東京都美術館「ボストン美術館展 芸術✕力」 (9月22日)

https://www.tobikan.jp/exhibition/2022_boston.html

【公式】ボストン美術館展 芸術×力|日本テレビ

 健康診断の後時間が空いたので、前から気になっていた東京都美術館ボストン美術館展 芸術✕力」に行って来た。この企画展は当初2020年に開催予定だったのが、コロナ禍順延となっていたもの。海外に流出した国宝級の二大絵巻2点《平治物語絵巻》、《吉備大臣入唐絵巻》の里帰りが目玉でもある。

 《平治物語絵巻》は、ちょうど通信教育で受講している日本美術史でテキストに出ていたので、観ておきたいと思っていた。先週、藝大美術館に行った時、この展覧会が10月2日までと知り、なんとか行かねばと思っていた。

 教科書の解説によれば《平治物語絵巻》の概要は以下のとおり。

平治物語絵巻》は、13世紀後半の作と考えられる鎌倉時代合戦絵巻の代表的な傑作。現存するのは、「三条殿夜討の巻」(ボストン美術館蔵)、「信西の巻」(靜嘉堂文庫美術館)、「六波羅行幸の巻」(東京国立博物館)の三巻と所行分蔵の「六波羅合戦の巻」残欠14図だけとなっている。もともとは15巻程度の規模であったと推測される。

 「三条殿夜討の巻」(九紙~十一紙)は、平治の乱のきっかけとである藤原信頼源義朝による後白河上皇の拉致と御所三条殿の焼き討ちを描いている。政敵である信西の首を求め三条殿を襲う信頼・義朝軍がなだれ入って、屋敷を焼く火と武者に追われ、井戸に重なるように逃げ込み命を落とす女房や武者に斬首される公卿の様子などの凄惨な場面が克明に描かれている。また武具甲冑も細部にわたって描き分けられており、当時の武士の姿を知る貴重な資料となっている。

『日本の芸術史造形篇Ⅱ 飾りと遊びの豊かなかたち』(藝術学舎)P34

 たしかにこれがリアルである。非戦闘員の公卿が無残に斬首される。戦争の悲惨さともとれるし、それまで支配階級としてののうのうとしてきた貴族が、武家軍団に襲われるこの場面は、ある種時代の変化、権力構造の変遷を視覚化しているといえるかもしれない。

 

 平安時代後期から合戦絵巻の存在は知られており、『吾妻鏡』などにも「将門合戦絵」や「奥州十二年合戦絵」などの記述があるが現存していない。そのため今回の《平治物語絵巻》は13世紀後半の作品で現存する稀有なもので、日本にあれば国宝級の芸術品である。そうなるとなぜこの作品が海外に流出したのが気になってくる。それについては以下のサイトにあるとおり、明治初期のお雇い外国人アーネスト・フェノロサによるものだったらしい。

(2ページ目)ボストン美術館が“至宝の絵巻”を所蔵するワケ〈誰が「国宝」を流出させたか〉 | デイリー新潮

平治物語絵巻》は、もとは旧三河国西端(にしばた)藩主本多家の所蔵で、故あって市場に流出した作品だ。手に入れた道具商は500円(現在価値で約1200万円)で売り歩いたが買い手がつかない。たまたまフェノロサに見せたところ、言い値の倍にあたる1千円で買うという。ただし誰に売ったかは口外しない条件が付いた、という話が伝わる。どうもフェノロサは、この絵巻の海外持ち出しを政府が禁じることを懸念して、道具商の口を封じたようなのだ。

 フェノロサ岡倉天心とともに日本の古美術を再興した人物といわれるが、なんのことはない、お雇い外国人の地位を使って日本の美術品を多数海外に流出させた人物なのかもしれない。そういうことを考えると、別にふつふつとナショナリズムの血が騒ぐみたいなことはないけれど、なんとなく微妙な気分になる。この気分は多分、自国の貴重な歴史的遺物が、海外の博物館の所蔵になっていることで覚える、エジプトや南米諸国の人々の気分と同様なのかもしれない。

 今回の目玉である《平治物語絵巻》や《吉備大臣入唐絵巻》も次に見ることが叶うかどうかは微妙である。まして自分のような高齢者にとってはなおさらなことである。最も国内にある多数の国宝級の美術品、遺物だって、なかなかお目にかからないのだから、まあ同じようなものかもしれない。逆に、管理の問題的にはボストンのような美術館に収蔵されるのも良しとべきなのかも。難しい問題ではある。

 これに対して《吉備大臣入唐絵巻》は、唐に渡った吉備真備が中国皇帝から無理難題をふっかけられながら、これをすべて退けるという活躍譚。鬼になった阿倍仲麻呂は出てくるわ、二人して飛行術を駆使するわ、当時の説話絵巻が一種の漫画のようで楽しめる。

 こちらについては、1932年(昭和7年)に大坂の古美術商が売り立てに出したが買い手がつかず、当時ボストン美術館の東洋部長を務めていた富田幸次郎が購入してボストンに持ち帰ったという。国宝級の美術品の海外流出を止めることが出来なかった法的不備のため、翌年「重要美術品等ノ保存ニ関スル法律」が公布・施行され、美術品の国外流出を防ぐ処置が取られるようになったのだとか。

吉備大臣入唐絵巻 - Wikipedia

 

 その他の作品できになったものを幾つか。

《灰色の枢機卿> (レオン・ジェローム

 アカデミスム、新古典主義の人だったか。たしか渡仏した山本芳翠はこの人に学んでいる。

《国王の戴冠式におけるチャールズ・スチュアートと甥》 
(ジョン・シンガー・サージェント)

 ジョン・シンガー・サージェントはアメリカ人画家で、イタリア、フランスで美術教育を受け、フランス、イギリスで活躍した。肖像画を得意とした人で、その才能は本作にも十分に発揮されている。個人的には大塚国際美術館で観た《カーネーション、リリー、リリー、ローズ》カーネーション、リリー、リリー、ローズ - Wikipedia が気に入っている。いつか実作を観てみたいものだと思っている。

 

 今回の企画展、ウィークデイの午後だったがさほど混んでいなかった。前週の藝大美術館とは大違いだが、やはり絵巻物と伊藤若冲の相違かなとも思った。とはいえ目玉の《平治物語絵巻》、《吉備大臣入唐絵巻》の前にはずっと長蛇の列が出来ていた。とはいえ、その他の作品の前では人は疎らで、ゆっくりと鑑賞が可能だった。