剣岳点の記録

劔岳 点の記 メモリアル・エディション [DVD]
かなり話題になっていた映画だったのでこれもDVDでレンタルしてきた。黒澤映画でも有名な日本を代表するカメラマン木村大作が70歳にして初めてメガホンをとった映画だ。
劒岳 点の記 - Wikipedia
このウィキの中にもあるが一切にCGや空撮を行っていない。山岳に実際にロケして撮ったということで話題になっていた。

山岳測量のシーンは、「これは撮影ではなく『行』である」「厳しい中にしか美しさはない」「誰かが行かなければ道はできない」を基本方針とし、明治の測量官の目線や感覚を大切にするため、空撮やCG処理に頼らない・・・・・

というのだけど、その「苦行」なるものがうまくスクリーンから伝わってくるかというと、ちょっと疑問なのである。実際、DVDでリビングで寛いで観ているせいなのかもしれないが、画面を通して登山の凄さ、自然の厳しさ、背筋がゾクゾクするようなスリリングとか実際の寒さみたいなものが実は伝わってこない。ひょっとするとこの映画って、失敗作系かな〜という思いもした。
映画自体は大変オーソドックスな作り、筋立てである。役者の演技も真面目というか真摯なものを感じる。そう演出もそうだし、使われるクラシック音楽にしろ、すべてにわたって真摯という言葉がピッタリくるのである。本当によく出来た映画である。でもあんまり面白くないのである。
なぜなんだろうな〜と考えてみる。ようは見せ方が今ひとつなんじゃないのかということだ。自然の凄さ、切り立った山岳から下方を見下ろしたときの恐怖とか単純にそういうものがない。ようはスペクタクルに欠けているんだな。
映画は虚構の世界の産物なのである。薄っぺらなセットでいかに本物らしく見せるかが求められる。完全ロケ実施なんかしなくても山の凄さみたいなものはいかようにも描くことができるだろう。ちょっと違うかもしれないが、フェリーニの描いた夜の海はどうか。プールをビニールシートで覆って作り出した贋物の海が、本物以上に効果的な海の雰囲気を作り出していた。ああいうのが映画の魔術というものじゃないか。
山岳登山の凄さを見せるためだったら、さすがにCGはちょっと置いとくにしろ空撮とかは取り入れても良かったんじゃないかとそんな気がする。昔クリント・イーストウッドが出た「アイガー・サンクション」という映画を観た。アイガー北壁登山に国際諜報をからませたミステリーものだったか。ストーリー的には取るに足らない映画だったが、その登山シーンはスリリングで印象的だった。イーストウッドジョージ・ケネディが登山の訓練のためモニュメント・バレーを登るシーン。二人が登りきって頂上で缶ビールを飲むところをカメラは思いっきりパンしていく。すると二人が恐ろしく高い岩山の上にいることがわかる。あの撮り方は凄かった。今でも覚えている。
アイガー・サンクション [DVD]
たぶん木村大作以下製作スタッフは高地での現地ロケとか、そっちが目的となってしまい魅せる映画作りということが疎かになっちゃったんじゃないかと、そんな気がしてならないな。まあけっして悪い映画、駄作ではないとは思う。でも山の凄さ、登山の凄さみたいなものが今ひとつ伝わらない、そういう意味では大いなる失敗作なんじゃないかと、そんな気がしてならない。