「ジャージー・ボーイズ」を観る

【ワーナー公式】映画(ブルーレイ,DVD & 4K UHD/デジタル配信)|ジャージー・ボーイズ
ようやく「ジャージー・ボーイズ」を観た。不覚にもラストで涙した。その日のtwitterには今年ベストの作品を観たとも書いた。フォー・シーズンズを題材にしたブロードウェイ・ミュージカルを映画化した作品。監督は80才を過ぎても枯れることなく旺盛に作品を作り続けるクリント・イーストウッドだ。
クリント・イーストウッドの監督作品は基本苦手な部類だ。正直、好きになったものがない。「バード」は気がめいった。「ミリオン・ダラー・ベイビーズ」は良い映画だし、ヒラリー・スワンクは好演していたが、私にとっては「良い映画だけど、多分二度と観たくない映画」の栄えあるベストワンとなっている。この牙城はたぶん動くまいという自負がある。なぜか、前評判で暗い映画は敬遠しちゃうから。
グラン・トリノ」もしんどかった。そういう意味じゃ、イーストウッドの映画は、特に評判の高い良質な映画は陰惨ウツウツ系ばかりではないかと密かに思っている。彼の作品でワクワクドキドキ楽しく観れたのは「ダーティー・ファイター」と「アイガー・サンクション」くらいではないかと密かに思っていたりもする。
そういう陰惨ウツウツ系のイーストウッドだが、音楽への造詣は深く、ジャズ好きとして知られているし、息子のカイルはジャズ・ミュージシャンでもある。「バード」は陰々ウツウツ系映画だったが、音楽は良かったと思っている。確かサントラはすーパー・サックスだったっけ。
ジャージー・ボーイズ」はそういう(どこが)、イーストウッドの音楽好きの部分がある部分集大成されて出来ている映画だ。80を過ぎてこういう映画が撮れる彼はやはり巨匠といえると思う。20世紀から21世紀にかけて活躍する彼はもはやジョン・フォードに匹敵するかもしれない(興行収益的には凌駕していそうだ)。
この映画はブロードウェイ・ミュージカルの映画化である。もちろん舞台なんか観ていないが、かなり忠実にミュージカルを映画化しているようだ。そういう批評や解説をいくらも見る。しかしところどころに監督の音楽への趣向、造詣みたいな部分を感じる。ただしイーストウッドの趣味はちょっと微妙かもしれない。せっかくオリジナルがそこそこのアレンジなのに改悪するみたいな部分も幾らかはある。『君の瞳に恋してる(Can't Take My Eyes Off You )』は傷心のフランキー・ヴァリがこの曲によって復活するそういう感動的なシーンつかわれる感動的な曲なのに、最悪のビッグ・バンド・アレンジになっている。なぜにと思わのだが、今思えば当時のヴァリはそのくらい劣悪な環境でドサ回りしていたのだと、そういうことをこのアレンジで描いているのかと、思わないでもない。そんなアレンジでも余りある楽曲の素晴らしさとこの曲を歌い上げるヴァリの感動的な部分を描きたかったのかもね。
フォー・シーズンズは私のような間もなく還暦組からするとちょっと先の世代の部類に入る。なのであまりきちんとは聴いていない。「シェリー」やさっきの「君の瞳に恋してる(Can't Take My Eyes Off You )」くらいしかきちんと聴いていない。逆に70年代に復活した「1963年12月(あのすばらしき夜)(December, 1963 (Oh, What a Night) 」のほうが同時代的に聴いたクチである。例の「オワリナイ〜」である。どうでもいいが名古屋人のテーマ曲にしてはどうかね。
まあいい。この曲は1976年である。40年前のことだがこれを聴いたの自分史的にはいつか。年齢的にはたぶん高校生、しかも三年生である。受験生の頃である。記憶を辿ると実はこの曲を私はたぶん音としてよりも楽譜や歌詞からはいっているような気がしてきた。音楽雑誌とかをよく講読していたので、こういうのは実は普通だった。まず譜面から入って、ギター弾きながら歌ったりとかは割りと普通だった。さすがに譜面だけで音を全部とるのは難しかったけど、けっこう初見で曲調とかはわかったりもした。もっとも後で実際の曲を聴くと、ゲゲこんな曲だったかみたいなこともあるにはあった。
で、この「Oh, What a Night」をどこで仕入れたか。当時受験生で英語を勉強するために学生向けの英字新聞をとっていた。多分朝日のやつだったと思うが、それの巻末ページにいつも流行りの曲の譜面、歌詞、その語句解説とかがあった。それにこの曲があったのですね。この英字新聞最終ページの洋楽はけっこう覚えている。というか多分そこしか読んでなかったんだろうね。
ビージーズの「ジャイブ・トーキング」、ジャニス・イアンの「踊りたいのに」なんてのは譜面や歌詞から入ったクチでしたね。
話は脱線したがこの「Oh, What a Night」が私にとって一番馴染みのあるフォー・シーズンズの曲だ。それ以外の彼らの曲は正直みなオールディーズの範疇だ。私は自他共に認めるビートルズ世代だ。私にとってのポップ・ミュージックは西暦でいうAC/BCと同様にAC/BBでつねに考えられるものだ。ビフォー・ビートルズかそれ以前くらいの意味ね。でフォー・シーズンズビートルズ以前なので、私の世代じゃないということになるのね。
なんかちっとも映画の話に行き着かないな。というか多分ずっと行き着かない。この映画には自分の聴いてきた音楽のルーツの部分のエピソードに溢れた、そういう内容の映画なのだ。だから普通には観ていられない。感情移入してしまう、そういう映画だ。コーラスをメインにしたポップスがいかにして形成されたかみたいな部分。さらにいえば音楽を発露にした高校生たちの青春。音楽ビジネスへのギャングの介在とか、そういう部分のディティールもしっくりときて観てとれる。
人間ドラマとしてはやや微妙である。人物はきちんと描かれているか、多分ノーである。役者の演技はどうか、これもやや微妙だ。でもそういう稚拙な部分以上に音楽がピン立ちしている。そう、この映画は今どき珍しい見事なミュージカル映画なのだ。なのでドラマ性が二の次になってもいいのだ。かって我々はアステアやジーン・ケリーのミュージカルに深い人間性だのドラマだの、さらにいえばリアリティだのを求めたかというのだ。そんなものはクソ食らえである。そうこの映画は良質なミュージカルとして成立しているのだから。それが一番よく出ているのがこの映画のエンドロールだ。ここで私はほぼほぼ破顔した。
多分に「ジャージー・ボーイズ」は今年のベスト映画だと思っている。

Sherry / Oh What A Night !