偶然、オペラを観た

 久々、西洋美術館にキュビスム展を観に行った。その感想はそのうち書く。

 閉館間際に外に出ると歌声が聴こえる。オペラの男性の歌唱である。西洋美術館の正門を出ると人だかりが。その向こう文化会館の前に野外ステージが仮設され、そこでオペラが上演されている。まあダイジェスト版といったところか。演奏はもちろんPAを通じて流れる。演者は男性2人、女性2人だけ。屋外ということもありヘッドセットのマイクをつけている。でもきちんとしたオペラの歌唱である。

 驚きつつ観客の中に加わりそこで歌声に聴き入った。少し聴くと演じているのは『蝶々夫人』であることがわかった。こんな感じである。

 もろもろ著作権とかあるので、クレームが入ったらすぐに動画は消すつもりだけど、とにかく素晴らしかった。

 もともとオペラはCDやテレビで聴くだけで実際に観たことなどない。言葉が判らないと筋も理解できないだろうし、事前に押さえる情報が多すぎるとか思ったりもする。でもその歌声や演奏にはCDなどでも聴き入ることが多い。

 そして野外とはいえ実際の歌声はどうか。聴いていて不覚にも落涙した。目がうるうるどころでなく涙が伝うくらいに感動してしまった。オペラってちょっとやばいなという感じである。

 演じていたのは東京二期会のメンバーで、野外オペラについては時空間絵巻の屋外エンターテイメントのようだ。

「Tokyo Opera Days」10月9日~15日開催 | オペラを楽しむ - 東京二期会

(閲覧:2023年10月14日)

時空間絵巻とは?|『時空間絵巻』公式サイト

(閲覧:2023年10月14日)

 そして蝶々さんを演じているのは谷原めぐみさんという方。

いかなるめぐみぞ ソプラノ歌手谷原めぐみの歌人生(閲覧:2023年10月14日)

 

 思いがけないオペラとの遭遇だったけどとにかく素晴らしかった。何の予備知識もなくいきなり聴いたということで、何かストレートに心に入ってきたみたいな感じ。多分涙が出たのはそういうこともあるんだろうか。

 昔、シェールが主演した『月の輝く夜に』という映画を観たことがある。そこでシェール演じるオールドミスが義手のパン職人ニコラス・ケイジとデートをする。それがオペラを観に行くというものだった。そのときはアメリカでは上流階級ではなく、ワーキングクラスの生活にも普通にオペラ鑑賞というのがあるのだと思ったりもした。もっともこの映画で描かれるのは、リトル・イタリーでのイタリア移民たちの生活だったので、イタリアとオペラという部分もあるかもしれない。

 オペラを観に行く中年のカップルの初デート、二人は思い切りお洒落をしている。イタリア移民のワーキング・クラスからすると、オペラ鑑賞はちょっとよそ行き的にお洒落してでかけれるハレの世界なのかもしれない。イブニング・ドレスに身を包んだシェールは、それまでの生活に疲れたオールドミスとは見間違うほど美しい。もっともこれはシェールだからこそかもしれない。そしてそんなシェールに見とれるニコラス・ケイジ

 シェールはオペラを観て感動する。彼女の頬を一筋の涙が伝う。自分の落涙も多分それと同じなのかもしれない。というかこの涙はあれだ、『月の輝く夜に』のシェールのあれだと思ったりもした。まあこっちはくたびれた老人のくたびれた涙ではあるのだけど。

 才能ある歌い手の訓練された熱唱、それがいかに人の心を動かすのか。そんなことを思ったりもした。オペラって凄い。思いがけずそういう良い体験をした。

 オペラは高い、高尚過ぎる、みたいな印象があり、ちょっとハードル高いなと思ったりもしているのだが。まあ実際、海外の有名どころだと、オペラやバレイを観るとなるとポールやディランのライブに行くのと同じか、それ以上になったりもする。

 とはいえもう少し身近にオペラを観る機会もあるのかもしれない。ちょっとオペラにはまりそうな予感がしたりして。