原籙

 先月の頭に、たまたま近所の古本屋で原籙の『さらば長き眠り』(ハヤカワ文庫)を購入。『そして夜は甦る』『私が殺した少女』の二作は読んでいたので、ずいぶん久々だなと思いました。そしたらこの人、これが三作目だったのね。ずいぶん寡作家といえば、そうなんだろうな。いちおう直木賞作家だけど食べていけるんだろうか、などと余計な詮索までしちゃうな。
 話は11年前八百長試合の事件に巻き込まれた元高校野球選手の依頼で義姉の自殺の真相を調べていくとこになった私立探偵沢崎が事件の背後にあった錯綜した事実を一つ一つ穂掘り下げ明らかにしていくというもの。けっこう込み入った話で、ラストのあたりでは筋解きがけっこう荒っぽいかなとも思ったけど、けっこう楽しめた。
 なんでも1995年刊行とかで、10年前の作品ということになる。ストーリィの時代背景もバブル崩壊後あたりらしい。でも原籙は日本ではめずらしい全編フィリップ・マーロウナイズされたハードボイルドの真正作家の一人だとは思う。ある意味この人と矢作俊彦以外にはいないんじゃないの。で、よりストイスティックな探偵ものという部分をより継承しているのが、この人。矢作はマーロウのスタイリッシュな部分、シニカルな文明観を継承しているような気もするな。
 個人的には矢作のほうがだんぜん好きだし、昨年は彼の傑作『THE WRONG GOODBY』が出たこともあり(これは筋がどうのこうのいわれようが、最高だと思うよ)、たぶんその影響とかもあって原籙に手をのばしたのかな。
 で、今は同じ原籙の新作『愚か者死すべし』を読んでいます。これは昨年11月に出たばかりのおニューの新刊。やっぱり10年ぶりぐらいのものということ。ヤクザの銃撃事件を発端に日本政治の裏面史ともいえる政治スキャンダルとそれをめぐる誘拐、脅迫事件などもりたくさんな内容。話としてはこっちのほうが面白いって感じが途中経過の感想。
さらば長き眠り (ハヤカワ文庫JA)  愚か者死すべし  THE WRONG GOODBYE ロング・グッドバイ