後にしたけど、下村観山の「木の間の秋」や菱田春草「賢首菩薩」といった名品が揃っているので、ゆっくりと観たかった。残念ではある。
 しかしこれからこういうのって増えるんだろうな。暴走老人とか極端な例は別にしても、超高齢社会になり、どこへ行っても元気な老人ばかりということになる。彼らのモラルの低下、マナー意識の希薄さは、多分年齢とともに増大していることになるんだろう。まあ自分もほぼその予備軍なんで実はあまりどうのということは言えまいという気もする。とはいえせめて静かなスペースでゆっくりと絵を美術品を愉しむという小さな幸福さえも、遮られてしまうのかと思うと暗雲たる思いでもある。まあ時間帯や曜日をずらすとかいろいろ回避策を考えていかなくてはいけないのかもしれない。
 そんなこんなであまり作品鑑賞に集中できないひとときだった。しかたなく早めに切り上げて夕方6時近くに会社に戻り残務整理をすることにした。
 とはいえそうはいっても4階で川合玉堂の「行く春」を観れたのはラッキーだった。多分今年はこれで三回目かもしれない。多分、毎年春先の展示のはずなので、この後は当分目にすることもないのだと思う。

菱田春草「賢首菩薩」>

萬鉄五郎「裸体美人」>