労働契約法改正

先日、やはり中小企業の経営やっている友人と酒を飲んでいたときの話。会社のパートさんで妊娠された方がおり、産休後も復帰したいということがあった。そこそこのベテランだし、出来れば復帰させたいとは思うが、これまでに前例がない。パート就業規則にも、もちろん産休の規定があるにはあるのだが、それは契約期間中のことである。この方の場合、出産予定日は、契約満了日の後になる。となると次の契約を結んでも、契約当初は産休で出社できない。六ヶ月の契約のうち、ほぼ半分は産休でお休みされることになる。これはいくらなんでもあかんやろとは思った。
いちおう社労にも相談したところ、次の契約を結んでも実質的に出産及び産後の休暇等で出社できない、つまり労働の提供ができないことになるので、労働契約を結ぶのは困難という見解。まあもっともな話である。ということで、本人にも現在の雇用契約内では就業規則に基づいて産休をとるのは問題ありません。ただし、次回の契約は原則としてできないこと、事情は個々にあるにせよ、しばらくは育児に専念されるようにみたいなことをお話した。
そういう話をしていたところ、友人が「そのパートはどのくらい働いている」と聞くので、7〜8年くらいになると答えると、「5年以上だと、ちょっと問題になるかもしれない。なんか法律が変わったみたいだし」みたいなことだった。
なので早速ネットとかをググると、ありました、ありました、これです。
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/keiyaku/kaisei/:TITLE
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/keiyaku/kaisei/dl/gaiyou.pdf:TITLE
改正のポイントはPDFにあるとおりこの3点。

1 有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換
2 有期労働契約の更新等(「雇止め法理」の法定化)
3 期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止

まったく、原発の再稼動だの、消費増税だの、あるいは尖閣竹島やオリンピックの陰に隠れて、なにこういう重要なことを、ほとんど議論もせずに決めちゃうのと、声を大にして思いましたね。ACTAもそうだけど、この法案もほとんど報道されることなかったように思う。
まあ、この法律はある意味、有期雇用労働者、パートや派遣、嘱託の皆さんには朗報なのかもしれないけど、中小企業にとってはえらくしんどいことでもある。現状でいえば、パートさんは雇用の調整弁なのである。正社員の雇用を守るためには、申し訳ないけれど、場合によっては雇い止めとかも考えなくちゃいけなくなる。まあ一般論的にいえばだね。
自分のところに限っていえば、時給もたぶん安いけれど、有給はきちんと与えているし、その消化について規制したことなんかないから、ベテランパートさんはだいたい年間20日消化してもらっている。雇い止めだって、これまでのことでいえば、1回あったくらいか。それも理由は別の案件があったからである。多くは語れないけど、ようは実務上の問題とか、まあもろもろ。
それでも有期雇用と無期雇用ではまったく異なるのである。ただでさえ、正社員は60歳の定年後も5年間は雇用延長しなければいけない。ようは若い労働力を雇うことができなくなるなんだよ。こういうのは中小企業にとってはかなり痛い。組織の若返りなんて、ただでさえ出来ないんだから。
なんでこういう制度というか、法制化がなされるかって、国的には非正規労働者からもきちんと税金とりたいから、そして年金の支払い時期を遅らせて、それまではきちんと民間で雇用させてみたいな、そういういびつな考え方があるんじゃないか。
この法改正の話をすると、立場を同じくする中小企業のオヤジたちはみな、これじゃ企業はやっぱり国から逃げ出すよと、口々に言う。産業空洞化が進むと、そういう話になるわけだ。もっとも、中小企業は海外に逃げそうにも、そりゃ無理なことだし、まあ国内で凌いでいくしかないんだろうけど。ただね、先にも書いたが、本当に若い人の雇用はなかなか難しくなるんじゃないかとは思う。
そうなるとどうなるか、正社員も嘱託もパートも、みんな無期雇用となると、簡単に考えればね、ワークシェアリングしかないのかなとも思う。ようは正社員の様々に優遇された部分を削ってね、それを分かち合うみたいなことになるんじゃないのかな。正社員のベアとか定昇、賃金の後払いみたいなことで定着している賞与の月数も見直す。そうやって原資の配分を見直さざる得なくなるんだろう。
早い話、みんな無期雇用になるのだったら、正社員も年俸制にして、社員とパートの賃金格差を縮める。長く勤めれば、だんだんと賃金があがるみたいな、これまで当たり前だったことが難しくなるのだ。従業員の賃金を等しくじょじょに上げていくならば、上げる率を出来るだけ小さくする、まあそういう姑息なことでも考えていかなちゃならないということだ。もちろんがんがん右肩上がりで業績が上がるなら、全然別なんだけども。
とにかくうちのところは、ベテランパートが多いので、けっこう切実な問題でもあるのだ。みんな5年以上働いてくれているし、こりゃアウトだよなと、まあそういうことだ。いろいろと思い巡らすことはあるのだが、一応社労にもメールとかで、対応について照会してみることにしたのだが、社労の答えは意外と簡単でしたね。今回の法改正については、あんまり深刻に考える必要はないという。
その理由というのは、以下のような通達がある、その最後に以下のようになっているから。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002hc65-att/2r9852000002hc8t.pdf

2 経過措置(改正法附則第2項関係)
法第18条(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)の規定
は、同条の施行の日以後の日を契約期間の初日とする期間の定めのある労働
契約について適用し、当該施行の日前の日が初日である有期労働契約の契約
期間は、同条第1項の通算契約期間には算入しないものとされたものである
こと。

ようは法律の施行日以後に労働契約した場合に適用されるということだ。法律自体は8月10日に公布されているけれど、施行日は公布から1年以内の間で、いま現在は施行されていない。仮に来年1月10日に施行された場合は、その日以降に契約された労働契約について適用されるということで、労働者の申し出で有期雇用から無期雇用への転換は、その5年後になるということだ。実際の法律にあたってみると、なるほど一番最後の附則のところに以下の条文がある。

第二条の規定による改正後の労働契約法(以下「新労働契約法」という。)第十八条の規定は、前項ただし書に規定する規定の施行の日以後の日を契約期間の初日とする期間の定めのある労働契約について適用し、同項ただし書に規定する規定の施行の日前の日が初日である期間の定めのある労働契約の契約期間 は、同条第一項に規定する通算契約期間には、算入しない。

まったくのところ法の抜け穴ということである。現在、長く務めている有期雇用の労働者には適用されませんということなのである。あくまで法律施行後の労働契約で5年を経過した場合にはということである。さらに六ヶ月のクーリング期間を経た場合も適用されない。

原則として、6か月以上の空白期間(クーリング期間)があるときは、前の契約期間を通算しない。

なんか意味ね〜と思わざるを得ない。どこぞの経営者が考えることは、毎年更新を続けるベテラン有期雇用従業員には、5年近くなったら、一度雇い止めする。たぶんこんな文句を並べ立てて。
「○○さん、長く働いてくれて有難いんだけど、やっかいな法律があるんで、申し訳ないけど、6ヶ月だけお休みしてくれるかな。6ヶ月経ったら、まあその時の状況にもよるけど、また来てくれるかな」
みたいな感じである。で、6ヶ月後はたぶん雇用はないだろうな。労働者だって、もちろん次の仕事が見つかれば、そっちでずっとと思うだろうし、会社側だって労働力が必要なら、すぐに次の人を雇うもの。
そういう意味じゃ、あんまり効果的じゃない、というかろくでもない法律じゃないかとも思う。労働者にとっても、企業にとってもメリットないものね。ただし確実にいえるのは、今後は短期で雇い止めが横行することになっていくんじゃないかと、そんな気がする。