アマゾン、日販へのバックオーダー発注停止

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【新文化】 - アマゾンジャパン、日販非在庫書籍取寄せ発注を6月30日で終了
 GWの最中にアマゾンが日販へのバックオーダー発注を取りやめるという発表が有り、ある意味業界には衝撃が走ったみたいだ。けっこうあちこちで、あれどうするんだろうね、みたいな話で盛り上がった。。アマゾンによれば、日販への注文引当率の低下のため、在庫を増やすか、もしくはバックオーダー、つまり日販で在庫を持たないものの注文は取りやめるかの二者択一を迫ったという。それでは日販に在庫のないものは不扱いとなるのか。アマゾンは出版社に対して、日販に在庫のないものは直取引で取り寄せる、つまり直取引を要請したというのだ。
 これに対しては、穿った見方として、売上の減少分に見合う利益率低減化を、直取引による正味ダウンによって確保するためだという声を出版社のサイト等からの意見として目にしたこともあった。実際、直取引の場合、正味は6掛けくらいになるとの話を聞いたこともある。
 まあ自分のような周辺部分の人間からは単なる興味本位でしかないのだが、アマゾンの決定が言葉通りであるとすれば、ネット書店が志向してきた書籍のロングテール販売が終焉を迎えたということになる。
 ロングテールにより従来のパレートの法則による、在庫の2割が売上の8割を占める、故に2割を重点管理するという手法とは異なり、ネット上では残りの在庫8割のまた同様に販売機会が有り、それが売上を押し上げるというような考え方だった。
 ネット上で在庫を持たず情報だけで販売する上では重点管理する必要もないということなのだが、出版社や取次のロジスティックとしてはすべて人手をかけて管理している訳なので、これはある部分コストの増大を意味する部分もある。
 まあこうした経緯の中で、新文化の5月25日号ではアマゾンのバイスプレジデントと事業企画本部の本部長がインタビューに応じ、これが一面を飾っていた。それに対して今回は日販側から安西浩和専務と大河内充常務のインタビューが一面に掲載されていた。曰く「在庫見える化」「出荷確約」推進ということらしい。
 日販の言分では、アマゾンがいうバックオーダー発注による引当率の減少は、アマゾンが在庫引当ができなかった場合、同一銘柄を何度も繰り返して注文する。これが引当率の分母を膨らませているということを指摘していた。
 以前、取次の人間から、ネット書店は出版社の在庫ステータスを無視して発注を繰り返すという話を聞いたことがある。正確な話ではないが、要は注文を繰り返して、万が一出荷されればめっけものという考えだという。まあ、出版社も在庫ステータスをかなりアバウトに管理している部分もあるし、在庫が200冊以下は僅少、100冊以下で品切としてしまう場合などもあり、確かに注文繰り返して万に一つ出荷されればokというのも一理あるなと思わないでもない。
 記事はアマゾンと日販それぞれのインタビューを精読しないと、きちんとしたまとめはできないが、それは多分自分のような門外漢のすることではないと思う。ただし、アマゾンのバックオーダー不発注は7月から実施される。となると出版社で直発注をするにしろ、また日販が在庫を拡充してアマゾンへの対応を行うにしろ、一時的には混乱が生じ、多分それは各版元の売上にも影響するのではないかということが予想される。
 おそらくアマゾンのサイトで多くの書籍が古書扱いされるのではないかということだ。一時的とはいえ、これは結構たまらんことだなという気もしないでもない。
 同じ新文化の五面に地方小出版流通センターの通信として川上社長の記事があり、昨今の出版物流の人手不足や業量減少による不採算化の問題が語られている。

 これは早急に改善すべき深刻な問題ですが、数年前までは、取次間、書店間、コンビニ間競争の陰に隠れて表面化していませんでした。それがここへきて、一気に吹き出した感があります。
 このように露わになった現実、様々な問題の噴出に直面して、戸惑い悩んでいます。
 それとともに”対抗相手”と目されるアマゾンがこだわる「本を届ける速さ」が、それほどまでに必要なものなのか、との疑問。そうした「速さ」を全出版物に適用するのは、どうしても無理があるのでは、とも思ってしまいます。

 川上氏はある意味根本的な問題を提起しているのかもしれない。これまで出版業界は客注における遅さ、それがこの業界の前近代的な資質の象徴みたいなものとして挙げられてきた。なぜ頼んだ本が書店に届くまで一月もかかるのか、これは出版業界の宿痾みたいなものだった。他の業界では考えられないような物流、流通の古さを論うことが多かった。自分自身若い頃から、それを強固に主張する側にいつもいたようにも思う。
 しかしだ、よくよく考えて見ればだ、多品種少量販売の書籍にあって迅速な客注の提供は可能だったのだろうか。結局それは物流業者、流通業者にしわ寄せが言っていただけではないのか。
 この業界にあっては、大手出版社、老舗出版社が業界ヒエラルキーの上部あり、取引において優先的な地位を占めている。それらの出版社の正味が7〜75くらいにあった時、新興出版社や弱小出版社は65〜68という条件を強いられていた。おまけに新刊委託の代金を大手は翌月、半分から場合によっては全額回収できるが、小出版社は6ヶ月以上据え置かれる。端から競争原理が働かない業界なのである。
 そんな中で、取次や書店はヒエラルキーの下部に位置し(取次、書店間でも大手、弱小によってまた格差がある)、労働時間も長く、賃金も少ない。そういう状況下で客注のスピードアップは末端への労働集中でしかありえないのだ。
 今、出版物流はまずトラックの運転手の高齢化により崩壊寸前だ。なのに業量の圧倒的な減少により、仕事は増えるのに給与はどんどん下がっている。かっては長距離ドライバーは2名交代が普通だったが、今はだいたい一人でオペレーションしている。同様に以前は積み下ろしは倉庫側で行うのが普通だったが、今はかなりのところで運転手が積み下ろしを行なっている。
 末端のこういう部分が解消されない中での注文品のスピードアップはもう限界なのではないかということだ。
 アマゾンはいずれロボットによるピッキングや入出庫、ドローンによる配送とかを志向しているのかもしれないが、日本の出版業界の末端で仕事をしてきた者から言わせれば、「無理、無理」ということになる。
 その上であえていう。地方小の川上氏がいうように「本を届ける速さ」は必要なものなのか、それは一義的なものなのかということを、もう一度考え直す時期がきているのかもしれない。最も本という紙の文化がもはや死滅寸前の時期にその問いに意味があるのかどうかとなると、それはまた別の話に、ならない。