のだめカンタービレ最終楽章


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昨日、家族で例によってワカバウォークシネプレックスで観た。コミックのドラマ化の映画版ということで、所謂一つの企画モノなんだが、思いの他楽しめた。某映画鑑賞サイトに酔っ払ってレビューというか、まあ感想文をアップしたので、まんま貼り付けてみる。

正直、テレビドラマの映画版だけにわざわざ劇場まで出かける必要あるのか、みたいな気持ちもありました。それでもコミックは全部読んでいるし、ドラマも毎回観ていたし。ということで所謂一つのノリで家族三人で行ってみました。
映画自体の作りはというと、それはまあ企画ものだし、名画といえるかといえば、疑問はあるでしょう。でも面白かったですよ。マジ予想外というか、とにかく楽しめました。コミック読んでいるから、あらすじもわかっているし、悪乗りなギャグもドラマで免疫できてる。そしてそういう部分を越えてやっぱり挿入される音楽の数々が美しい。
多くの方が指摘されているように、この映画は劇場で観るのが正解です。名曲のダイジェスト版を劇場の音響を通して鑑賞できます。それがとても心地よい。もともと原作がクラシックをテーマにしたコミックであり、クラシックの新しいファン層を見出していると聞いていましたが、それがドラマ化されて実際に音が流れることで、さらに多くのクラシックファンを獲得してきている。
その流れでいえば、劇場版はより美しいクラシックミュージックを鑑賞することができます。すでにコミックやドラマを通じてクラシックを聴きかじった初心者には最良の音を映像とともに享受できるわけです。やっぱり音楽の力は偉大です。
さらにこの映画は美しいヨーロッパの風景を紹介してくれます。特にパリの景色は素敵でした。かっての「ローマの休日」や「旅情」がメロドラマであるのと同時に立派な観光映画であったことを思い出させます。当時のアメリカ人はそう簡単にヨーロッパに行くことができなかったから、映画で観光みたいな部分もあったわけですね。
この映画で描かれるヨーロッパはとても魅力的です。一緒に行った小学生の娘も観終わった後に「パリ行きたい」と言ってました。海外ロケの成果バッチリ出ていると思いましたよ。
今回の前編、4月公開の後編というのは、ちょっと引っ張りすぎかなという気もしますが、ストーリーや様々なエピソード類をそこそこ忠実に追っていくとなると、しょうがないのかなという気もします。前編は千秋が完全に主役でしたから、後編は当然のだめがメインということになるのでしょうね。シュトレーゼマンとの共演のシーンが楽しみです。
最後にCGアニメの取り入れ方もけっこう関心しました。特にのだめが千秋と初共演となる場面でのそれはとても楽しかったです。結局共演は果たせないわけですけどね。あのときのだめの心象風景があそこまで大掛かりな、それこそ文字通り宙にも上るものだったとは。
ああいうのはかってのMGMミュージカルあたりだと、大群舞を取り入れたダンスシーンにでもなっていたのでしょう。アニメじゃなくて実写でそういう大掛かりで、ストーリー的にあんまり関係ないみたいなシーンも見たかったかな。

実際このとおりで、とにかく楽しめた。やっぱり美しい音楽は偉大であるということ。たいていのマイナス面にしっかりフィルターかけてくれる。そういう意味じゃこのコミックの成功はクラシックを題材にしたことが第一義なんでしょうね。そしてドラマもいかにおちゃらけていようが、流れてくる音楽が本物であるという一点で救われていたというか。とにかく美しい音楽がすべての欠点を覆い隠してしまうという、まあそういうことだったんだろう。
そういう意味じゃ、音楽映画、あるいは所謂ミュージカルは、けっこう音楽に助けられているのだろうなと思う。例えばであるが、音楽映画の傑作として「グレン・ミラー物語」がある。アンソニー・マンの小気味良い演出、ジミー・スチュアートとジューン・アリソンの心温まる演技。これは素晴らしい名画である。
でもそれに続くものとして例えば「ベニー・グッドマン物語」はどうか。ヒロインのドナ・リードは好きな女優だし、なぜかスタン・ゲッツが楽団員の一人で出ていたり、ライオネル・ハンプトンが特別出演してたりとか楽しめるには楽しめるが、映画としてはどうだったか。まあ平凡なものだったように記憶している。
さらに例えばダニー・ケイの「五つの銅貨」は。和田誠絶賛の「ジョルスン物語」は。タイロン・パワーの「愛情物語」は。大丈夫、たいていの場合、音楽がすべての問題を解決してくれるから。少なくともスイングジャズが好きなら「グレン・ミラー物語」、「ベニー・グッドマン物語」、「五つの銅貨」はOKでしょう。少々映画的にしょっぱくても音楽が総てを解決してくれるのだ。その系譜でいえば「ラウンド・ミッド・ナイト」なんかもそうかもしれないな。
そういう意味じゃ、素晴らしい音楽は無敵なのかもしれないな。映画を観ながら美しい音楽を鑑賞できる。それだけで少なくとも私なんかは幸せになれるわけだ。
だから「アマデウス」も面白かった。文句なく面白かった。ミロス・フォアマンのややもすれば理屈っぽいような演出にも目をつぶれた。今、改めて思ったのだが、お話的には他愛無い内容なのになぜか何度も観たくなる一群のアステアのミュージカルの魅力はなぜか。当時の売れっ子だった作曲家たちの名曲をふんだんに使っていたからじゃないのか。コール・ポーターアーヴィング・バーリンなどなど。彼らの名曲をアステアは歌わせてもらったのではなく、たぶん時代的にいえば歌ってあげたのだろう。そのくらいアステアは当時スーパー・スターだったはずだ。たぶん1930年代後半から40年代にかけての彼は、マイケル・ジャクソンに匹敵するような存在だったんじゃないだろうか。その彼がポップスの名曲を映画の中で歌った。いや彼が歌ったことで、単なるヒット曲が名曲になったのではないのか。
良き音楽によって単なる軽めの恋物語、内面性といたものはあまりなさそうな娯楽映画の類が、素晴らしいミュージカル映画の傑作となって、人々の記憶の中に永遠に刻まれる。まあそういうこともいえるのではないかと思う。
話はずいぶん脱線したが、「のだめカンタービレ最終楽章前編」は少なくともクラシックミュージックの美しさのほんのさわりの部分かもしれないが、それを私たちにきっちりみせてくれている。それだけでこの映画は十分素晴らしいと思う。