子どもが神戸で行われる声優のイベントを観にいくと言い始めたのが9月だったか、10月の始めだったか。大学生とはいえ女の子である。一人で行かすのはさすがにちょっと抵抗がある。本人は新幹線か深夜バスを使う、場合によってはビジネスホテルに一泊するみたいなことを言っていた。新幹線で往復するだけで3万くらいの金が飛ぶ。
親バカなのでつきあうことにする。金曜日に休みをとり、健保の宿を二泊してカミさんと三人で観光旅行をする。イベントがあるのは4日なのでその日は自分とカミさんは帰り、子どもはイベント終了後に深夜バスで帰るという、そういう予定を組んだ。
子どものイベントに付き合う形で関西行にしたのはいいが、初日にどこかに寄るという予定も立てていない。朝5時過ぎに出発したがウィークデイということもあり、道路も空いていて順調に進み、2時前後には関西に入る。途中でどこか美術館にでも行こうと思い、短時間寄るなら公立美術館かなとあたりをつける。
神戸にある県立兵庫美術館に小磯良平の「斉唱」という少女たちの合唱する姿を描いた作品があったことを思い出し、そこに行こうとネット検索をしてみると、神戸市に小磯記念館という美術館があることを知る。さらにそこで小磯良平の大掛かりな回顧展をやっていることがわかる。で、早速ナビに入れてみた。
http://www.city.kobe.lg.jp/culture/culture/institution/koisogallery/
http://www.city.kobe.lg.jp/culture/culture/institution/koisogallery/tenrankai/schedule_201803.html
小磯良平についてはほとんど知識がない。画力のある洋画家という漠然とした印象くらいである。例の「斉唱」についても何かの画集かなにかで観て印象に残った作品というくらいだ。
今回の回顧展ではこの小磯記念館の収蔵作品、兵庫県立美術館、さらに竹橋の近代美術館などに収蔵される作品が一同に会していて、偶々訪れた自分にとってはとてもラッキーな思いがした。
「斉唱」はちょっとした感動ものである。小磯良平は生涯、西洋画への憧憬のもとに生きた画家だったのじゃないかと思う。日本人のモデルを使っていても、どことなく西洋風な印象だ。
ドガに触発されたのだろうか、踊子を描いた作品が数点あり、どれも傑作だと思う。ドガの踊子にはモデルに対する冷徹な視線があるのだが、小磯は逆にある種の憧れのような眼差しがあり、それが踊子たちを美しく際立たせているような気がする。不覚にもこの絵を観ていて目頭が熱くなるのを感じた。絵を観てジワっとしてくるのは、久々の感覚だ。美しいものはそれだけでいいのだという思いがある。
この絵は当時大スターだった八千草薫をモデルに短時間で仕上げたものだという。この前平塚市立美術館で観た小倉遊亀の作品の中に、越路吹雪をモデルに描いた作品があったが、昭和の大画家が昭和のスターを描いた作品を観る自分もまた昭和生まれである。なにか同時代意識を感じたりもする。
小磯良平はシャセリオーなど新古典主義の画家にも影響されていると解説の中にあった。それを強く感じさせるのがこの作品だ。小磯が画力があり、美しい作品を描く画家に強く影響を受けたのだと思う。