『楽園のカンヴァス』

楽園のカンヴァス (新潮文庫)

楽園のカンヴァス (新潮文庫)

ずっと読みたいと思っていた作品。著者の原田マハは元キュレーターの経歴ある作家。とにかく経歴だけを見るとなかなか華やかなキャリア。

原田 マハ(はらだ まは、女性、1962年7月14日 - )は、日本の小説家、キュレーター、カルチャーライター。東京都小平市生まれ。小学6年生から高校卒業まで岡山県岡山市育ち。岡山市立三門小学校、岡山市立石井中学校、山陽女子高等学校関西学院大学文学部日本文学科、早稲田大学第二文学部美術史学専修卒業。マリムラ美術館、伊藤忠商事、森ビル、都市開発企業美術館準備室、ニューヨーク近代美術館に勤務後、2002年にフリーのキュレーターとして独立。
2003年にカルチャーライターとして執筆活動を開始し、2005年には共著で『ソウルジョブ』上梓。そして同年、『カフーを待ちわびて』で第1回日本ラブストーリー大賞を受賞、特典として映画化される。mahaの名でケータイ小説も執筆する。
ペンネームはフランシスコ・ゴヤの「着衣のマハ」「裸のマハ」に由来する。兄は、同じく小説家の原田宗典
ウィキペディアより

以前にモネやドガセザンヌ等を主人公にした短編連作『ジヴェルニーの食卓』を読んでいてけっこう楽しんだ記憶もある。絵画と画家を題材にする、そういうタイプの作家さんという認識。
この『楽園のカンヴァス』もずっと気になっていた小説。美術史とミステリーは相性がいいという話もあるらしい。実際に名作の贋作に関するお話とか盗品を巡る話とか数多あるようだ。本作そういうミステリーのくくりであるらしいのだが、所謂ミステリーとしてはだいぶん弱いかなとも思う。ストーリー展開にやや難があるし、謎が謎を呼ぶというお話でもない。
ストーリーの縦軸となるべきキュレーター同士によるルソーの幻の名作の真贋を巡る対決も弱い。真贋を決するのが一冊の本を読むだけというのもちょっとだ。
しかしこの小説をミステリーとしてではなく、もっと単純な美術愛好小説、あるいは絵画鑑賞小説とすると、そこには魅力が溢れかえっている。この小説には西洋絵画への愛がつまっているとそんな風に思う。素朴派、元祖ヘタウマ、常に元税関使の冠つきで紹介されるアンリ・ルソーへの愛溢れる小説。それがたぶん総てだと思う。
この小説を読み終える頃には読者はなんとなくルソーに親和性を覚えている。そして画集や美術館でその絵に触れる。するとそれまで単に風変わりな絵として思えなかったそれがなんとも魅力溢れるものに見えてくる。これはまさしく絵画鑑賞小説なのだと思う。
同じような感想を以前『ジヴェルニーの食卓』を読んで感じたし、たぶん書いているようにも思う。twitterではこんな感想も書いている。

そういえば原田マハの『楽園のカンヴァス』は読了。もっと前に読めば良かった。少なくとも絵が好きな人でこの小説の悪口はあまり出ないだろうな。生まれ変わってなりたい職業にキュレーターを追加。

キュレーター=学芸員、日々絵画に囲まれ、その研究に費やす生活。なんとも羨ましい限りだと思う。もちろんそれだけにとどまらず、様々な雑務やしがらみもあるだろうとは思う。でも好きなもののために人生の大部分を費やすことができるのは仕事のあり方としては幸福なものだろうにとも思う。
そのキュレーターよりも絵画と向き合える仕事が存在するとこの小説では語られる。

画家を知るには、その作品を見ること。何十時間も何百時間もかけて、その作品と向き合うこと。
そういう意味では、コレクターほど絵に向き合い続ける人間はいないと思うよ。
キュレーター、研究者、評論家。誰もコレクターの足もとにも及ばないだろう。
ああ、でも−待てよ。コレクター以上に、もっと名画に向き合い続ける人もいるな。
誰かって?−美術館の監視員(セキュリティスタッフだよ)。

この小説に出てくる絵画をまとめて紹介するサイトもあってとても面白かった。
http://matome.naver.jp/odai/2135955626248173201:TITLE