日通管理職の「アマゾン行き」

一週間以上前、15日の朝日に載っていた記事が衝撃的だった。例の「限界にっぽん」シリーズの第4部となる。これまでにマクドナルドで夜を過ごす失業者たちをレポートした「マクド難民」、パナソニックやシャープでのリストラ対象者を一日中閉じ込める「追い出し部屋」など、その都度社会的反響を引き起こした特集記事である。
 今回のレポートはアマゾンの巨大流通倉庫で契約社員、派遣、パートと一緒に日々ピッキング作業に従事することを余技なくされた日通のリストラ対象の中間管理職たちだ。記録のため全文引用する。

(限界にっぽん)第4部・続「追い出し部屋」:2
「自分が機械になった気分」
■日通管理職の「アマゾン行き」 商品棚の海、探す「注文」
 「いつまで、こんな作業を繰り返すのだろう」
 蒸し暑い巨大倉庫の中で40代の男性は、本やおもちゃを入れたカートを押しながら、ぼんやりと考える。インターネット通販の世界大手、アマゾン・ドット・コム。その物流拠点「市川フルフィルメントセンター(FC)」(千葉県市川市)で働き始めて4カ月目に入った。
 日本通運の中間管理職だった。都内の支店から市川FCの中にある日通の「アマゾン首都圏事業所」に配属された。仕事は、予想もしなかった「ピッキング」と呼ばれる作業だった。
 通路をはさんで左右に並ぶ商品棚の海をかき分け、全国からネットで注文が入った商品を選び出す。書籍やDVDソフト、食品、お菓子、雑貨、衣類――。
 手に持ったバーコードを読み取る端末機の液晶画面に、その商品の棚の位置などを示すアルファベットと数字のコードが送られてくる。その場所を探して商品を見つけたら、端末機をあてる。ピッという音。商品をカートに入れると、間髪なく次の「注文」が送られてくる。間違ってエラーがでたら、また探し直しだ。
 朝8時半から夕方5時まで、これをひたすら繰り返す。サッカー場が2面取れる広さのフロアでは、数百人がカートを押しながら棚と棚を何度も行き来する。大半は契約社員や派遣などの若者だ。
 「端末機の指示で動き、人と会話することもほとんどない。まるで、自分が機械になったような気分にさえなる」
 別の40代の男性は、ここで働き始めて1週間が過ぎたころ、上司から「貴職の生産性推移グラフ」と書かれたA4用紙を渡された。作業の経験日数に応じた、1時間当たりの作業員の平均ピッキング数と、自分の実績が一目で分かるグラフも添えられている。9日目で、平均は1時間に102個だったが、自分はそれを下回っていた。
 さらに、7月に入ると「3カ月の振り返り」と題した紙を渡され、「この3カ月で何をしたか」「何を学んだか」「これから何をするのか」を書いて提出するよう求められた。
 どんどん追い込まれるような気分になる。「今回の人事は、『もう日通に居場所はないぞ』という通告なんだな」と理解した。
■PC取り上げ、机も無し
 この4月に日通からアマゾンに来たのは、15人。このうち10人が市川FCで働き、ほかの5人は別のFCに配属された。ほとんど40代で、支店でトラックの手配や引っ越しの業務をしていた事務系の中間管理職だ。通勤の姿もスーツから、ポロシャツとジーンズ、ペットボトルを差し込んだナップザック姿へと変わった。
 40代の男性が上司の課長から「アマゾン行き」を告げられたのは3月末のことだった。「えっ、正直えらいことになったと。単純作業の部署に異動になった人もいたし、いいイメージはなかったから」
 上司には「雇用は保証してくれるのか」と思わず聞いた。だが、「絶対とはいえないが会社も考えている。まずは頑張ってくれ」といわれただけ。「どうして自分が」との思いはいまも消えない。
 社内では「アマゾン異動者」と呼ばれ、それまで使っていた個人用のパソコンは取り上げられた。一方で新たな職場には専用のロッカーも机もない。名刺だけは渡された。「名刺なんて、もう配ることもないのに」
 唯一、「日通」を感じるのは作業の時に肩にかける「日通カラー」のオレンジ色のタスキだ。倉庫内では新人作業員などの一部がタスキをかけて作業し、指導員はピンク色のベストを着る。新人はじきにタスキを外すが、自分たちは着けたまま。「見せしめなのだろうか」とも思う。
 運輸業界の過当競争が進む中で、日通は4月からの新中期経営計画で「国内事業の経営体質強化」を掲げ、全国に約170ある一般支店の統廃合や首都圏営業所の合理化などを打ち出した。「ペリカン便」で知られた宅配事業が不振のため他社に譲渡され、管理部門などに余剰人員が生まれるなど、厳しいリストラの下地はほかにもあった。
 「会社としては頭でっかちの管理部門を切りたい。給料が比較的高く、内勤の中間管理職がねらい撃ちされている。バブル世代だし、実際、若い人より給料も高いからカットに来るのはわかる。でもここじゃ、キャリアや経験も生かせない」。今までの会社員人生を否定された気分になる。
 ■「頑張るぞおー」
 「便利さ」を売りに急成長するグローバル企業のすそ野で、会社人生が急変した中間管理職がさまよう。
 「元の職場に戻れるのだろうか」「そのうち退職勧奨が始まるのではないか」
 不安にかられる中で、帰宅する電車の座席に身を沈め、思い浮かべるのは家で待つ家族のことだ。子どももまだ就学中、進学にもお金がかかる。残業がほとんどないため、月7万〜10万円は収入が減った。
 上司からは「ピッキングの成績が上がらないと、給料が下がる」といわれている。「ツテがあれば転職もと考えるが、もう年齢的にも厳しい。だから石にしがみついてでもやるしかない。正直、しんどいけど」
 一方で、別の異動者は「会社の置かれている状況はわかる。給料をもらっている以上、従うのが筋。それにここではアマゾンという巨大企業のビジネスの一端もかいま見えて、それなりに勉強になる。ここで頑張って次のステップを考えるしかない」という。
 中間管理職まできた意地と誇りが顔をだす。とはいえ、ここでの「昇進」の道は、ピッキングから、商品を棚に入れる作業に昇格し、さらに新人に仕事を教えるトレーナーになっていくことしかない。
 賃金も勤務内容も激変するこうした人事について日通広報は「普通には起こりえない」と、特殊なケースだと認めながら「『追い出し』との認識はないし、会社員ならば与えられた仕事で成長するのが当然だ」という。アマゾンの日本法人アマゾンジャパンは「他社との協業については一切答えられない」としている。
 6月下旬の週末の夕方、駅ビル内の居酒屋に「アマゾン異動者」が集まり、早めの暑気払いをかねて「飲み会」が開かれた。
 かつての職場の話やたわいのない話で盛り上がったあと、「中締め」で一人があいさつにたった。
 「4月に来て約3カ月がたちました。これから先、何カ月、いや何年いるかもしれませんが、頑張りましょう」。じっと聴き入る人、遠くをみつめる人、そんな中ですでにお酒のかなり入った一人が連呼する。
 「頑張るぞ。頑張るぞ、頑張るぞおー」。自らに言い聞かせるかのような叫びが響いた。
 (横枕嘉泰)

アマゾンが日本上陸を果たしたときにある意味パートナーとなったのは、商品調達に関しては出版取次の大阪屋であり、物流に関しては日通だったと記憶している。初期のアマゾンの書籍はたいてい日通ペリカン便だったし、市川倉庫の運営は日通の関連会社という風に聞いていた。
当時、やれ笛を吹いてパートや派遣を指示しているだの、朝礼の度に床にテープ貼った線の前に並ばせて細かく指示をとばすなど、日通系の管理社員の仕事ぶりが噂となった。
しかしアマゾンは巨大化するにつれて使う業者についても多面的になり、取次も日販との取引を開始した。昨年には取引のメインを大阪屋から日販に移した。その結果、大阪屋は売上の多くを失い、東京支社社屋の売却や楽天等の支援により経営再建を進めるにいたっている。
宅配業者についていえば、ペリカン便だけでなくヤマトや佐川も並行して取引するようになった。自分は月に10回程度アマゾンを利用しているが、時期にもよるのだろうが最近は圧倒的にヤマトから配達されることが多いようにも思う。
日通についていえば、仕事がら多少の付き合いもある。都内の支店長クラスの管理職も数人とは付き合いもあり、今の家に引っ越す時も日通の世話になった。よくわからんが最終的には10名近くの人間が搬出、搬入で来ていたのでけっこう破格な扱いを受けたのかもしれない。また宅配関係でもけっこう日々世話になっていた。
当時から日通ペリカン便はヤマト、佐川に大きく差をつけられており、不採算部門であったと聞いている。その分、大口顧客へのダンピングしていたようで合い見積もりをとると採算度外視で安くしてくるという話も聞いたことがある。最終的には宅配事業は日本郵便に売却し、ペリカン便はゆうパックに収斂されてしまった。
当初は日本郵便との事業提携ということで報道され、日通や郵便の担当者からそういう説明を受けた記憶もある。最終的に宅配事業の売却ということになり、相当なリストラが予想されるという記事を読んだ記憶もある。そのリストラがこういう形で進行しているというのが、朝日のこの記事なのだ。
もともと日通は物流・運送業の頂点に位置する大企業だった。ヤマトや佐川は日通があまり重きをおいていなかった宅配という、いわば隙間を狙った新参業者だった。40〜50年前の宅配事業は郵便による小包の専売だった。当時、郵政公社は官営であり、国鉄と同様サービスの点では相当に低い状態だった。その隙間からヤマト、佐川は出発し、現在の巨大宅配物流会社に成長した。
その当時、運輸業の巨人だった日通にとって、宅急便などという存在は小ざかしいアリのようなものであり、自分たちが顧みない利幅の少ない個別配送で凌いでいる彼らは個人運送業に毛のはえた存在だったに違いない。今でも日通は業界トップの位置にあるとはいえ、その二番手にはヤマトがいるし、ヤマトと佐川の売上高はおそらく日通を超えるまでになってきている。
ようは業界の巨人として君臨してきた日通の殿様商売が次第に通用しなくなりつつあり、不採算部門は当然切り捨てられ、大企業の社員として安定した地位にあった管理職員たちがリストラ対象として物流倉庫での肉体作業に従事させられているということだ
ひょっとすると自分も知っている方がアマゾンのどこかの倉庫でピッキング作業に従事されているかと思うと、なんともやりきれない思いもする。と同時にあの大企業日通の社員でさえという、昨今の厳しい労働環境を思わざるを得ない。と少し前の朝日の記事を読みながらネットをつらつら眺めると、日通が希望退職を募るというニュースもある。一方で取引先(アマゾン)内の事業所で単純作業に従事させるというリストラ、退職勧奨めいた労務政策をすすめ、また一方ではソフトに希望退職者を募る。そうまでして組織をスリム化させないと、巨大企業も生き残れないということなのだろうか。
アベノミクスで株価が上がり、円安で輸出企業が最高益を出す。それらが回りまわって給与を上げ、所得を増加させる。それが消費に回り、企業の収益をさらにアップさせ雇用も増える。経済は右肩上がりで上昇を始める。そういう触れこみで現政権の経済政策が喧伝され、短期間でも成果が上がってきているといわれている。報道されるリストラの数々、「追い出し部屋」という事象は、単なる過渡期的な問題であって、これから景気が本格的に良くなってくるにつれて自然と消滅すると。そういう楽観視をしていればいいのだろうか。
30代、40代という働き盛りでリストラ対象として選別され、退職勧奨的な圧力を日々加えられているという現実は、私のような働き手としては第4コーナーを回り、ゴール近くなった者としては、なんとも身につまされるというか、すさんだ気持ちになるというか、そういう思いになってしまう。