『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』を読む

さおだけ屋はなぜ潰れないのか? 身近な疑問からはじめる会計学 (光文社新書) 先日、最寄の駅の中にある東武ブックスでつらつら新書コーナーの棚を見ていて衝動買いしました。
 東武ブックス自体は30坪程度の小さな本屋だから棚も新刊中心でてんで充実してないけど、それでも各社の新書を見ているとそこそこそそられそうな本があった。手にする機会としては、やっぱりちくま新書が一番面白そう。集英社や新潮の新書もなかなかだななどと思い、こんな風に各社のラインナップを見ていると岩波新書の凋落もうなずけてしまう。
 ただでさえ読書人口という少ないパイを食い合っているなかで、各社が知恵を絞って様々な切り口から読みやすそうな、それで手にとりやすそうな本を刊行しているわけなのだから、企画力が落ちてきている岩波新書がこれまで独壇場だった新書市場での地位を落としていくのは、それなりに自明のことらしいなどと、わかったようなそうでないようなことを思ってみた。
 で、この『さおだけ〜』だが、なんていうんだろうタイトルが秀逸だな。その一言につきるわけだ。で、サブタイトルが「身近な疑問からはじめる会計学」という。そうなんだ、これは会計の入門書、れっきとしたビジネス書なわけなんだが、このタイトルを目にすると、「おっ、この本はどんな内容なんだ」と、とりあえず手にとらせるだけのインパクトがタイトルにあるわけなのだ。タイトルの吸引力みたいなもんだな。
 で、目次に目を通すと以下のとおり。

  • エピソード1 さおだけ屋はなぜ潰れないのか?-利益の出し方
  • エピソード2 ベッドタウンに高級フランス料理店の謎-連結経営
  • エピソード3 在庫だらけの自然食品店-在庫と資金繰り
  • エピソード4 完売したのに起こられた!-機会損失と決算書
  • エピソード5 トップを逃して満足するギャンブラー-回転率
  • エピソード6 あの人はなぜいつもワリカンの支払い役になるのか?-キャッシュ・フロー
  • エピソード7 数字に弱くても「数字のセンス」があればいい-数字のセンス

 エピソードのタイトルも優れているな、どれどれどんなことが書かれているんだろうと、思わず中身を読んでみようと思わせるもの。それとそのエピソードで解説しているのが、まあ仕事をしている人間ならみんな馴染みのある会計用語のことらしいっていうことで、とりあえず軽く読めそうだし、まあ買ってみるかみたいな気にさせる。そういう意味じゃ「タイトル」「切り口」「目次立て」、これだけでもうこの本は成功が約束されているみたいに思えてくる。
 実際、新書(光文社新書)としてはけっこうスマッシュ・ヒットになっているらしく、大型書店のベストセラーリストにもそこそこ顔を出している。すでに20万部を越えているらしい。
 一読して、ほんとにあっという間に読んでしまえる。それでいて中々面白く、けっこうためになるというか、会計用語というかビジネス用語としての「回転率」や「キャッシュ・フロー」がなんとなくわかった気にさせる。これぞ新書だね、という感じがする。そこそこの内容を軽めでイージーにさっと読ませる、忙しい人々に読ませる。新潮の『バカの壁』があたった切り口同様だな。
 個人的にはエピソード7の数字のセンスの話は関心させられた。曰く、「50人に一人が無料」というキャッシュバック・キャンペーンは、実は100人に二人が無料になるということ。つまりはパーセントにするとわずか2%の割引でしかないという数字のロジックだという謎解きがとても面白かったね。こういうキャンペーンを即座に2%の割引と判断できる人間が「数字に強い」「数字のセンス」がある人間というわけだ。
 著者の山田真哉は1976年生、まだ20代の公認会計士。会計士としての知識をフルに使ったミステリー小説『女子大生会計士の事件簿』シリーズを出版社に持ち込み企画して成功したという。若いがなかなか才能のあるタレントだと思った。こういう人間はきっと伸びると思う。勘所もなかなか良いし、才あるうえにマーケィング感覚抜群だと思う。
 ビジネス入門書というと、たいていの場合どこも似たり寄ったりの面白みのない本が多いという印象なのだが、こういう本に出会うと、「なかなかお主もやるな」みたいな率直な感想を持つわけだ。