ドナルド・バード「ブラック・バード」

 最近ドはまりして聴いている。1973年にリリースされたドナルド・バードフュージョン系アルバム。ブルーノートで最もヒットしたアルバムといわれている。

 ドナルド・バードはもともとクリフォード・ブラウン直系のハードバッパー。アート・ブレイキージャズ・メッセンジャーズにも確かケニー・ドーハムの後釜として加入していたと聞いている。1955年~57年あたりのジャズ・メッセンジャーズのトランペットはブラウン、ドーハム、バードと続きその後に天才少年リー・モーガンが加入するんだったか。

 ドナルド・バードブルーノートでリーダー作を出す他、セッションメンバーとしても多く参加している。ポール・チェンバースの「WHIMS OF CHEMBERS」なんかを愛聴してきた。

 このへんの知識というか、ハードバッパーとしてのドナルド・バードを聴き始めたのは多分大学生になってからで70年代の後半以降だと思う。そもそも最初にドナルド・バードを知ったのは兄が買ってきたこのアルバムだ。

  多分、中学生くらいの頃だから70年前後だったと思う。兄はこれぞファンキーみたいにして聴かせてくれたが、すでにコルトレーンとか聴いていた自分には、あまりにもポピュラー系に振ったような女性コーラスの入った演奏が今一つだったように思う。今ではけっこう先駆的だと思ったりもする。ハービー・ハンコックの「ウォーター・メロンマン」とかも取り上げていて、デビューしたてのハンコックを重用したのもバードだったとか、これは後になって知ったこと。

 そしてライナーノートにも書いてあったが、ドナルド・バードは大学でジャズを教えるような知的な側面も持ち合わせていた。兄曰く大学教授にしてジャズ・ミュージシャンは彼だけだというようなことだった。

 実際、改めて彼のキャリアをみてみると確かに凄い。フランスでブーランジェに作曲法を学んだりもしている。話は脱線するけどブーランジェに学んだジャズメンはけっこういるようで、門人一覧の中にはドナルド・バードの他にもジジ・クライス、クインシー・ジョーンズキース・ジャレットなどの名前を見つけることができる*1

 話は脱線に次ぐ脱線したけど「BLACK BYRD」に戻す。この作品はミゼル兄弟*2の協力で作られた作品。弟のラリーがプロデューサーで、兄のフォンスが協力する形となっている。フォンス・ミゼルはモータウン系のミュージシャン、作曲家としても活躍していて、ジャクソン5のヒット曲「A・B・C」の共同作曲者の一人でもある。

 このアルバムはジャズ・フュージョン、ブラック・コンテポラリーやファンキーとジャズを融合したという風にいわれることが大きいが、まちがいなくモータウン系の新潮流をジャズに取り入れた、あるいはモータウンサウンドにジャズ・ミュージシャンが参入したような風にとれる。多分キーになったのはマーヴィン・ゲイが1971年に出した「What's Going on」ではないかと密かに思ったりもしている。あの独特なグルーヴ感みたいなものをよりジャズ的にアプローチしたのがこのアルバムかなとか思っている。

 とはいえこのグルーヴ感を説明するのが難しい。一般的にはレコードの溝を語源として、ある種の高揚感やズレ、うねりのような感覚をいうとある。個人的にはその高揚感は、実は抑揚をどちらかといえば抑えたような単調かつ反復されたリズムが続いていくある種の浮遊感覚。その中で小さくうねりが次第に高まるような音楽をなんとなくグルーヴ感があるみたいに思っている。

 そういうグルーヴ感を感じさせるのは1曲目の「FFlight Time」。


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 そして最後の曲「Where Are We Going?」。


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 この曲はタイトルからしてどことなくマーヴィン・ゲイのヒット曲へのアンサー・ソングみたいな感じもしないでもない。

 1曲目と最後の7曲目、いずれもファンキーだけどどこか抒情的な雰囲気を醸している。1973年の作品、50年近く前の作品だがちっとも古さを感じさせない。ドナルド・バードは知的かつ進取の気性の人だったんだなと思いつつ、しばらくはマイブーム的にこのアルバムを聴いている。

*1:ナディア・ブーランジェ - Wikipedia

*2:マイゼルという表記もあるようだけど、ミゼルの方が発音的に近いみたい