忌野清志郎が死んだ

http://www.asahi.com/obituaries/update/0502/TKY200905020195.html
旅行中にホテルで知った。
癌で闘病中だということは知っていた。喉頭癌が発症した後、一度復帰コンサートもやった。でも再発したらしいということもなんとなく知ってはいた。でもこんなに早く亡くなってしまうとは。いろんな意味でいいやつだったのに。58歳、早すぎる死だと率直に思う。
でも考えようによっちゃけっこう長命なのかもしれないとも思う。一流のロックンローラーとしてはね。60近くまで生きながらえて、おまけに現役で歳には見えないくらいロックしていたから。生き方にしろスタイルにしろ。体一つとってもぶくぶく太って見る影のないロックンローラーが数多いるのに、清志郎はスリムでかっこいいオヤジしていたもの。
オーティスだってジミヘンだってジョン・レノンだって、みんな早世しているんだ。58まで生きたんだし、おまけにけっこうカッコイイまま退場できたんだしと、そんなことを考えている。でも、悲しいね。
もともとはフォークだったんだよな。今でいうメジャーデビューは「ぼくの好きな先生」だったかな。当時愛読していた「ガッツ」だか「新譜ジャーナル」だかで譜面を見ながらコピーした。友人たちとバンドの真似事していた高校生の頃だから30数年前になるんだろうな。清志郎のボーカルはちょっと真似ができないくらいエキセントリックでオリジナリティがあった。自分の周囲にはけっしていないような存在だった「ぼくの好きな先生」はなんとなくひかれるものがあった。
当時はRCよりは泉谷とか古井戸とかのほうが好きだったかな。なんつうかより叙情性みたいなものがあったから。暗い暗い青春を過ごしていた高校生の私にはそういうメソメソした四畳半フォークみたいなもののほうが性に合っていたのかもしれない。RCは、清志郎は、今思うとそういう叙情性を排した部分があった。うまく言えないけどもっと突っ張った部分があった。けっこうハードボイルドっぽいところが。
80年代になって清志郎がいきなりロックンロールをやり始めたのにはびっくりした。ホーン・セクション従えたリズム&ブルースを基調にしたロックである。見た目はパンク。ミック・ジャガーとロッド・スチュアートを足して分母にパンクロック、たぶんジョニー・ロットンあたりみたいないでたちである。でも歌詞は見事な日本語であり、フォーク時代のRCと基調は一緒だった。
個人的には初めてきちんとした日本語をロックのリズムにのせて歌ったのは清志郎だったんじゃないかとさえ思う。名曲「トランジスタラジオ」のセンチメンタリズムはフォークにありがちなジトジト感のないカラっとしたものだったと思う。ロック化されたRCを聴いた瞬間に、なんだか突き抜けたものを感じた。
旅行から帰ってきてすぐにCDの棚をひっくり返した。何枚か持っていたのだが人にあげたりしたようにも思うし、誰かに貸したままになってしまったように思う。それでも確か一枚くらいあったはずだと思った探してみたらようやくでてきたのがこれである。
THE TEARS OF A CLOWN(紙ジャケット仕様)
1986年8月の日比谷公園でのライブ盤だ。それからずっと繰り返し聴いている。「トランジスタ・ラジオ」「ドカドカうるさいR&Rバンド」「君が僕を知っている」「ヒッピーに捧ぐ」「「スロー・バラード」「雨あがりの夜空に」などなど珠玉の名曲揃いだ。聴けば聴くほどに清志郎の死が非現実的なものになっていく。スピーカーから聴こえる若々しく荒々しい彼のパフォーマンスを耳にすればするほどに彼の存在が永遠に喪われてしまったことが嘘っぽくなっていく。
たぶん私もまた多くの彼のフォロワーズと同じように彼の死を受け入れることができないでいるのかもしれない。昨日も明け方近くまでYoutubeで彼の懐かしい映像をググっては見入っていた。ネットの世界には彼の若々しい姿がそのまま残っている。もはや死後かもしれないWeb2.0的世界、ネットの向こう側のアーカイブには永遠の若さが保存されている。僕らはいつでもそれを享受できる。清志郎はいつまでも生き続けている。
どうだろうこの若々しい姿は。
http://www.youtube.com/watch?v=M7gZPrC5za8
今思うにチャボのパフォーマンスはニルス・ロフグリンを意識しているような気がするな。
Youtubeにはこの他にも懐かしいフォーク時代のRCの画像とかも残されている。70年代の貴重な映像だ。そこには「僕の好きな先生」もある。
http://www.youtube.com/watch?v=_Npq4cVHTro
さらにエキセントリックかつシニカルでRCサクセションのハードボイルド性を体言したような名曲も動画が残っている。大好きな名曲だ。
http://www.youtube.com/watch?v=IYmllAfR4d8
とにもかくにも冥福を祈ろう。我々の時代を突っ走った偉大なロックスターの死に対して。
一つ気になることがある。同じように癌と闘っている我々の時代のアイドル拓郎は大丈夫なんだろうか。清志郎の死でこれほどの喪失感を抱いているのである。いずれ同じような悲しい知らせが届くことになるのかもしれない。
歳をとるということはこういうことなんだろうな。同時代を生きた人々の訃報に触れることがだんだんと多くなっていくということなんだ。最初は自分たちの親の世代。それがちょっと上の先輩の世代となり、まさしく同じ世代の人になり。そしてそういう人の死についてだんだんと鈍感になっていく。いずれは自分の番がやってくる。そういうものなんだろう。