歯痛の話

 2年前に抜いた右奥歯付近がずっと痛い。歯茎の腫れと痛みが舌や喉の方にまでいっている感じ。しかも骨が隆起して歯茎から出てきている。検索すると骨の隆起うんぬんという症状がヒットする。2週間前に地元の歯医者で隆起して少しだけ顔を出している骨を少し削ってもらい痛み止めにロキソニンを出してもらう。次の予約は歯石除去のクリーニングとかで三か月後。でもその後もずっと痛い。

 なので、都内の健保の診療所の歯医者を予約して今日行って来た。基本的な診断は地元の歯医者と同じだが、抗生物質と痛み止め(カロナール)を一週間出してもらい様子をみることにする。舌や喉の痛みはちょうど顎の骨の神経と交錯してる部分のためということらしい。

 もし痛みが続き状態が酷くなるようだと、大学病院等での施術が必要になるかもしれないという。歯茎を切開して顎の骨を大掛かりに削るようなことになるという。

 歯の痛みは気持ちを憂鬱にさせる。それは子どもの頃であろうが還暦を過ぎてからだろうが同じことである。あまり舌とかで腫れている部分に触れないようにとは言われたのだが、気になるのでどうしても触れてしまう。地元歯医者で削ってもらった部分とは異なるところで骨の隆起が感じられる。

 抜歯したのは都内の別の歯医者だった。そこには1年以上通って左上、左下、右上、右下と奥歯の治療を行った。それぞれ10~15万くらいかかっただろうか。最後に右下の治療を終えてしばらくしてからまた激痛に襲われたので慌てていく。なんでも歯の根幹の部分が膿んでいること、歯が割れていて修復不可能なため抜歯せざるを得ないということだった。実際、歯を抜くとすぐに痛みはなくなった。

 歯を抜く前には一番奥なので、特に入れ歯とか考えなくてもいいということだったが、抜いたとたんに説明が変わった。抜いたところよりそれとかみ合わせとなる上の歯に影響があるのでブリッジを入れた方がいいという。費用はやはり10万程度と。

 還暦も遠に過ぎ、これからあとどのくらい生きるのか。歯にどれくらい費用をかけねばならないのか。諸々費用対効果も考えなくていけないかと思った。多分、この歯医者に通うと、直した奥歯がまた悪くなれば多分インプラントを勧められるようになる。一本30万の世界だ。

 いろいろ考えて、その歯医者に通うのはやめた。もう歯にそれほど金はかけたくないという思いが一番。それから1年ちょっとして会社を辞めてから地元の歯医者に定期的に行くようになった。幸い、虫歯らしい虫歯はなかった。ふだんから重曹電動歯ブラシを使って歯を磨いているのだが、歯の表面部分への歯石の付着はほとんどない。ただし歯周ポケットはけっこう深いのでそのクリーニングは必要だ。

 虫歯の痛みというのであれば納得いくのだが、抜歯したところ、顎の骨の痛みである。この右奥はある意味、自分には鬼門なところだ。20代の頃、この右奥に親知らずがあり、それが歯茎内にへんな方向に生えているのを抜いたことがある。笑気麻酔と局所麻酔の併用、切開しての抜歯、最後に顎の骨を削るというかなり大掛かりな施術だった。抜歯の翌日には顔の右側がえらく腫れあがり、強烈に痛んだ。それこそ歯医者に心配されるくらいに。30年以上前の記憶である。

 多分、骨が隆起しているのはあの時削ったあたりなのではないかと密かに思っている。多分、しばらく通院することになるのかもしれない。部分的に骨を削り、抗生物質と痛み止めを処方されて。

 繰り返しになるけど、歯の痛みは気持ちを憂鬱にさせる。6月の垂れ込める灰色の雲のごとくに気持ちを沈鬱なものにさせる。歯痛は生に必ずついて回るやっかい影。生き続ける限り歯痛と付き合っていく。そういうものだ。