府中市美術館

 そろそろ世の中は動き出してる頃なので、どこか美術館に行ってみようかということになる。最初はトーハクの「美術館に初詣」に行ってみようかと思い高速道路を走らせていたのだが、所沢あたりから雪が舞い始める。これはちょっとまずいかなと思った。車はスタッド履いているので少々の雪は問題ないけど、上野だと駐車場からけっこうな距離を移動することになる。雪や雨だと車椅子押してはちときつい。

 練馬で下道に降りたあたりでほとんど吹雪みたいな感じになってきたので、急遽方針変更する。近場で行ける美術館と頭の中で巡らせる。練馬は確か小林清親やってたな、でもあそこは駐車場が1~2台身障者用にあるけど、たしか事前予約が必要だったっけ。練馬から八王子の富士美だとけっこうかかるな、などなど。それで思いついたのが府中市美術館。あそこは地下に身障者用の駐車場スペースがあり屋外に出ることなく館内に行ける。ということで谷原の交差点を右折したところで急遽ナビに入れる。だいたい1時間弱というところ。

 ということで新年2回目の美術館参りは府中市美術館となりました。しかし途中から雪は本降りみたいな感じで交通量の多い道路は問題ないが、歩道や周囲にはじょじょに積もり始めている。天気予報だと大雪の恐れありとのことだったけど、けっこうあたりそうな気配である。

 府中市美術館についてから中にある喫茶コーナーで軽食とったのだが、もう外は完全に雪景色になりました。

 

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 そして企画展として開かれていたのがこちら。

池内晶子 あるいは、地のちからをあつめて 東京都府中市ホームページ

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 池内晶子という人は初めて知る。絹糸を空間に張り巡らしたり、上から垂らすなどしてその場の空気を含めた空間芸術を構成する作家ということらしい。広い2階の展示スペースを3室使って3点の新作をが展示してあるのだが、作品名も解説もなにもない。ただそこには空間の宙に浮くような、あるいは上から垂れ下がるような糸があるだけ。ただしなにか張り詰めた緊張感のある空間ということだけは感じ取れるような。

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 第1室の作品、床に敷き詰められた赤い絹糸と宙に浮く絹糸。よく見るとこんな感じのようだ。

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 一瞬、なんかジョージア・オキーフの立体版みたいなと思ったのだが、まああっちはもっとどぎついイメージだからちょっと違うかも。しかしここから何を理解すればいいのだろう。

 次の部屋は暗く、上部から一本の糸が垂れているだけ。

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 静謐なイメージの中で時折空気の揺れに呼応するかのようにして揺れる絹糸。形而上学的な芥川の蜘蛛の糸みたいな。もうこうなると「考えるな、感じろ」みたいなものかしら。

 モダン・アートに関してはとんと疎いので、これらの作品については思考停止というかとりあえず判断保留します。ただし日常空間とは異なる亜空間的非日常みたいなものだけは、なんとなく感じられる。現代アートの雰囲気を味わいたいという美術ファンには割とすんなり入ってくる空間的作品かもしれない。

 

 そして常設展の方はというと「『あのとき』からの美術」、「牛島憲之の四季」、「府中・多摩の美術探訪」という三部構成になっている。

 最初の展示の中で興味を惹いたのは吉田ふじを。洋画家、版画家の吉田博の夫人で、二人は1903年に渡米し、アメリカで絵を売って生活を送ったという。二人はボストンで個展を開くなど評価を得た。帰国後は女流洋画家の先駆けとして活躍したという。

吉田ふじを - Wikipedia

 吉田ふじをは11歳で小山正太郎の不同舎に入門したという。不同舎の若い門人は外国人向けの絵葉書的な水彩画を描きそれを売って生活の糧にしていたという。今回展示してあった吉田ふじをの水彩画はそういう「おみやげ絵」的な要素をもったものが多いようだった。

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『少女と網を持つ少年』(吉田ふじを)

 

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『代々木風景』(村山槐多)

 MOMATにある『バラと少女』、あのガランスの村山槐多である。解説の中に岡崎出身、京都で育ち、上京後は小杉未醒の家に寄宿していたという。当然、未醒に絵の手ほどきを受けたのかもしれない。元旦に日光で観た小杉放菴の作品をちょっとだけ頭に浮かべてみたりした。

 

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『残夏』 (牛島憲之)

 府中市美術館は世田谷在住だったが、府中によくスケッチで来ていたという。その縁で死後、遺族から111点の作品が府中市に寄贈された。その翌年に府中市美術館は開館されたこともあり、牛島憲之の作品が美術館の所蔵品のベースになっている。そのため2階展示室は企画展覧会用の展示室と常設展示室及び牛島憲之記念館と銘うってある。

 牛島の作品はデフォルメをきかせた風景画がほとんどである。いずれも静謐で抒情性のある趣をそなえている。今回、観た作品に限っていうと年代ごとに作風が変わっているようだ。なぜかわからないが、戦前の作品の方が明るい色調であり、戦後はやや抑えた雰囲気で色調はやや暗い雰囲気になっている。

 面白かったのは同じ戦前の作品でも昭和19年くらいの作品より13年に描かれた作品の方が色彩感に溢れているような感じがした。そして最も最近のものになると抑えた色面により画面構成が成されているような感じだった。