常盤新平

寒いせいか人が死ぬね。それも自分らが見上げてきたような先輩筋というか、憧れていた人とかが。
http://www.asahi.com/obituaries/update/0122/TKY201301220376.html
この人は小説家となる以前、翻訳家としてアメリカの現代小説やアメリカ文化を紹介する人という風に認識していた。けっこういろいろと読んだよ、この人のエッセイや翻訳ものを。特にニューヨーカーに掲載された短編小説とかはこの人の紹介によって初めて知ったものが多かった。あの分厚いアンソロジー「ニューヨーカー短編集」Ⅰ〜Ⅲを一生懸命読んだものだよ。ソフィストケート(洗練)された都会小説みたいなコンセプトはみんなこの人の著作で覚えたようにも思う。
文筆家かとなる以前は早川書房の名物編集者だったとは知ってはいたけど、改めてウィキペディアの記述とかを読むと、ル・カレを紹介したのもこの人なんだな。本物を見分ける才に優れた人だったということだ。良き読者にして、良き文筆家となり、良き作家になった幸福な人でもあるということか。
代表作はというと直木賞をとった『遠いアメリカ』ということになるのだろうか。でもやっぱりこの人は翻訳モノが圧倒的に良かったとも思う。朝日の訃報記事にもあるけど、アーウィン・ショウの『夏服を着た女たち』はいい短編だと思う。ニューヨークのカフェテラスで倦怠期の中年夫婦の会話を点描したお話。夫は会話に飽きて、街ゆく華やかな薄着の女たちに目移りする。妻に気取られないようにしているんだけど、カミさんからするともうそれがミエミエになってる。そういうしょうもない夫婦の姿とかが短い短編の行間から滲み出ている。こうゆうしょもなさが大人の世界なんだと二十代の私なぞは、ちょっと背伸びしながら思ったもんさ。都会小説、短編小説のちょっとした妙味みたいなものを、こういう作品からなんとなく学習していったようなそんな気億がある。
個人的にはこの人の翻訳モノ、エッセイとかには随分お世話になったような思いがある。ずいぶんと勉強したようなそんな感じである。81歳、まあ普通に訪れるような死である。たぶんにそういうものだと受け入れざるをえない年齢だ。冥福を祈る。