アウトレイジビヨンド

アウトレイジ ビヨンド [DVD]

アウトレイジ ビヨンド [DVD]

  • 発売日: 2013/04/12
  • メディア: DVD
TSUTAYAの新作コーナーで10数本のDVDがほとんど全部借りられている状態で、一本返却されて戻ってきたばかりというアナウンスのものをつい借りてしまった。
北野武の作品はというとほとんど観ていない。思いつくのは「あの夏、いちばん静かな海。」「ソナチネ」「監督・ばんざい!」あたりか。個人的感想をいえば、あんまり面白くなかった。だから世間がやたらタケシの映画は凄いとか、「世界のキタノ」みたいな喧伝については、正直懐疑的だ。
正直にいえば北野はやっぱりビートたけしだし、その映画はペキンパーでもトリフォーでも、ゴダールでもないし、もちろんフェリーニなんかでもない。映像作家としてどう評価するかといわれても、正直わからない。もっと作品を観ればわかるのかというと、どうにも懐疑的な感じもしないでもない。
フェリーニやトリフォーがやったようなメタ映画の実験として「監督・ばんざい」を観たときに感じたのは、これはオマージュでもないし、たぶんパロディですらないかもしれないというものだった。そこで私が感じたのは、いつものタケシの悪ふざけ的なギャグ、コントのつらなりでしかなかったかな。なんか「俺たちひょうきん族」のタケチャンマン的な悪乗りを延々2時間近くみせられたに過ぎない、そんな思いだった。
実際、北野作品は興行的にも成功していない。特に「TAKESHIS'」「監督・ばんざい」「アキレスと亀」の3作は大ゴケだったとも聞く。実際、テレビだかでたけし自身、映画の借金をテレビの仕事で返しているみたいなことを言っていたようにも記憶している。
そういう興行的な失敗の中でようやくヒットしたのが前作「アウトレイジ」である。真性ヤクザ映画である。結局のところデビュー作を含め、作品として評価され、興行的にも成功しているのは、暴力を全面に押し出したヤクザ映画だけというのが、「世界の北野」の実情なのではないかと思わないでもない。
と、前フリばかりだが、本作「アウトレイジビヨンド」の感想はというと、う〜む、これはまあなんというか、普通の、どうでもいい、ヤクザ映画の類ではないかということ。出ている役者はある意味、今風にいえばオールスターかもしれない。ストーリーはそこそこテンポはあるにはあるが、その暴力シーンがなんつうか、今一つリアリティがない。だいたいにおいて、いくらなんでもあんなドンパチ的抗争は現代社会ではありえないだろうという気もするし。
そう、リアリティの話をすれば、警察は身内に危害があったときはえらいこと本気になる。だから冒頭の潜入操作中の○暴刑事が殺されるのを、そう簡単にスルーしないし、あれを替え玉犯あげるだけで良しとはしないだろう。それがわかっているから、ヤクザも刑事をヤッたりは絶対にしない。そんなことをしたら警察は組織あげてツブしにかかるだろうから。
まあこういうリアリズム振り回してどうのというのは野暮ったいからよそう。ただ思うのだが、この映画に描かれるヤクザにしろ、暴力描写にしろ、どことなく嘘っぽい。同じバイオレンスモノとしていえば深作の諸作やペキンパーのそれには、泥臭く、さらに汗臭さとかそういうリアリティなり実在感があった。汗臭い人間の生き様の突出した姿としての暴力なりという、そういうものが表出していた。それに対して北野映画の暴力描写は、血なまぐさく、荒々しいはずなのだが、どことなく嘘っぽく、実在感が希薄なのだ。これはある意味、ヤクザ映画、あるいは暴力描写の引用みたいなものじゃねえのかと、観ていてそんな気すらしてきた。
これはひょっとするとメタヤクザ映画みたいなものか。そんなことを思っていると、なんとなくこの作品はタランティーノの幾つかの映画と似ているかなとも思った。「キルビル」とか、その手の類だ。あれはたぶんタランティーノによるヤクザ映画なりへのオマージュ、あるいはパロディみたいなものだったと私なんかは勝手に思っている。だからやっぱりどことなく嘘っぽい。そりゃそうだ、ある種の批評性によって成立したバイオレンスなんだから。
マーケティング的にいえば北野映画のヤクザものは、たぶん東映ヤクザ映画の顧客層(そういうものを観てある種のカタルシスをえるだろう大衆)を対象にした映画だ。東映の任侠モノ、深作の「仁義なき戦い」、このへんは確かに固定ファンがいたはずだったのだ。そうしたファン層は間違いなく再生産されている。彼らの受け皿になっていたるのは、Vシネマのような低予算による完成度の低いものばかりだ。そこにそこそこに制作費をかけ、一流俳優を揃えて、「どうだ」とばかりにヤクザ映画を作ってみた。そういうものなんじゃないかと思えてならない。
さてと2作目を観た以上、前作を観るべきかどうか。いや、これはもういいんじゃないかと思う。あくまで個人の感想としてではあるが。