菅首相指示による海水注入中断という安倍晋三の虚言

菅元首相の原発対応パッシングのおそらく基になったのが、例の3月12日の福島第一原発1号機への海水注入中断の件だ。それが後の調査や報道ではまったくのデタラメであり、菅元首相からそうした指示が出たこともなく、また実際に海水注入中断が行われていないことも明らかになった。
それでは誰がこのガセネタを流したのか。幾つかの報道を読み取っていくと、そのニュースソースが自民党の元首相である安倍晋三のサイトにあることが明らかになっている。いわば民主党政権への対抗勢力であり、菅直人の政敵でもある自民党の有力政治家が、時の首相である菅直人にダメージを負わせるために虚偽の内容を流したということだ。
それに対して安倍晋三からの弁明は一切ない。それ以上に恐ろしいのがこの男、恥知らずにもいまだに自らのホームページにその虚言をそのままアップし続けている。普通、フレームアップを企てて、それが露見したら政治家にしろ、マスコミにしろ、信用の総てを失う。それがたぶん公的な常識であり、欧米では普通のことだろう。しかし美しい国を主張し続ける胃腸に病気を抱えるこの政治家はまったく無反省なまま、このままいくと次の総選挙で政権に返り咲いた暁にはもう一度政権を目指そうと意欲満々なのである。
通常、HP上で虚偽、ガセネタを流したり、引用したりすれば、それが虚偽であることが判明したら、普通ならアップを削除する。それが責任への対処の一義的措置であるだろうし、とりあえず言い逃れするためにも最初に手をつけることだろう。政治家にしろ、企業にしろ、公的な立場ならたぶん確実にそうする。私的な個人サイトであってもいちおうはそうする。炎上とかやっかいなことも嫌だし、まあ普通に倫理的に嘘つきのままでいたくないという心情からもそうだろう。
しかし安倍晋三はそのことにすら気がつかない。1年近くたつ今でさえまだアップし続けている。いつ削除するかと、たまにのぞいてみるのだがいっこう削除される気配もない。一応念のためリンクと、記録の意味で全文を引用する。
http://www.s-abe.or.jp/topics/mailmagazine/2291

菅総理の海水注入指示はでっち上げ』
最終変更日時 2011年5月20日
福島第一原発問題で菅首相の唯一の英断と言われている「3月12日の海水注入の指示。」が、実は全くのでっち上げである事が明らかになりました。
複数の関係者の証言によると、事実は次の通りです。
12日19時04分に海水注入を開始。
同時に官邸に報告したところ、菅総理が「俺は聞いていない!」と激怒。
官邸から東電への電話で、19時25分海水注入を中断。
実務者、識者の説得で20時20分注入再会。
実際は、東電はマニュアル通り淡水が切れた後、海水を注入しようと考えており、実行した。
しかし、 やっと始まった海水注入を止めたのは、何と菅総理その人だったのです。
この事実を糊塗する為最初の注入を『試験注入』として、止めてしまった事をごまかし、そしてなんと海水注入を菅総理の英断とのウソを側近は新聞・テレビにばらまいたのです。
これが真実です。
菅総理は間違った判断と嘘について国民に謝罪し直ちに辞任すべきです。

さらに翌々日22日に若干トーンダウンしながら嘘をさらに塗り固める。
http://www.s-abe.or.jp/topics/mailmagazine/2295

海水注入問題・全責任は菅総理
最終変更日時 2011年5月22日
『真実は一つです。』
3月12日20時20分の海水注入は菅首相の英断ではなかった。
この点については既に官邸はウソをついていたことを事実上認めています。
しかし19時25分の海水注入中断については、班目原子力安全委員長が再臨界の危険性を指摘し、その意見に従い東電が勝手に中断したと昨日政府は発表しました。
皆さん! 嘘は長持ちしません。
その日の夕刻、班目委員長は報道機関の取材に対して、「専門家としてそんな発言するわけがない」と官邸の発表を全否定しました。
班目委員長は「水を入れる事による再臨界の可能性は無いわけではないが、すでに淡水を入れているなかで淡水を海水に切り替えたからといって再臨界を心配するようなことなどありえない。
原子力のイロハのイだ!」と言い切りました。
官邸はイロハのイも解らずに嘘ついた事になります。
私はその事も怖いとおもいます。
怒鳴りまくり致命的に間違った判断をする総理。
嘘の上塗りに汲々とする官邸。その姿は醜く悲しい。
菅総理、あなたは、3月11日、原子力災害対策特別措置法にのっとり原子力緊急事態宣言の発令をした。
その結果あなたは大きな権限をもった。東電もあなたの指揮に入った。
全ての責任は総理にある。
海水注入を一時間近く止めてしまった責任はだれにあるのか?
菅総理、あなた以外にないじゃありませんか。
真実は明らかです。
それを私達は知っています。

さらに2日後、この件を理由に菅政権への不信任をあおる記事をアップする。
http://www.s-abe.or.jp/topics/mailmagazine/2301

海水注入・コロコロ変わる政府説明
最終変更日時 2011年5月24日
うーん解らない。やはりおかしい。
昨日の委員会での菅首相の答弁に対して多くの方がこう思われたのではないでしょうか。
3月12日の海水注入について、政府の発表はコロコロ変わり、その結果意味不明な点がいくつもあります。
それをごまかそうとすれば訳がわからなくなるのは当たり前でしょう。
「試験注入」とは何なのか?
注入後何分で止めるのか?
そうであれば何故止める指示をするのか?
上手く行けばそのまま続けるのか?
なぜ初めから試験注入実施を発表しなかったのか?
「試験注入」はそもそも本当にマニュアルにあるのか?
「試験注入」は、「海水注入の中断指示」をごまかすための表現だった、と考えれば胸にストンと落ちます。
官邸に居た東電の武黒一郎フェロー(前副社長)は班目委員長の「海水注入により再臨界の危険性がある」との指摘で、東電に海水注入中断を伝えたと、政府は発表しましたが捏造である事が後の班目氏の証言で明らかになりました。
その後、官邸の要請で、「再臨界の可能性はゼロではない」との発言に訂正し班目氏も了解しました。
今日の委員会では「ゼロではないと言ったのは事実上ゼロという意味だ」と述べています。
つまり再臨界の危険性発言の全否定ですね。
なぜ官邸は発言をすりかえたのか?
せっかく始まった海水注入を中断する理由としては、「ゼロではない」では弱すぎる、という理由でしか有り得ないからでしょう。
このどちらにも取れる極めて消極的な進言で重大な判断をするでしょうか?
そんなはずはありません。
官邸もそう考えたから言ってもいない発言を創作したのでしょう。
誰の発言が、海水注入中断という重大な判断に、決定的影響を与えたのか?誰の指示なのか?
18時に海水注入指示と政府は発表していながら、 18時から海水注入の是非を検討するための会議を開いたと理解に苦しむ説明をしていますが、この検討会議の主催者は菅総理でしょう。
菅総理の発言により注入は中断させられたと考えれば、すべてはつながります。
東電は注入について保安院に報告したと言っています。
官邸の会議には保安院も東電も入っていて、会議の主催者、最高責任者である総理の菅氏が知らない。
もしそんな事が起こったとすれば現政権は政府の体をなしていません。
いずれにせよ原子力緊急事態の布告をした以上、最高責任者つまりCEOは、菅総理です。
「東電が」との大好きな言い訳は通りません。
いよいよ不信任案提出の時は迫りました。

20日安倍晋三の記事をもとに読売は以下の記事を組む。確か記憶では他に産経同様の記事を出している。
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20110520-OYT1T01217.htm
しかし読売もいまだに記事をアップしているのには笑えるな。結果として虚偽のニュースを流したのに反省するでもなく、記事を削除するでもなくこうして恥じの上塗りを続ける。これが日本一の発行部数を誇るメガマスコミの姿なのだろうか。

首相の意向で海水注入中断…震災翌日に55分間
 東京電力福島第一原子力発電所1号機で、東日本大震災直後に行われていた海水注入が、菅首相の意向により、約55分間にわたって中断されていたことが20日、分かった。
 海水を注入した場合に原子炉内で再臨界が起きるのではないかと首相が心配したことが理由だと政府関係者は説明している。
 臨界はウランの核分裂が次々に起きている状態。原子炉内での臨界には水が必要だが、1号機は大震災直後に制御棒が挿入され、水があっても臨界にはなりにくい状態だった。
 東電が16日に発表した資料によると、1号機の原子炉への海水注入は震災翌日の3月12日の午後7時4分に開始された。それ以前に注入していた淡水が足りなくなったため、東電が実施を決めた。
 複数の政府関係者によると、東電から淡水から海水への注入に切り替える方針について事前報告を受けた菅首相は、内閣府原子力安全委員会の班目(まだらめ)春樹委員長に「海水を注入した場合、再臨界の危険はないか」と質問した。班目氏が「あり得る」と返答したため、首相は同12日午後6時に原子力安全委と経済産業省原子力安全・保安院に対し、海水注入による再臨界の可能性について詳しく検討するよう指示。併せて福島第一原発から半径20キロ・メートルの住民に避難指示を出した。
 首相が海水注入について懸念を表明したことを踏まえ、東電は海水注入から約20分後の午後7時25分にいったん注入を中止。その後、原子力安全委から同40分に「海水注入による再臨界の心配はない」と首相へ報告があったため、首相は同55分に海江田経済産業相に対し海水注入を指示。海江田氏の指示を受けた東電は午後8時20分に注入を再開した。その結果、海水注入は約55分間、中断されたという。
(2011年5月21日08時11分 読売新聞)

これについて朝日新聞特別報道班による連載記事をまとめた『プロメテウスの罠』による海水注入問題の事実関係は、朝日の取材によればということになるがこういうことになる。

「炉へ海水注入せよ」
首相の菅直人経済産業相海江田万里らが海水注入の実施について話し合ったのは12日午後6時。だがそれまでにも官邸では早期の海水注入の実施が話題になっていた。
その日の午後早く、官邸地下の危機管理センターで内閣危機管理監の伊藤哲郎と原子力安全・保安院の幹部職員が海水注入を巡ってやりとりをしているのを何人かが聞いている。
伊藤「冷却水注入といっても、普通の水じゃ足りないだろう。海水を注入できないのか」
保安院「炉に海水を入れたらいけません。炉が使えなくなります」
伊藤「その真水はどこからどれくらいを運べばいいんだ」
保安院「・・・・・・・・・・」
1号機にはこの日早朝から消防車を使って、1000リットル単位の真水を注入していた。真水は量に限界がある。原発は海の近くだ。大量の海水を入れて、とにかく原子炉を浸してしまおうというのが海水注入だ。
東京電力社長の清水正孝は午後2時50分、海水注入の実施を了解した。その4分後、福島第一原発所長の吉田昌郎は、所長権限で海水注入を実施するよう指示を出した。
そのころ、官邸の海江田は「海水の注入をいつまでもやらないのなら命令を出す」と発言した。
午後3時半になって、やっと海水注入の準備が整う。
その直後、1号機が爆発した。海水注入の作業が止まった。
海江田は、原子炉等規正法に基づき1号機の原子炉を海水で満たす応急の措置を撮るように命じた。同時に保安院に海水注入をを命令する文書を準備するように指示した。
そして、午後6時。総理執務室がある5階に、菅や海江田、官房副長官福山哲郎首相補佐官細野豪志が集まった。
それに、原子力安全、保安院次長の平岡英治、原子力安全委員長の斑目春樹、東電はフェローの武黒一郎、原子力品質・安全部長の川俣晋。
武黒は「爆発で機材が損傷を受けた。海水注入に1時間半から2時間かかります」と言った。
その場では、海水に含まれる塩分によって炉が腐食する可能性や燃料棒が溶けて再臨界状態になる危険性などについて議論になった。
「準備に2時間ほどかかるなら、その間に再臨界があるかどうかも検討しておいてくれない」
菅はその場にいた人間にそういい渡し、20分ほどで散会とした。武黒が電話をかけた。
次の手、提案がない。
12日夕、海水注入を巡る官邸での会議が終わった。その後、東京電力フェローの武黒一郎は、福島第一原発所長の吉田に電話した。
海水注入について、総理は再臨界を含めて懸念している。総理の理解を得ることが重要だ・・・・・・・・・・・
吉田は「もう海水の注入を開始している」と報告した。それに対し、武黒は「官邸で検討中なので、海水注入は待ってほしい」と伝える。吉田から相談を受けた本店側も中断はやむを得ないという意見だった。
だが吉田は中断せず、そのまま注入を続けた。
政府の事故調査・検証委員会の中間報告はその線で書かれている。
官邸では、東電内部でのそんなやりとりを知らなかった。
午後7時35分、首相補佐官細野豪志が総理執務室に入り、海水注入が可能になったことを報告した。
官房副長官福山哲郎のノートにはこうある。
<ポンプ動く><管(ハイプ)生きている>
官邸側はこのときに初めて海水注入ができるようになったと認識した。
以上が、後に『首相が海水注入を止めた』と野党から批判されることになる事件のいきさつだ。
菅は振り返る。
「注水を真水から海水に変えることと再臨界とは関係がない。武黒さんも技術者だから、そのことは分かっているはずだ」
「それなのに、どうして海水注入と再臨界が結びつけられて、注水を止めた止めないの話になったんだ」
細野は、海水注入の話しのほか、1号機の爆発が格納容器の爆発ではなかったと報告した。
「爆発直後は線量が上がりましたが、午後4時15分からは急速に落ちています。爆発は建屋で、格納容器ではありません」
ほっとした空気が流れた。
中枢メンバーの会議が再開された。菅は午後7時55分、経済産業相海江田万里に海水注入をするよう指示した。その後、海水注入開始が菅に報告されることになった。『プロメテウスの罠』 P251-254

海水注入についてアエラの記者大鹿靖明の渾身のレポート『ドキュメント福島第一原発事故メルトダウン』ではこう記されている。長い記述であるが全文引用させてもらう。

柳瀬(経産省官房総務課長)が総理執務室や秘書官室のある官邸5階に着いたのは、3月12日午後5時ごろだった。
広めの応接室に、東電、保安院原子力安全委員会、原子炉メーカーの東芝などからやってきた人間が30人前後いた。すでに参集しているほとんどの者がパニック状態に陥っているように柳瀬には見えた。官邸地下の危機管理センターでは携帯電話がつながらず、かえって情報過疎に陥る。しかも、地下には、三陸津波被害に対応するため、各省庁から集められた緊急参集チームが陣取っており、騒がしく話がしにくい。そこで菅の執務室がある5階の応接室が代わって指揮所に使われている。そこに総理が出入りする。
午後6時ごろ菅が姿を現した。斑目が「とにかく水を入れる。真水が入らないのならば海水注入を」と言っていた。官房長官の枝野も加わって激論を戦わせている。
このときに菅が「海水を入れて再臨界をしないのか」と斑目たちに問いただした。再臨界とは、いったん止まっていた核分裂反応が何らかの理由で再び始まることを意味する。いちど核分裂反応が連鎖的に始まると、もはや制御することも難しく、大規模なエネルギーが発生して原子炉は爆発しかねない。そうなれば放射性物質は広範に撒き散らされ、東日本の広範囲が汚染にさらされる。このとき菅の「海水を入れて再臨界しないのか」という質問に対し、斑目は「再臨界の可能性はゼロとはいえない」と答え、この場にいた者たちを驚かせた。そばにいた福山は「ゼロとはいえない」という斑目発言は、「可能性がある」ということと同義と受け止め、再臨界が起きかねない危機感を感じている。斑目は「可能性としてはゼロではないでしょう、再臨界の危険性がないのかと言われれば、絶対にない、と言うはずもない。それはゼロではない」と思っていた。
菅が「海水を注入することで問題はないのか」と聞くと、誰かが「海水を入れたら塩ができて流路がふさがる可能性があります」「塩分で腐食する可能性があります」などと問題点を列挙する。菅はさらに「ホウ酸を活用してはどうか」などと畳み掛ける。
このとき東京電力の武黒フェローから、「1号機の爆発の影響で、現地で海水注入の準備が完了するには1時間ほど時間がかかる」と伝えられたため、そのあいだの時間を利用して海水注入に課題がないかどうか調べることとなった。協議は1時間半後に再開という仕切りになって、いったん官邸での話し合いはお開きとなっている。
ちょうど、官邸での協議が中断しているころだった。福島第一原発の現場では、1号機の爆発によって損傷した消防車のホースに代わって、消火栓のホースをかき集めて消防車につないで、海水注入の準備が完了した。午後7時4分、現地の吉田所長の判断で注入にゴーサインが下され、やっと海水注入を始めることができた。
武黒は官邸での会議が再開されるまでに、海水注入のためのポンプはあるのか、注入用の配管に破断はないのか、海水をいれて原子炉の制御が可能なのか−の3点について調べるよう求められた。このときことを福山は、武黒が水が入るかどうかわからないと危惧してたい、と記憶している。武黒は吉田に問い合わせてようと電話を入れた。すると吉田は「もう海水注入を始めていますよ」と言った。それを聞いて武黒は驚いた。海水注入が現場の判断ですでに始まっているとは知らなかったからだ。
武黒は「判断される方(菅)の了解を得られていない段階で海水注入を続けることはできない」と「場の空気」を読んだ。吉田がやっと始めることのできた海水注入を。「いったん停止したほうがいい」そう吉田に命じた。「いま官邸で検討中だから待ってほしい」。強い命令口調だった。すでにちゅうにゅうしてしまった海水については、原子炉内に入れることができるかどうかを試すための「試験注水」という位置づけにしよう。そういった。後に官邸のホームページに「試験注水」と記載されるようになったのは、だからだった。
このときの武黒には、菅直人から明示的に海水注入をやめろという命令があったわけではない。むしろ官邸の「空気」を察してのことだった。
「まったく、そういうおもんぱかりをするわけだ。あの連中は。官邸にいる人と本店にいる人と現場の人と全部コミュニケーションがずれている。何かを隠しているか、あるいは判断ができないんだ」
菅はこのときのことをそう振り返った。武黒の余計な「おもんぱかり」である、と。
空気を読んだ武黒の「おもんぱかり」を受けて、東電本店の清水正孝社長は午後7時25分、現地の吉田所長に対して、海水注入を止めるよう指示した。
それを聞いた吉田は、だが、従わなかった。やっとスタートできた海水注入をいまさら中断する気になれない。冷やし続けなければ、危機が深刻化するのは自明の理だったからである。そのためには海水を注入し続けなければならない。
そこで吉田は一芝居打つことにした。海水注入の担当者を呼んで、テレビ電話会議システムのマイクで音を拾われたり、周囲に聞こえたりしないような小声で、「これから海水注入の中断を指示するが、絶対にやめないでくれ」と、因果を含めた。
その後、免震重要棟の緊急時対策室全体に響き渡るような大声で、「海水注入を中断」と叫んだ。清水ら東電本店の対策本部にいた面々を始め、オフサイトセンターにいた武藤栄副社長も、さらに福島第一原発にいたものの多くも、吉田が海水注入を中断した、と信じ込まされた。だが、吉田はそ知らぬ振りをして海水を入れ続けた。『メルトダウン』P97-101

東電本店の対策本部にいた者たちの中には、午後7時25分に清水が注水停止を命じ、同8時20分に「再開」するまでの、55分間、菅首相の命令によって海水注入が止められた、と受け止めたものがいた。実際にはそうではなかったのだが、東電の中には、「海水注入を東電が開始したあとに、官邸から一旦ストップがかかった」と、被害者意識が醸成されていく。自衛隊機にいったん搭乗して帰京しようとした清水を再び名古屋に引き戻した失策と同様、民主党政権の大失策と彼らには映った。
実際には海水注入は中止されなかったし、すでに燃料は熔融し、メルトダウンが起きてしまった後なので、東電が問題にする「55分間の空白」が、ただちに原子炉に大きな影響を与えたとは考えにくい。それなのに菅への嫌悪感や反発から、東電の中には「非常に厳しい状況下における「55分間の空白」は炉の健全性を損ねた」という意識が共有されていく。後の「菅降ろし」につながっていく政権への敵愾心の深層に芽生えている。『メルトダウン』P102

メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故

メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故

たぶん官邸の中でも原発を推進してきた経産省の役人を中心になんとか原子炉を守ろうという、原発推進派としての保身やら、経済的な意識からの発想にたつ者が何人もいたのだろう。彼らからすれば原子炉に海水を注入すれば、もうそれは廃炉を意味することになる。出来れば海水注入をしない方向でなんとかならないかと右往左往する。それがある種の官邸内の雰囲気となっていた可能性はある。
しかしその一部分の雰囲気に同じく経済的な理由からなんとか廃炉したくないという意識を共有していた東電の関係者である武黒が、一方的に海水注入への消極的な意思が官邸の雰囲気と曲解した可能性はあるだろう。それが彼の「おもんぱかり」の深層心理だったかもしれない。
それにしても東電の自家中毒的な判断による海水注入停止が、一方的に官邸=菅首相の命令と曲解した東電の社員たち。その何人かが安倍晋三に垂れ込んだというのがことの真相なのかもしれない。
しかし結果としてデマを撒き散らしたことについて、元首相であり野党の大物政治家である安倍晋三は責任を取る必要がある。ことが後の菅降ろしという大きな政局に発展することになったわけである。彼の小さくない虚偽の発言により原発対策、震災対策は大きな影響を被ったのである。これは彼の政治生命に関わることである。
彼がまずすることは、ホームページ上の記事の削除と謝罪だろう。次には責任の取り方として最低限、議員辞職あたりだろうか。しかし虚偽によって政敵を攻撃し続けたのである、ある意味万死に値すると私は思う。彼のような虚言を弄ぶ政治家は、美しきかの国にはけっして存在してはならないと私は思う。