アイ・アム・サム

I am Sam/アイ・アム・サム [DVD]
週末に観た映画二本のうちの一本。泣かせる映画と評判になっていた映画だ。知的障害をもつ父親と幼い娘との親子愛を描いている。主演のショーン・ペン知的障害者役を好演している。子ども役のダコタ・ファニングがそれこそ可愛いにもほどがあるといった感じで名演技を見せている。全編に流れる音楽はビートルズのカバーというのも気がきいている。とまあその辺がすべての映画だろうか。
アイ・アム・サム - Wikipedia
感想を一言でいうと、思ったほど泣けなかった。逆に池沼(じゃない)、知障を扱っているだけに、痛い話、痛い映画になる可能性もあったけれど、少なくとも途中で観るのがつらくなるということもなかった。さすがハリウッド映画、きちんと見せ方をわきまえていると、そんなところだろうか。
7歳程度の知能しかない男サムが、一人で子どもを育てることが可能かどうか。いくら親子が愛し合い、深い絆で結ばれていたとしても。子どもが思春期を迎えても、二人はうまくやっていけるか。あるいはスターバックスのアルバイトだけの生計で生活を成り立たせていけるのか。そういうソリッドな現実問題を実はあんまり考えてはいけない映画なのかもしれない。この映画は知的障害をもつ父とそんな父を慕っている利発な娘との交流を優しく描いた現代のおとぎ話、そういう風にとらえるべき映画なんだと思う。
この映画にはある意味、悪人が一人もでてこない。サムから子どもを取り上げようとするソシアル・ワーカーにしろ、裁判でサムを尋問する検事も、みなそれぞれの立場から、真面目にこの問題に取り組んでいる。けっしてサムと娘との仲を無慈悲に引き裂こうとしているわけじゃない。このへんからしておとぎ話的である。
この映画にある種の救いを与えているのが、サムの弁護を嫌々引き受けることになる敏腕弁護士のミシェル・ファイファーかもしれない。彼女のある種類型的ともいえるキャリア・ウーマン然とした役柄は、オーバー・アクションも含めてとてもユーモラスだ。頭が良くて、仕事の上では評価されるが、性格が少々きつめ、いやだいぶきつめだから周囲から絶対に嫌われているタイプ。家庭生活では夫との関係は破綻寸前、一人息子との関係も最悪、そういう紋切り型な今風キャリア・ウーマン役をファイファーが好演している。いい女だな〜と思えるし、このギミックみたいな弁護士が出てくることでこの映画がどんなに救われていることか。
ちなみにファイファーは1958年生まれで今年51歳、この映画の製作時は42歳だった。1960年生まれのショーン・ペンよりも年が上なわけだ。ふけ顔のショーン・ペンに比べればはるかに若い感じがする。存在感溢れる女優さんだと思う。
全編に流れるビートルズのナンバーは効果的だと思う。私のような生来からのビートルズ好きにはたまらないといった感じだ。映画的にも知障の主人公が無類のビートルズ好きで、生まれてきた子どもの名前をつけるようにいわれて、すぐにビートルズ・ナンバーからルーシー・ダイヤモンドと名づける。家の中にはビートルズのポスター、ブロマイドがところ狭しと貼ってある。すべての価値判断が、ジョン・レノンの言葉の引用によって成り立っているようなそういう主人公だから、バックに流れる曲が自然にストーリーと溶け合っている印象だ。
映画の特典映像で監督や製作者のインタビューがあり、製作エピソードが語られる。その中で本当はオリジナル・ナンバーを使いたかったが、ビートルズの楽曲使用料がやたら高いため、やむなくカバーを使うことになったのだとか。ふ〜ん、そういうものなのか。そういやビートルズ・ナンバーの版権をマイケル・ジャクソンが取得したとかいう情報が以前あったけど、あの話はどうなったのだろう。
とりあえずハートウォーミングタイプの映画としては、まあまあ及第点である。とはいえ名画かといえば、ちょっと違うかな。佳作、小品といったところだろうか。ミシェル・ファイファーの魅力とダコタ・ファニングの可愛らしさの合わせ技で78点みたいなところだろうか。