無期転換ルールの実践

 改正労働契約法が施行されたのが2013年4月、いよいよ5年を迎える来年2018年には無期転換ルールが適用される。おさらい的に無期転換ルールを厚労省HPから引用するとこういうことになる。

労働契約法の改正により有期労働契約が反復更新されて通算5年を超えたときに、労働者の申込みによって企業などの使用者が無期労働契約に転換しなければならないルール


 派遣や契約社員、パートといった有期契約労働者は、使用する側からすればたいへん便利な雇用形態だ。安い賃金で働かすことができ、正社員のように簡単には首が切れないということもなく、業績が悪くなり、人員整理をしたいときには真っ先に対象となる。まさに雇用の調整弁ともいえる。
 そのため多分、1990年あたりから正社員をじょじょに減らし、契約社員派遣社員、パートを増やしてきたというのが日本の就労実態だ。バブル崩壊以降の長く続いた景気減退期をそうやって乗り越えてきたという必要悪な部分もあるにはあった。しかし景気が上向いてもいっこうに雇用は、好転することがない。そのため無期雇用=正社員と有期雇用=派遣、契約、パートとの格差は拡大する一方である。
 実際のところ、この間パートや嘱託、あるいは正社員の募集を行っても、それこそ学校を卒業して以来、一度も正社員を経ることなく、契約、派遣、パートを繰り返して40代になるといった男性が少なからずいた。雇用、就業が安定していないから、当然のごとく独身である。そういうシビアな状況を送ってきた方が多数いるのである。たまたま景気後退期に就労年齢となったばっかりにである。
 そうした状況を是正するために労働契約法を改正して、継続更新を続ける有期雇用労働者を無期転換するよう企業に義務付けたのがこの無期転換ルールだ。これは民主党政権下の善政の一つであるといってもよいと思う。とはいえこの法律を通すにあたっても、当時野党だった自民党の反対もあり法律は骨抜きにされた。
 その一つは無期転換がそのまま正社員を意味せず、企業は無期転換した労働者を有期雇用時の労働条件のまま働かせることが出来る。つまり、例えば時給900円で働いていたアルバイトが5年を契約を更新して無期転換を申し込んだとする。すると企業はそのアルバイトを時給900円のアルバイトのまま無期雇用するという。給与待遇面はまったく変わらない。これがこの法律がザル法であるいわれる所以の第一だ。
 さらにクーリングオフという制度により、企業は5年継続更新をする前に、いったん契約を解除することができる。例えば4年継続している契約社員に、一度契約を解除する。すると無期転換申込権はリセットされ、また1年ずつの雇用契約が可能となる。クーリングオフは通常1年契約の労働者だと、半年契約をしなければ無期転換の権利は解消される。
 企業は「〇〇さん、あなたは継続更新が4年続いていますので、申し訳ないけど半年仕事休んでいただけます」みたいな申し入れをする。そして半年後にその労働者がまた仕事をしたいと言ってきても、多分その仕事は別の労働者によって埋まっている。つまりは合法的に雇い止めが可能なのである。
 現に、1年ごとの契約が多い大学の教員たちが次々と雇い止めにあっているという報道もある。確か東北大学が一斉に1年契約の教員、職員の首を切ったというニュースを耳にしたこともあるし、東大もそういう動きがある。
 法律が施行されたのが2013年なので来年の4月以降に申し込み権が発生するため、あちこちで雇い止めの動きが活発化しているのではないかと思う。もっとも団塊世代が一斉リタイアしたここ数年あたりから、就業労働人口が減少しているため、あちこちで人手不足も顕在している。なのだが一向に正規社員が増えない状況でもあり、派遣、契約切りは増加するのではないかという気もする。あちこちで5年継続の前に雇い止めされた労働力が、他の人手を必要とする業種に移るという形で雇用は流動化していくのではないかという予測もできるかもしれない。
 厚労省はこうした無期転換に合わせて、企業に正規社員を雇用するよう促す施策も行っている。その一つが正社員とは異なる無期雇用労働として提案された限定正社員、いわゆる「多様な正社員」というやつである。これはすでにユニクロや銀行の支店などが採用している、転勤等がない地域限定正社員や、事務なら事務、工場労働なら工場労働に特化した業務限定正社員といったものだ。大体が正社員よりもはるかに安い賃金で長時間労働を強いられているという実態もある。それでも有期雇用よりは安定した環境にあるのかもしれない。
 なぜこの話を延々と書くかといえば、自分のいる会社にも嘱託社員という名の有期雇用労働者がいる。長い人では10年以上、短い人でも3年くらい勤務している。改正労働契約法の話が話題になった2013年からずっと懸案事項ではあったので、それなりに学習もしたし無期雇用にできるかどうかの検討も図ってきた。とはいえ零細企業にあって女性で業務が限定され、ほとんどが40代後半から50代という人たちを正社員化するのはいろいろと厳しい問題もある。正社員の中にはそれを面白くないと思う者だっていないこともない。
 とはいえ長く勤めている人たちをできれば安定した状態にしたいし、それはある意味企業にとっての義務なのかもしれないという思いもあった。なので今年になって就業規則を整備し限定正社員の制度を設けた。給与はただでさえ安い正社員の9掛けにした。ただし家族手当といった諸手当もつけ、退職金も払う。60歳定年後は定年嘱託社員として65まで働けるといった道筋もつけた。
 こと今年に限っていえば駆け足で進めてきた。そのうえで今日、全員と雇用契約を結んだ。給与は安いが出来るだけ雇用を確保安定化させる。こういうご時世、ワークシェアリングではないが必要なことではないかと思ってはいるのだが。