思えば80年代、90年代の音楽、映画はあまり同時代的に享受してこなかったような気がする。例えばシェリル・クロウも21世紀になってだいぶ経ってから聴き始めたし。
その頃なにをしていたかというと、多分仕事が忙しかったんだろうと思う。20代後半から30代、まあ働き盛りというかなんというか。大学を卒業してから転職を重ね、40になるちょい手前までに6度仕事を変わった。同じ業界だったけれど、小さな会社を転々として、かなりハードな仕事をしていた。何度か書いたかもしれないけれど、出版社の営業をしてた頃の最盛期は週に2回くらい会社に泊まったり、徹夜みたいなこともしてた。外回りと内勤業務、管理業務などなど、降りかかってくるありとあらゆることに対応した(させられた)。
同時によく飲んだ。夜の10時に仕事を終えてから飲みに行くなんてざらだった。青山近辺に勤めていた頃は六本木あたりで夜通しなんてことも割と日常的だった。2時過ぎに横浜までタクシーで帰るなんてことも割とざらにあった。金が貯まる訳がない。
音楽は何を聴いてたんだろう。映画は何を観ていたんだろう。二十代の半ばからというと、新しいものよりも古いものへ、古いものへと遡行するようなことをしていたのかもしれない。今の音楽を聴いていると、それが引用しているものを聴きたくなる。引用は多岐にわたり、様々なジャンルにということになる。
例えばジャズについても中学くらい聴いているのに、いまだにニワカみたいなものだ。ブルーノートも1500番台、4000番台はけっこう聴いたつもりだが、いかんせん奥が深すぎる。ジャズ喫茶に入り浸っていても、聴いたことがない名盤や演奏が沢山ある。古いものへ、古いものへと遡行していくうちにじょじょに新しいものを遮断するようになっていく。
たまに友人から、「こういうの聴いた」「これいいよ」みたいなことで教えてもらったり、貸してもらったり、自分で求めても多分ちょっと聴いたあとは棚のどこかに入ってそのままみたいなことになる。
映画もまた同じように古いものへ、古いものへと遡行していく。ミュージカルも西部劇も、ヌーベルバーグも観るべき映画はたくさんあった。ちょうどビデオやDVDなどソフト類も流通してきた頃だから、ライブラリーは増えていった。学生時代のように名画座巡りなどしなくても良くなった。でも新しいものを追いかけるなんてとても、とてもだった。
なかなか行きつかないけど、k.d.ラングである。最近、相互フォローしている方のツィートで紹介されていて聴いてみることにした。k.d.ラングのk.d.はJ.D.サウザーのJ.Dみたいなものだろうか。
1961年生まれの61歳。ぜんぜん若くない。デビューは1983年くらい。カナダ出身でカントリー・ミュージック畑から出て来た人らしい。カナダというとジョニ・ミッチェル、ニール・ヤング、ロビー・ロバートソンなんかがいるか。見た目やスタイルからしても割とミエミエなんだがLGBTの人らしい。k.d.ラングは正式にはキャスリン・ドーン・ラングというのだとか。
とりあえずAmazonで初期ものをゲットしてみる。多分、入門編としてはこのへんが一番だろうと適当にあたりをつけてみた。
Ingenue、アンジャニュウと読むらしく、おぼこ娘、初心な娘とか意味する。ライナーノートを読むと、それまでカントリー畑だった彼女がポップスやアダルト・コンテンポラリー方面に向かった転機となるアルバムらしい。
一曲目の「SAVE ME」を聴く。大昔の表現なら「レコードに針を落とすと聴こえてくるのは」とでもいうのだが、そのゆったりとした流れから彼女の柔らかいアルトな歌声が流れてくる。一声聴いてなんとなくルーマーみたいと思ったが、考えてみるとk.d.ラングのほうが先なんだよね。
2曲目の「THE MIND OF LOVE」、これはちょっと、あれ、誰だっけ、ラビ・シャンカールの娘・・・・、そうノラ・ジョーンズだ、そのノラ・ジョーンズっぽい。って、k.d.ラングの方が先なんだけど。
ルーマーを最初聴いたときに、ちょっとカレン・カーペンターみたいと思ったのだが、当然のごとくk.d.ラングもカレンっぽい。やわらかな優しい、そしてめちゃめちゃ歌の上手なアルト系のポップ・シンガーはすべからくカレン・カーペンターっぽいという法則がある。と、これは今思いついた。
話は脱線するけど、ノラ・ジョーンズもジャズ畑とカントリー系をいったりきたりしているような印象があるんだけど、k.d.ラングもそんな境界線上を軽く飛び越えるような感じがする。ジャンルがどうのこうのではなく、彼女の音楽みたいなものが確立されているみたいな。それだけボーカルに力量があるということだろうか。
そして3曲目「MISS CHATELANE」、これはもう完璧なキラーチューン。そしてノンジャンルというか無国籍ミュージックみたいな感じ。多分、この曲はヒットしたんだろうなと2021年の現在においてそんなことを思っている。
この他では10曲目、CDの最後を飾る「CONSTANT CRAVING」もオルタナというかフォークっぽい感じでいい。多分、この曲も彼女を代表する曲なんではないかと適当に思っている。
このアルバムともう1枚、「all you can eat」もポチった。これもなかなか良いアルバムなんだが、これについてはまたいつか。