キル・ボクスン

キル・ボクスン | Netflix (ネットフリックス) 公式サイト (閲覧:2023年4月10日)

キル・ボクスン - Wikipedia (閲覧:2023年4月10日)

 これはNetflixで観た。なんの予備知識もなく、期待することなく観たがまあまあ面白かった。超一流の殺し屋が、家ではシングルマザーとして子育てに奔走みたいなシチュエーションにちょっと興味をひいた。

 ギル・ボクスンは暗殺請負会社MKエンターテイメントに所属する一流の殺し屋。業界では尊敬を込めて「キル・ボクスン」と呼ばれている。一方では、15歳のこじらせ系の一人娘の母親でもある。彼女は娘とのコミュニケーションもうまくいかず、子育てに悩む日々を送っている。ボクスンは娘との関係を修復するために、会社との契約更新のタイミングで引退を決意する。その最後の仕事は、子どもの不正受験スキャンダルを追求された政治家が自分の子どもを自殺を装って殺害するというものだった。その秘密を知ったボクスンは、「会社の仕事は必ず請け負う」という気即を破ってしまう。そして彼女は殺し屋業界全体から命を狙われる。

 女性が殺し屋であり主人公である。派手な日本刀、斧、ナイフなどを用いたアクションがあることなど、多分タランティーノの『キル・ビル』あたりをオマージュしている。そして一流の殺し屋が思春期の娘の子育てに悩み、そっけない応対ばかりでほとんど口もきかない娘とのコミュニケーションに苦労する。おまけに娘は学校で事件を起こすわ、ゲイであることを告白するわ。

 こじらせた娘との関係に悩む母親。おまけに娘はゲイである。なんかつい最近そういう設定の映画を観たような気がする。って、あれだ『エブ・エブ』こと『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』だ。両方ともアジア系の女優が主演でド派手なアクション付きだ。

 しかし最近は母子の葛藤劇を描くのにSFカンフーアクションだのクライム・アクションだのという突飛な設定にしなきゃならんのか。ちょっとばかり「やれやれ感」が漂う。これはもともとアクション映画にドメスティックな問題を付加したのか、それともドメスティックなテーマを普通ではもう食傷気味だろうから、そこにハードなSFだのアクションだのをぶち込んでみましたなのか。もっとストレートにしてもいいのではないかと、ちょっと思ったり。

 そのせいか、今時の重要なテーマであるべきLGBTがなんとなく皮相なものになってしまうような気もしないでもない。こういう多様性とかアイディンティティに関わる問題をチープな素材にしちゃいけないのでは、と思ったり。

 まあそこまで堅苦しくは考えないで、映画、作り物の世界ということで、普通に殺し屋かつシングルマザーの子育ての憂鬱というギャップを楽しむべきなのでしょう。『エブ・エブ』だって中年婦人の憂愁とマルチバース&カンフー・アクションを素直に受容すればいいと、まあそういうものだ。

 なのでややこしいことあまり考えず、とりあえず楽しんだ。まあまあ面白かった。ボクスンとその上司かつ超A級の殺し屋であるMKエンターテイメントの代表者チャ・ミュンギョとの関係も微妙かつ複雑。その関係は二人の出会いのシーンにあるのだが、なんかこれもどこかで観たことがある。

 殺し屋が17歳の女子高生のボクスンと会う。そしてボクスンの意外な行動と魅力的な笑顔。900年生き続けるイケメンの鬼が現代において女子高生の女の子に心を奪われるとかいうドラマ『トッケビ~君もがくれた愛しい日々』にもそんなシーンなかったっけ。

 殺し屋でシングルマザーというある意味シチュエーション・コメディでもあるので、小ネタもけっこう満載である。冒頭、拉致した在日のヤクザと闘うシーンは日本語なんだけど、その日本語がカタコトっぽくてやや失笑。これって日本の市場ではちょっと受入れにくいところがあるかもしれない。もっとも韓国ドラマ見ていると、けっこう日本人や日本語はネタ的に使われるから、そういうものと受け入れればいい。

 殺し屋ボクスンが予定表を見て、明日は保護者会となり、子どもに何を着て行くべきか相談するとか、保護者会(金持ちのマダムがカフェで談話する)では出張が多くて子どもと接する機会がないとか適当に言い訳したり。

 さらには子どもがボクスンのバックから拳銃と偽造パスポートを見つけ、「ママの仕事は本当になんなの」と問い詰める。ボクスンが言いよどんでいると、娘はひょっとして国家保安院と聞く。ボクスンが「それは答えられないの」と言うと娘が納得するとか。

 とりあえずこの映画はあんまり深刻に観てはいけない、殺し屋とシングルマザーというギャップ、そういうシチュエーションが醸す笑いと迫真のアクション、そういうのを楽しめばいいと思いました。あんまり深く考えない、悩まない。

 主演のチョ・ドヨンは50歳、ベテランの美人女優さんらしい。

チョン・ドヨン - Wikipedia (閲覧:2023年4月10日)

 深夜、映画観ている最中に、これ日本でリメイクするなら誰がいいかなとか適当に考えていたりして。個人的には大塚寧々あたりかなと思った。

 この映画、Netflixの非英語圏映画部門では全世界1位になっているとか、まあまあヒットしているようだ。ようはアジア圏でヒットしているということ。そういう意味では冒頭の日本語カタコトもけっこう受けるのかもしれない。