Bud Shank Plays The Music And Arrangements Of Michel LeGrand

風のささやき

風のささやき

正直に話そう、名曲中の名曲「風のささやき〜The windmills of your mind」を、「シェルブールの雨傘」を、そしてフランスの作曲家にしてジャズ・ピアニストであり、秀逸なアレンジャー、コンダクターでもあるミシェル・ルグランを、私はこのアルバムで知った。
このアルバムは1969年の作品である。たぶんその少し後70年代の初めに私の兄が、このアルバムのコンパクト盤、33回転の4曲入りのものを購入してきて、私に聴かせた。私が中学生の時のことだ。当時、私は兄からある意味ジャズの手ほどきを受けていたようで、兄の好きなコルトレーン、MJQ、、デイブ・ブルーベックオーネット・コールマンなどを脈絡なく次から次への聴かされた。なんとなく心地よく聴けたものもあれば、よくわからないものも当然あった。
子ども心にけっこう気に入ったのがこの一枚である。そしてメインで演奏しているバド・シャンクよりも曲を書いたミシェル・ルグランのほうがなぜか鮮明な印象を残した。
高校に入ってからはいっぱしの映画小僧になって名画座巡りをした。場末の二番館、三番館にもずいぶんと遠征した。そうやって「華麗なる賭け」「シェルブールの雨傘」「思い出の夏」などを観て、改めてミシェル・ルグランの偉大さ、素晴らしさを認識した。ある意味、映画から流れてくる曲を聴きながら、バド・シャンクのこのアルバムの演奏を思い出し、ルグランの名曲集みたいなコンセプトアルバムだったんだと改めて気付からされた。
ルグランの曲を一言でいうとどういうことになるだろう。ある意味一言でなぞ言い尽くせないくらい多岐にわたる。でもあえていうなら、エスプリとソフィストケートされたリリシズムみたいなところか。説明しづらいところだが、まあわかる人にはわかる。
とにかくどの曲をとっても、やはりどことなくフランス的だ。それも田園風景とかとは無縁、やっぱりパリの雰囲気である。ルグランは間違いなくパリっ子なんだろうと想像する。ウィキペディアの記述でもそうなっているな。
ミシェル・ルグラン - Wikipedia
1932年生まれで存命だから79くらいになるのか。なんとなく調べてみたら中村八大は1931年生まれである。同世代になるんだね。ルグランがフランスというかヨーロッパを代表するメロディメーカー、サウンドリエーターだとしたら、まさしく中村八大は東洋一のメロディメーカーということになるんだろうな。
ルグランの曲はどれも素晴らしいが、同じくらい素敵なのがピアノだと思う。たいへん理知的で洗練された演奏だ。このアルバムでもピアノはすべて彼のものだが、なんていうのだろう見事なまでにクールだ。だからウェストコースト系のミュージシャンとの愛称は抜群だ。本作ではバド・シャンク他、後に彼と一緒にLA4を組むレイ・ブラウンシェリー・マンも参加しているが、うまいことマッチングしている。レギュラー・カルテットみたいな趣さえ感じさせる。
そしてルグランは本作ではアレンジ、指揮も行っているのだが、これがまたえらく秀逸。ウエスト・コースト系の本流をいっているようなアレンジだ。さらに当然ながらルグラン流のエスプリ、ソフィストケートされたパリ風味が加わる。バド・シャンクの好みに合わせたクール・ジャズとは異なる、ルグラン風のクールが加味されているとでもいうところか。それはストリングスの加え方やアーティ・ケインのオルガンを取り入れているところでもわかる。同じクールでもギル・エヴァンス、オリバー・ネルソンといったイースト系にもつながる風味もかもし出しているような気もする。いや、ストレートにパリ風味といっていいだろう。
私にとっては懐かしいアルバムではある。話は前後するがアマゾンで最近購入した。ルグランのアルバムをつらつら眺めていてヒットして、即効クリックした。ジャズのアルバムとしては大変聴きやすい、ジャズ初心者にも最適な一枚だと思う。ジャズ好きにも受け入れられやすいアルバムだし、もちろん古い映画好きにもたまらないのではと思う。
しいてうらみというか、物足りなさというか、文句ではないが一言みたいに付け加えれば、最後の曲「双子姉妹の歌」が1.52秒と短すぎるのが残念である。このもともとジャズテイスト溢れるミュージカル・ナンバーである。バド・シャンクに思い切り吹きまくって欲しいのに、ルグランに入神のピアノソロが聴きたいのにと思う。ライブとかでこれを延々やってくれたらさぞや盛り上がるのになどとも思ったりもする。本当にあっという間に終わってしまって残念。
でもとにかくトータルに良くできたアルバムだと思うし、愛聴盤の一つとして残りの人生の中では、折にふれ引っ張り出しては聴くことになると思う。