箱根から熱海へ

 伊豆旅行に行くことにした。

 夏季にだけ契約施設として泊まることができる下田のホテルの部屋がとれたからだ。ここは現役時代は抽選で毎年申し込んでも一度も当たった試しがなかった。ウィークディで夏休みの前ということでたまたま空いていた。コロナ禍こういう小旅行にどこか心苦しい思いもあるが、移動はすべて車、ウィークデイのため美術館にしろ観光地にしろ人は少なく、家の近所で買い物をするよりもはるかに密を避けられると、適当に言い訳している。

 伊豆の美術館では熱海のMOA美術館、伊東の池田20世紀美術館などが有名である。今回は下田にあるという上原美術館に行くつもりだ。MOAについては先日の土石流災害のため、熱海の道路が分断されている。少なくとも湯河原から熱海への海岸線の道路は通行止めになっているので難しいと思っていた。MOA美術館のHPでは営業再開しているとのことだが、難しいかなと思ったが、ナビで検索すると山沿いの道を通って行けるようだったので、ままよと行ってみることにした。

 ナビの案内では圏央道、東名、厚木小田原道路を通ってから箱根新道に入り、山沿いから熱海に下るというもので到着時刻は9時半頃という。高速道路は平日ということもあり順調に流れていたが、箱根新道に入り箱根熱海峠線へと山道を進む頃になるといきなり霧に覆われる。それも前方視界10メートルあるかないかというかなり酷い状態で正直ビビる。ほとんど車は通らないのだが、たまに地元車とかが対向車線から来るとけっこうなスピードを出していたりする。

 さらに多分熱海梅ラインに入ったあたりからだろうか、物凄い雨が降ってくる。天気予報では確か曇りのはずだったのだが、山の天気はなんとかんとかというところだろうか。途中から道路には片側の山から流れてくる水で川みたいな状態になっている。こんな雨が一日中降ればそれは土石流も起きるだろうと思ったりもした。

 幸いだいぶ降りてきてじょじょに別荘だか旅館だか、建物が少しずつ増えてくると雨もだいぶ小ぶりになった。しかし坂道がきつい。熱海は町全体が崖に家が点在するようなイメージがあるがそれを実感する。

 以前、岩波茂雄の別荘だった惜礫荘を見に行ったことがある。今は佐伯泰英が買い取っているという。知人の案内で別荘の前のところで佐伯氏がちょうど出かけるところだとかで中に入ることはできなかったのだが。あの一帯の急坂にはえらく難儀した。2台の車で行ったのだが坂の途中にカーブが何箇所かあり、知人が運転する車は切り返してもうまく登ることができないで何度か切り返し、最後は同乗者が後ろから押して登るみたいなことになった。自分はなんとか登ることができたがタイヤが空回りして、道路に焦げ付いたようなタイヤ痕が残った。

 自分の中で熱海の市街地はヤバいというトラウマがある。とはいえMOA美術館には何度か行っているので、あの周囲はそれほどキツい坂はなかったという印象がある。美術館に近づくと消防車両が増えてくる。駐車場の一つには消防車や警察車両が10台近く止まっていた。そうなのだ、MOA美術館は当初、被災者が避難していたと報道があった。さらに消防等が駐車場を対策拠点として使用しているということも何かで見た記憶がある。

 実際に消防車両が止まっているのを見ながら進むと館内に一番近い場所に身障者用の駐車場があり係の人に案内されて止める。MOA美術館自体は9時から通常営業しており、普通に入場できた。

f:id:tomzt:20210714122832j:plain