「NEW BLOOD」・BLOOD,SWEAT & TEARS

ずっとずっと手に入れたいと思っていた1枚。1972年作、BSTの5枚目になるアルバムである。いつ頃から聴いているのか、たぶん1972年か73年のあたり、FM放送で紹介された本作をエアチェックしたんだと思う。最初はたぶん持っていたオープンリールのデッキだったろうか。それをカセットにダビングしてずっと長いこと聴き続けた。そのテープもいつの間にか紛失してしまい、かれこれ20年以上記憶の中だけで音を反芻してきた。
先日、ほろ酔い気分で何気にアマゾンで検索すると当然のごとく簡単にヒットした。懐かしさとアルコールの勢いで速攻クリックして購入。ここ数日は送られてきたそれをずっと聴いている。
BSTの看板スターだったヴォーカル、D.C・トーマス脱退後の最初のアルバムなのだが、それまでのブラス・ロック、あるいはリズム&ブルース的なフレーバーを脱して、ジャズ的要素を多くとりいれている。そのへんが時代の少しだけ先を行き過ぎていたのかもしれない。つとに失敗作と酷評された作品でもある。
新しく加わったヴォーカル、ジェリー・フィッシャーもD.C・トーマスに比べて力不足ともよくいわれていたが、私なぞは泥臭いD.C・トーマスよりも洗練されていて、なんとなくスティーリー・ダンドナルド・フェイゲン)を彷彿とさせる。
このアルバムの白眉となるのはLP時代でいえばB面、CDでいえば後半の3曲。7曲目のスローナンバー「SO LONG DIXIE」、そして8曲目「SNOW QUEEN」と9曲目「MAIDEN VOYAGE」の流れだ。特に8曲目と9曲目は継ぎ目なしでさながら組曲のようであり、8ビート、16ビートのジャズ・テイストに溢れていて、クロスオーバー・ジャズ、フュージョンの先駆を成すようなドライブ感だ。
SNOW QUEEN」はライナー・ノーツを見ると、なんとキャロル・キングの作品だという。キャロル・キングも長いことずっと聴いてきているが、この曲のことは知らなかった。もっとも10代の頃から作曲家として活躍している彼女のことである。たぶん私なぞが知らないヒット・チューンがそれこそ数多あるのだろうとも思う。試みに”SNOW QUEEN Carole King”で検索をかけると彼女がシンガー・ソング・ライターとしてブレイクする以前、1968年にTHE CITYという3人組バンドを組んでいたときの作品だということがわかる。ぜひとも彼女のオリジナルも聴いてみたいとも思う。
しかしキャロル・キングからハービー・ハンコックへの流れというのは今さらながら鳥肌ものの選曲である。そして「MAIDEN BOYAGE」である。ハンコックの新感覚のジャズ・チューンとして大ヒットした邦題「処女航海」である。これはたぶん中学生の時代に聴き知っていた。まあ中坊のジャズ半可通である、「テイク・ファイブ」「サイド・ワインダー」「処女航海」この3曲だけをお題目のようにてジャズ知っているみたいな顔していたんだろうな。さらにマイルスの「枯葉」あたりで終了だ。
そのほとんど唯一知っているジャズの名曲(当時の私にとって)をBSTがとりあげている。これには正直痺れた。さらにいえばこのアルバムから参加したギタリスト、ジョージ・ワデニウスのソロが最高だった。スキャットとユニゾンで弾く早弾きのアドリブは、ロックの域を超えたまさしく16ビートジャズだった。このスキャット奏法(とでもいうのだろうか)、今でこそ珍しくもないテクニック、奏法の一つとしてそれなりに定着しているだろう。でも1972年という時代にあっては、えらく斬新な感じがした。
ジャズについていえば、当時でもライオネル・ハンプトンの「スター・ダスト」あたりは一応聴いてはいた。この名盤中の名盤、名演奏の中でベーシスト、スラム・スチュアートがアルコとハミングのユニゾンというユニークなアドリブをやっている。スラム・スチュアートはこの奏法を売りにしていたらしいのだが、16〜17歳の私には、ワデニウスのギターソロは、スラム・スチュアートの奏法のギターへの慣用という風に聴こえた。そしてそれがえらく斬新なものとして響いた。ジャズとロックの融合みたいな感じでストンと落ちた。当時、ようやく使われ始めたクロス・オーバーというのはこういうものみたいに了解できた。
私にとっては、ジャズとロックの融合についての理解は、本作とデオダートの「ツァラツストラ」によって可能になったのだと思う。それくらい個人的には思い出深き作品だ。

Blood, Sweat & Tears - Snow Queen / Maiden Voyage