就業規則改正とか

 春先から進めていた就業規則改正がようやく山を越した。何度か議論を重ねこちらで改正案を作り、社労にも全部チェックしてもらい(もちろん金がかかる)、決定稿ができた。これを従業員に説明し、従業員代表からの意見書を出してもらう。ここまで行けばあとは労基署に持っていくだけだ。
 改正するのは正社員就業規則、嘱託就業規則、パート就業規則の三本、併せて正社員の賃金規定も改定したので、実質的には四本となる。改正に至ったのは例の改正労働契約法である。2013年に施行された改正労働契約法は大きくは三本の改正点がある。

(1) 無期労働契約への転換(5年ルール)
同じ企業で有期労働契約がくり返し更新され通算5年を超えた場合、労働者は企業に申し込めば、働く期間に定めのない雇用(無期労働契約)に転換できるルール。“5年”には過去の契約期間を含まず、本法施行日以降に始まる契約を起点としてカウントするため、実際に無期雇用への転換を選択する人が現れるのは、早くて2018年4月以降になる。
(2) 「雇い止め」法理の法定化
契約が何度も更新されている場合、使用者は正社員の解雇と同様に、合理的な理由なしに契約更新の拒否=「雇い止め」ができないルール。労働者保護の観点から、過去の最高裁判例で「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない」場合は雇い止めを無効とする判例上のルール(雇い止め法理)が確立しており、本改正で条文化された。
(3) 不合理な労働条件の禁止
有期雇用を理由として不合理な労働条件の相違を設けることを禁止するルール。有期契約労働者と無期契約労働者との間で賃金や休息時間、福利厚生などの待遇に差をつける場合は、仕事内容や責任の程度などからその差が不合理でないことが求められ、違反する労働条件は無効となる。
ー日本の人事部より
「改正労働契約法」とは? - 『日本の人事部』

 この無期転換ルールが問題になる。嘱託社員やパート従業員は就業規則上は期限を設けて労働契約を結ぶ労働者と定義している。これが前提から覆るのだから。5年連続して毎年1年間の労働契約を結んでいる人は、5年経過した6年目無期転換申込権が発生する。平たくいえば労働者が「無期に転換してください」と申し出たら、会社は無期に転換しなくてはいけなくなる。
 ある意味画期的なルールではあるのだが、当然法律には抜け穴がある。今回の労働契約法の改正、実は大変なザル法だ。その一つがクーリングオフというもの。これは5年目の契約の前に一定の非契約期間を置くことで無期転換申込権がなくなるというもの。6ヶ月の契約の場合は3ヶ月、10ヶ月以上の契約の場合6ヶ月の猶予期間をおけば権利は消滅する。
 ようは4年目から5年目の間に、一旦半年お休みしましょう。6ヶ月後にまた来てくれれば雇いますからみたいなことだ。とはいえその6ヶ月の間も仕事はあるわけなんで、当然別の人を雇う。そうなると6ヶ月後にまた来ましたといっても、仕事ありませんからごめんみたいなことも当然予想される。
 そしてもう一つの抜け穴が、無期転換後の雇用条件について。まあ普通に考えて有期雇用から無期雇用に転換するのだから、無期雇用イコール正社員と思うだろう。ところがこの法律では有期雇用の時の労働条件をそのまま無期転換後も適用していいことになっている。例えばパートさんが時給900円で働いていたら、無期転換後も時給900円のままで仕事をさせていいことになっている。
 もうなんていうか実にザル法である。とはいえ有期雇用は雇用の調整弁でもある訳なので、おいそれと無期転換などしたくないと思うのが世の常、世の経営者の考えること。2013年4月施行なので実際に無期転換申込権が発生するのは2018年4月の契約後である。世にこれを2018年問題として一部の経営者の間でヒソヒソと「どうする、こうする」みたいな話になっている。
 おそらく、おそらくだが、中小企業を中心に来年早々から、雇い止めのオンパレードになる可能性があり、一気に社会問題になるかもしれない。もっとも大企業はこの辺の準備は周到にされているようで、厚労省のHPにもあるような無期転換後の雇用の受け皿として「多様な正社員」「限定正社員」といった、正社員よりも賃金の安い雇用形態をすでに制度化しているところもある。ようは転勤等もなく、中心的な業務を行うが、出世とかもない限定正社員という身分だ。労働時間も正社員よりも短かく設定することも可能。
 例えば銀行の窓口業務やっている女性とかは、ここ20年くらい一気に正社員から派遣社員に移行していたようだが、これを地域限定正社員という形にしたりしている。ユニクロの店員さんとかもその店舗に限定した正社員だと聞いたことがある。あれは結構ブラックで、給料は安い、労働時間は長い、おまけに社販で服は買わされるとか色々な噂がある。あくまで噂である。
 自分のいる会社も有期雇用の嘱託社員やパートさんがけっこう沢山いる。長い人によっては10年選手もザラだ。かといってそういう人たちをいきなり雇い止めするようなことはできないし、それは業務的にけっこうしんどくなる。なので今回は法改正に併せて就業規則をそれぞれ改正することにした。一つはまず嘱託社員に変わる準社員制度を設けて嘱託社員の無期転換後の受け皿にした。業務や労働時間を限定することで、社員よりも若干給与を低くするが、これまでついていなかった諸手当や退職金をつける。
 さらに有期雇用前提の雇用定義に、無期雇用も定義し、無期雇用であれば当然発生する傷病等の休業制度もそれぞれ設定した。
 一応三本立てなので、正社員、嘱託、パートとそれぞれ別個に集めて説明もした。それぞれから選出された従業員代表からの意見書も書いてもらった。あとは労基署に提出するだけ。とりあえず今年上半期の課題だった仕事というか、山を一つ超えた感じである。