2019年出版界10大ニュース

業界紙新文化』の12月19日号から

1位 倒産、買収、合併相次ぐ

  文教堂AORで事業再生へ

2位 「マーケットイン」流行語に

  近刊登録の意識高まる

3位 中国・九州1日遅れに

  出版輸送、抜本的見直しへ

4位 海賊版サイト撲滅へ

  「漫画村」運営者逮捕、講談社勝訴

5位 日販、持株会社制に移行

  本業「取次」が営業赤字決算

6位 「買切」の取組み続々

  返品率・書店マージン改善へ

7位 軽減税率適用かなわず

  消費税率引き上げで駆込み需要も

8位 台風豪雨で書店被災

  雨漏り、商品損壊で休業も

9位 樹木希林本ベストセラー

  「一切なりゆき」150万部で年間No.1

10位 集英社、純利益100億円に迫る

  コンテンツ事業が構造変える 

   月別ニュース

 1月 海賊版サイト運営者3人に実刑判決

   天牛堺書店が自己破産申請

 2月 アマゾンJ、「買切」を推進。本腰入れて版元へ提案

   カドカワ、通期赤字43億円に下方修正

   紀伊國屋書店、光和コンピュータへの出資比率21.4%

   楽天、過去最高の売上収益1兆1014億円

   講談社、増収増益決算に。3年連続で増収。売上高1204億円に

 3月 日販、既刊書増売へ本腰。年間100点、実売率70%目標

   大修館A.S.、ゆまに書房の全株式を取得。鈴木一行氏が社長へ

   地球丸、破産手続き開始決定受ける

   医薬ジャーナル社、倒産へ

   TSUTAYA、2018年書籍・雑誌販売額、過去最高1330億円に

   丸善CHIホールディングス連結決算、減収増益。売上高1770億円

 4月 日販とトーハンの物流協業化、返品など3業務で合意

   紀伊國屋書店・高井社長、「独自の物流拠点」示唆

   トーハン、「出版社連携在庫サービス」稼働へ

 5月 トーハン、マーケットイン型流通再編へ。23年度までに返品率33.4%目指す

   トーハン和光センターが稼働

   凸版印刷図書印刷を完全子会社化

   BOOK JAM K&Sが倒産

   小学館、4年ぶりに黒字決算、増収総益に

   カドカワ、初の連結赤字決算

 6月 日販、GHD体制を発表。GHD社長に平林彰氏。

     日販、19年ぶり赤字決算

   トーハン、2年連続で減収減益決算

   八重洲BC、ポプラ社と「低返品・高利幅」の実験へ

   TSUTAYA、書籍とムック対象に「買切仕入れ」、版元毎に返品枠と正味交渉 

   なにわ書房、札幌地裁へ破産申請

 7月 文教堂GHDと文教堂、「事業再生ADR」申請へ。金融機関と再生計画案協議

   文教堂GHD、第1回債権者会議で「返済一時停止」で合意

   ファクタ出版、フタバ書店の粉飾決算をスクープ

 8月 JPRO、10月から電子版の登録無料キャンペーン

   文響社、マキノを子会社化

   リンクタイム、ライトハウスMを買収

   システムYAMATO、書店注文で1冊10円の褒賞

 9月 光文社、3年ぶりの黒字決算。売上高約203奥苑、純利益36億円超へ

   サイボウズ、卸正味50%、書店マージン35%で出版事業に参入

   紀伊國屋書店梅田本店、開店50年

10月 文教堂GHD、事業再生AOR成立。日販が5億円出資

   文教堂GHD連結決算、39億円のあかじ

   ノーベル化学賞の吉野氏の著書、関連書に書店注文殺到。各社重版へ

   日経BP日本経済新聞出版社、来年4月に経営統合

11月 DNP、海外版のマンガ読み放題サービス。6.99ドルで

   日販、減収減益の中間決算

   トーハン、19年ぶりの中間連結赤字

12月 紀伊國屋書店、12年連続の黒字決算、連結売上高1212億円

   有隣堂、増収増益の決算、売上高536億円

   大和書店(ザ・リブレット)、破産開始決定受ける

   宝島社、来年2月に洋泉社を吸収合併

  

 文教堂の破綻と事業再生は注視せざるを得ない。あの規模のチェーン店が完全に破綻するとなると業界に及ぼす影響は計り知れない。さらにいえば取次最大手の日販が実質的な親会社だけに、持株会社化した日販がどうかじ取りしていくのかが気になる。ひょっとすると不採算部門の出版販売をどこかに売りつけるといった奇策すら考えたくなってしまう。

 とにかく雑誌の凋落が著しく、ここ10年で売上は半減している。数年前に出版危機として喧伝されたのは、雑誌売上が書籍売上を下回ったためだが、それまでこの業界は雑誌の売上で儲からない書籍売上をカバーすることで成立していた。それが逆転してしまったため、業界全体が不採算産業になってしまったということだ。

 そのあおりを書店業界と取次、つまり出版流通が全部被っているというのが構図だ。

それでは雑誌出版社はどうなのか、大手を含めて倒産のラッシュかというとそうでもない。今年のニュースでも講談社小学館集英社などはほとんどが増収増益に転じている。集英社に至っては純利益が100億円に達する勢いだ。

 売上が半減した雑誌出版社が業績を回復しているのなにかといえば、一つは売上構成が明らかに変わってきている。一つは紙媒体から電子媒体への転換だ。すでにコミック市場は紙から電子が顕著になっている。さらにこれらの大手出版社はコンテンツ事業やライトマネジメント事業で成果を出している。さらに雑誌出版社は物販にも力を入れている。

 どことはいわないが、大手出版社の倉庫では出版物の保管倉庫を収縮させて、物販の保管と販売に力を入れている。雑誌に掲載した衣類やアクセサリー類を、出版社サイトから簡単に注文ができ、それを自社倉庫から出荷させているという話を聞いた。当然のごとく物販の方が利幅が大きい。

 これと同じように大手書店も売上構成はすでに出版物とそれ以外が半々くらいまできているのではないかと思う。儲からない出版の売上構成を低減化から激減化、それが業績V字回復の特効薬のようだ。

 ということで倒産や買収にさらされる中小の書店や出版社はこうした業種の転換がうまくいっていないところということになるのかもしれない。しかし中小出版社、特に専門書出版社が出版事業からの転換をと考えてもほとんど妙薬なし、アイデアなしというところかもしれない。

 ちょっと気になる海外の記事だが、学術書のサブスクというのはビジネスモデルとして成功するかどうか注目されているという。

 動画配信でNetflixが大きな成功を収めているが、これが出版の世界で、しかも学術の世界で展開できるのかどうか。ただし、海外の大学生や研究者にとって専門学術書は必需品であるだけに、一定の狭いマーケットとしては成立可能かもしれない。しかしこれが日本語というガラパゴス的環境下にある日本で成立するかどうかとなると、う~むと腕組みするだけである。

 トーハンが中期経営計画の中で提唱した「プロダクトアウトからマーケットインへの転換」から「マーケットイン」という言葉は、ある意味出版業界では流行となった。しかし出版社側からするとやや揶揄、自嘲気味にようは「委託で部数をとらない」という意味合いで使われている。

 これまでの出版業界では出版社のほぼ言い値で委託部数を取次は受け入れてきた。それが出版社の自転車操業を支え、高返品率を生み出してきた。それに対して取次は仕入抑制を続けてきたのだが、それにより積極的意味を付加して提唱されたのがこの「マーケットインである。曰く、「市場のニーズを起点としたマーケットイン型流通の構築」ということである。

 しかし市場のニーズを起点とした商品というのは、実はこの業界あるのかどうか。出版社は売れるか売れないかわからんが資金繰りのこともあるし、取り合えず出してみるという、ほとんど博打、しかも多分勝てる見込みのない博打を打ってきたようにも思う。まあ返品食らう頃には次の<売れない>商品を撒けばよろしいくらいの安易な出版活動である。

 当然というか、「マーケットイン」をベースにして取次が仕入れを行えば、ほとんどの出版物はアウトとなる。実際、返品率が40数%、ほとんど50%に届きそうな業界なのである。平均で40数%ということは、当然売れない商品の返品率は7割、8割が当たり前の世界である。「マーケットイン」を取次がブンブン振り回してくれば、本を出すな、出しても取らないぞというメッセージとなる。

 新文化の記事にあるように出版社の間で「近刊登録」の意識が高まるということも遅まきながら出てくるかもしれない。欧米のように近刊情報や束見本、ゲラをもって、出版社や著者が半年近い時間をかけてプロモーションを行う。そういう地道な販促活動によって本を書店に買ってもらう努力が始まる。

 実際、これまでの出版社の販促活動なんてある意味滅茶苦茶といってしまえばその通りでもある。内容もほとんどわからないチラシ一枚もって、売れなければ即返品してくださいとばかりに書店から見込み発注を依頼=強要する。取次にとりあえず見本もっていけば言い値でとってもらえる。出版委託販売なんてそんなものだったのだから。

 そしてそうした「マーケットイン」と連動している部分で、「買切」の取組みが行われている。アマゾンJは「直接取引する出版社からの買切仕入」を掲げた。八重洲BCとトーハンポプラ社と「低返品、高利幅」の実証実験を実施した。TSUTAYAは書籍、ムックについての返品枠付きの買切条件を出版社に提案した。

 しかしこれらの買切が可能となるのはまず取引条件の改定だとは思う。以前のような取次卸7掛け、書店卸8掛けという条件では買切は成立しないだろう。最低でも取次卸6掛け、書店の利幅が3割程度なければ、小売りは売れ残りリスクを負うことはできない。さらにいえば、売れ残り品の見切り販売、割引販売なども必須となるので、当然のごとく再販制度も崩れていくのだろう。

 これらの諸策は業界の生き残りをかけて実施が加速化していくだろう。しかし一方でもう手の打ちようがないという悲観論があちこちで出ている。業種の構造転換を図るには、売上構成を変えていくことではなく、出版からの撤退が必要だの、究極の「マーケットイン」は本や雑誌の扱いをやめてしまうだの。

 かって本や雑誌には一定の集客性があり、百貨店が本屋を上階に置けば、そこから降りてくる客が他の商品を購入するみたいなことも言われていた時代がある。しかし今、出版物にそうした集客性があるのかどうか。

 かって自分たちが本屋にいた頃の世界は単純だった。売上を伸ばすには客数を伸ばすか、買い上げ単価を上げるかどちらかだった。前者は雑誌やコミック、文庫を充実化させる。後者は専門書の棚をいじり、専門書の読者に魅力ある棚を作る。

 もうその手の努力は多分出尽くしているのだと思う。2020年がどうなるのかどうか。とりあえず自分は中規模出版社にとっての最適な物流を模索していきたいと思っている。年齢的にはかなりシンドイところだが、与えられた役割だけはなんとか果たしていきたいとか思っている。もうひと頑張りかもしれない。