ポーラ美術館〜シンコペーション:世紀の巨匠たちと現代アート

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 ポーラ美術館の今回の企画展は「シンコペーション:世紀の巨匠たちと現代アート」。

 企画趣旨はパンフレットにこうある。

現代の12組のアーティストの作品を、ぽーら美術館のコレクションとともに紹介する展覧会です。タイトルの「シンコペーション」とは、基準となるリズムの拍をずらして、楽曲に変化を与える音楽の手法です。いつの時代もアーティストたちは、それまでの規範とは異なる独自の方法を創出し、自然や人間をみつめ、時間と空間に働きかけ、私たちの感覚や記憶を刺激し、揺り動かしてきました。過去の巨匠たちの絵画や彫刻作品と、今日の作家たちによるインスタレーションや映像、音、写真といった多様な表現とが同じ空間に出会う時、どのような共鳴が生まれるのでしょうか。 

 ポーラの所蔵する名画と現代アートのコラボレーションという、ある意味攻めの企画展である。斬新だし、新たなポーラ美術館の魅力を引き立てようという斬新さもある。名画を取っ替え引っ替えすることでのある種のマンネリズムを脱したいという、新進気鋭な学芸員の先生たちの意欲、モチベーションを感じさせる。

 でも、これって難しいなと思う部分もある。ポーラ美術館を訪れる人たちは美術愛好家も多いだろうが、ある意味では圧倒的に一見さんの観光客である。箱根という首都圏から近い一大観光地で、驚くほど秀逸な芸術作品、印象派を中心とした近代西洋絵画のコレクションに接するというところが売りなのではないかと思う。あくまでも観光地の美術館なのである。

 そこで一度、二度と訪れることで、そのコレクションの質量に驚き、こんな絵まで収蔵しているのかと、次に来る時に期待を持ち、リピーターとなる人も増えていく。かくいう自分もその一人だと思う。そうしたリピーターは、どんな美術愛好家かというと、これはもう単純に古典的作品、いわゆる名画が好きな人たちなのである。

 年に数回、ポーラ美術館を訪れるファンのほとんどが、モネやルノワールシスレーといった印象派好きであり、ピカソマティス、ルソーのファンである。あるいはボナール であったり、ラウール・デュフィであったり。そして日本の洋画でいえば、確実に黒田清輝の「野辺」のファンであったり、岡田三郎助の「あやめの衣」のファンであったり。またあの名画を観たい、そういう愛好家なのだ。

 彼らからすると今回のような斬新な企画、クラシックと現代アートのコラボレーションは少なからず戸惑いとなる。初めて訪れた一見さんにはいい。でも名画愛好家のリピーターにはこの企画はアリなのか。そこらへんが微妙感漂うのである。

 そして冒頭にはアンリ・マティスの切り絵「ジャズ」である。この有名な作品は今回の企画展のプレリュードという切り口である。

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 そして次の間には、おそらくこの企画展の目玉とでもいうべきかセレスト・ブルシエ=ムジュノ×クロード・モネ「水のうつろい」。このセレスト・ブルシエ=ムジュノの作品「クリナメンv.7」という作品。円形のプールに大小の白い陶磁器が浮いている。モーターか何かで小さな水流を作ることで、陶磁器はゆっくりと流されていく。そこで陶器どうしがぶつかる時に生じる偶発的な音。陶磁器の大きさやぶつかる時のスピードなどにより、音の大小や高低が生まれる。なんとも不思議な空間と音。


Variation, Piscines, Céleste Boursier-Mougenot

 環境芸術、空間芸術の具象化、体現というのだろうか。なんとも不思議だ。これはコラボするモネの「睡蓮」とはまったく異なる世界だとは思う。しかし面白いし、ゆったりと流れる陶磁器を観ているだけで時間がこれもまたゆっくりと経過していく。

 いつまでもいつまでも眺めていられる。

 その他では渡辺豊×ポール・セザンヌ、バブロ・ピカソ、レオナール・藤田 ポートレート」が面白かった。これは渡辺による「ピカソと女神たち」という作品群とピカソの「葡萄の帽子の女」のコラボレーションである。パンフレットの解説にはこうある。

渡辺は過去の巨匠やそのモデルたちの名前をインターネット上で検索し、そのイメージを流用する。真偽の混じる複数のイメージを断片化して組み合わせ、ピカソの「キュビスム」を想起させるポートレートが制作された。

弦楽器とコイビチエヴァの胸像をモティーフに、それぞれのイメージが断片化され、再構成されたポートレート。イメージの断片化と再構成は、ピカソがブラックと発案した「キュビスム」の手法である。

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 壮大なキュビスム的オマージュという風に感じられた。タイトルにはインターネットで検索したというがセザンヌピカソ、フジタのモデルたちの名前が冠せられている。

 その他ではオリヴァー・ビア×東洋陶磁という作品群も面白かった。様々な東洋陶磁コレクションにマイクを設置し、その内側に音を増幅させる。不可思議な共鳴音が空間に響く。この奇妙な調度に呼応するのはなぜかアンリ・マティスの「リュート」である。

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