熱海周遊 (3月14日)

 先週、木金土と伊豆旅行に行ってきた。いつものごとく健保の宿が抽選であたったから。伊東にある保養所は他の保養所に比べると施設が新しく、ちょっとしたホテルみたいな感じで人気があり、抽選でも外れることが多い。現役時代、土日や連休で申し込んで当たったことが一度もなかった。リタイアしてウィークデイで申し込むにようになってからは五割くらいの確率で当たるようになった。

 ここはベッドが標準のため、妻が利用するのに一番いい。他の保養所は畳で布団が基本なのでけっこう起き上がるのにかなり難儀なことが多い。最近は折り畳み式の簡易ベッドを用意してくれることも多いけど。そんなこんなで伊東の保養所に行くことが増えている。

熱海は斜面にへばりついた町

 初日は妻のリクエストで熱海の繁華街を回りたいという。そういえば熱海はいつも通過するだけでほとんど観光したことはない。行くのはたいていMOA美術館くらいだろうか。以前、会社の同僚たちとオヤジ旅行したときに少し回った記憶があるが、なんとなく坂が多い印象だった。そして今回それが思っていた以上だったことがよく判った。

 

 まず車はサンビーチに近接した市営駐車場に止めた。観光するには一番いいかと思ったのだが、これはあまりいい選択だったのかどうか。

 まずは海沿いの遊歩道を歩く。それから一般道へ出るには・・・・・・、階段を上り下りして駐車場の上の歩道橋を通る必要がある。結局来た道を引き返して一度駐車場に戻り、そこから脇に出る。

 すぐそこには熱海のシンボル?、『金色夜叉』の寛一お宮の像がある。

 

 その後は熱海の繁華街を目指すのだが、なにか有効な道がない。途中、ホテルの脇に「熱海駅〇〇メートル」みたいな案内板が出ているのだが、たいていは急な階段が延々続く。そこでだいぶ戻ってから駅方向の道に入りそこから熱海銀座にでてさらに上る。そこからはもう蛇行しながらきつい坂が延々と続く。そうだったな熱海は坂だらけの町だということを、昔の記憶がじょじょに蘇る。そして改めて思うに、熱海は坂だらけの町というより急斜面、崖にへばりついてできた町みたいだ。この町で老後を過ごすのはけっこう大変だなあと思ったりもした。

 かってはオヤジ旅行でほろ酔いかげんでうろうろしたのだが、今は車椅子を押してである。かなりしんどい、きつい。そしてようやく一番賑やかな平和通り名店街に出る。

 妻そこで食べ歩きをしたがっていたのだが、ウィークデイなのに凄い人出である。熱海は賑わっているなというのが一番の印象。客層はというと意外と外国人が少ない。圧倒的に多いのは若いカップルや集団。春休みということもあるし、多分大学生の卒業旅行とかそういうことなのだろうか。

 人気のまる天とかの前は長蛇の列。ちょうど昼時だったので食堂系、特に海鮮丼を食べさせる店の前にも行列ができている。これは並ぶのもちょっとしんどいなと思った。さらにいうと平和通り名店街も緩やかとはいえ、ずっと坂道である。それまでのかなりきつい勾配を上ってきているので、けっこう足にきている。

 食べ歩きを諦めて来た道を戻ることにする。途中で喫茶店「くろんぼ」なる店を見かけたりする。あとでネットで調べるとレトロな雰囲気でそこそこ有名な店のようだ。しかし今どきその名称はちょっとどうかと思ったりもする。

 大阪で家族三人で始めた「黒人差別をなくす会」による抗議の手紙で、『ちびくろサンボ』が絶版となったこと、カルピスのシンボルマークやタカラのダッコちゃん人形などが使用停止、発売停止になったことなど、1980年代に様々なムーブメントがあったことをちょっと思い出したりした。出版社が軒並み抗議を恐れて絶版、発売停止したが、抗議の主体はあくまで三人の家族、しかも当時小学生だった少年の発案だったとか、そういう話だった。

 たしか『ドリトル先生』シリーズの井伏鱒二訳にも差別的表現があり、会は抗議の手紙を送ったが、編集者が翻訳にも歴史的限界があることを明記した一文を『ドリトル先生』シリーズ各巻に投げ込むことで、発売停止をのがれたとかそういう話を読んだことがあった。

 しかし21世紀の今日にあって「くろんぼ」もないだろうと思う部分もあるが、しょせんは観光地のことだし、目くじらたてるのもなんなんかなと思ったり。

 

 昼飯は坂を下る途中で博多ラーメンの店があったのでそこで昼食をとる。まあまあ普通に美味しい。

 

熱海山口美術館

 

熱海山口美術館|体験と学びの美術館

 ここは去年の9月に訪れて以来だ。岡本太郎の河童がお出迎えしてくれる。入館料1400円だが、1階奥にある喫茶室でのドリンク一杯無料と絵付け体験がセットになっているのでまあまあお得感もある。

 

 喫茶室にはリトグラフや版画類が雑然と飾られている。ピカソやルオーのリトグラフと奥に見える片岡球子には60万の値がついている。多分販売をしているのだろう。

平櫛田中

岡倉天心胸像 (平櫛田中

 つい最近、谷中の岡倉天心記念公園の六角堂で観たのと同じ胸像。鋳造品はけっこうあちこちにあるようだ。

横山大観

横山大観4作

 前回と同じ展示だったので、大観作品はまさしく常設展示してあるようだ。一番左の《鶯》は幹の部分はたらしこみ、葉は輪郭線がないなど、技巧の技を尽くしているようだ。

《鶯》 (横山大観
芹沢銈介

法然上人御像》 (芹沢銈介)

 先日、東近美の日本画の室でミニコーナー的に展示してあった型染による染色家、図案家だ。そういえばこの人の美術館がたしか登呂遺跡の隣にあったことを思い出した。確か観ているはずだったがあまり記憶になかったな。

美人画と人形

 

 

 前回来た時に魯山人の陶器と日本画の並列展示に感心した。今回も陳列してあったが、今回はこの美人画と人形の並列展示が思いのほかよい感じがした。上のものがたしか鏑木清方、下の水彩画は安井曾太郎だったと記憶している。

現代芸術コーナー

岡本太郎

奈良美智

村上隆

 熱海山口美術館は小ぶりでアパートの各室を展示室にしたような、ちょっとした画廊の集合体のような雰囲気の美術館だ。収蔵品も小粒ながらなかなか名品も揃っているので、たまに訪れると小1時間、和やかに気分になれる。

 そして春休みということで、駅周辺はえらく賑わっている熱海の喧騒もこの美術館のあたりまでこない。ようするに空いている。熱海といえばMOAみたいな印象もあるが、この小ぶりの美術館ももう少し賑わいがあってもいいかもしれない。