ROMANTIQUE-大貫妙子

 懐かしいレコードをかけてみた。その一つがこれ、大貫妙子の「ROMANTIQUE」、1980年発売の彼女の4枚目のアルバム。

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 大貫妙子には思い入れがある。彼女のことはシュガーベイブ時代から知ってはいたけど、彼女がソロデビューしてすぐの頃に六本木の俳優座にライブを聴きにいったことがあり、彼女の歌声や雰囲気に痺れしまった。1977年だから多分20の時だったと思う。その時のことを15年も前に書いているから笑えるのだけど。

 この時のライブのデータって残っていないかとググってみると、きちんとセットリストやバックバンドのことなんかが記録されている。

https://sound.jp/sugarbabe/live-tabo.htm#Top

 記憶のとおり『少年マガジン』の「Girl Girl Girlコンサート」の一つで、大貫妙子一択で応募してあたったものだった。この企画でライブをやっているのが太田裕美、大橋順子、やまがたすみこ惣領智子、ボニーテールとか。やまがたすみこは当時フォークのアイドルみたいな感じで出ていたのを覚えている。太田裕美は『木綿のハンカチーフ」が1975年だから、このメンバーでは別格だった。なんとなく大貫妙子だけがちょっと浮いているような感じだけど、当時はちょっとアイドルチックな売り出し方だんだろう。

 セットリストをみると7曲、ミニコンサートという感じだったようだ。そして記憶的には「Wander rust」をやっているように思っていたのだが、これはないみたいだ。そして坂本龍一がピアノで参加しているようなのだが、まったく覚えていない。もっともYMOは1978年結成だから、それ以前は山下達郎周辺のちょっと尖がったキーボードプレイヤー的存在だったんでしょうね。

 そしてこの「ROMANTIQUE」である。ちょうど就職したばかりの頃で、当時勤めていた大学内の書店では併設する購買コーナーで年に何回かレコードの割引セールをやっていた。安月給だったけど、自分で稼いだ金ということもあり、そういうセールの時には4~5枚まとめて買っていたんだと思うがその中の一枚だ。

 このレコードは本当によく聴いた。擦り切れるほどということもないけど繰り返し聴いた。カセットにダビングして当時売り出したばかりのウォークマンで通勤途中にも聴いた。そういう時代だった。

  1. CARNAVAL (編曲:坂本龍一
  2. ディケイド・ナイト (編曲:坂本龍一
  3. 雨の夜明け (編曲:坂本龍一
  4. 若き日の望楼 (編曲:坂本龍一
  5. BOHEMIAN (編曲:坂本龍一
  6. 果てなき旅情 (編曲:加藤和彦
  7. ふたり(編曲:加藤和彦
  8. 軽蔑 (編曲:加藤和彦
  9. 新しいシャツ (編曲:坂本龍一
  10. 蜃気楼の街 (編曲:加藤和彦) 

 プロデュースは牧村憲一でアルバムは全体としてヨーロッパ的な雰囲気が貫かれている。アレンジャーは坂本龍一加藤和彦が担当しているが、ヨーロッパテイストに沿った曲作りは坂本龍一の方があっている。というか、こうやって比較してみると坂本、加藤の才能の差は歴然としているように思う。加藤和彦も音楽センスに溢れ、趣味の良い音作り、マニアチックな趣向性がある人だが、坂本のアレンジセンスに比べるとなんとも凡庸な感じがしてしまう。

 B-3の「軽蔑」はロックテイストな曲なんだけど、今改めて聴いてみるとそのイントロは同年に岡崎友紀のシングル曲として発売された加藤和彦の曲「ドゥー・ユー・リメンバー・ミー」のイントロと似ている。同じアレンジャーだからということではなく、こういうところに引き出しの少なさを思ったりもする。

 冒頭のA-1は坂本のシンセサイザーを全面にしている。ベース細野晴臣、ドラム高橋幸宏と、大貫妙子WITH YMOという感じがする。このつかみの曲ど導入にしてじょじょにヨーロッパテイスト、シャンソンやフランス映画、ルルーシュフランシス・レイのような雰囲気が漂う展開になる。A-4「若き日の望楼」、A-5「BOHEMIAN」がA面の白眉となる。

 これに対してB面は加藤和彦がアレンジを担当しているが、どうしてもA面に比べて凡庸な印象がある。B面でこのアルバムでも最も優れた楽曲B-4「新しいシャツ」、これも坂本龍一だ。A面坂本龍一、B面加藤和彦という構成の中でも坂本龍一アレンジの「新しいシャツ」をここに置いたのはどういうことだったんだろう。

 2名のアレンジャーを用いたことに対して大貫は後にこんな風に語っている。

「いろんな人と交流を持ちたいし、自分が好きだなと思う人と仕事したいんで、一曲二曲でもやっていただけるなら、なるべく数多くの人と知り合いたいし。そういう人にお願いしてるんです」

  当時27歳、まだ若いミュージシャンの素直な心情が吐露されていると思うけど、このアルバムの統一感という意味では、ここは坂本龍一がすべてのアレンジを担当したコンセプトアルバムになったのではと思ったりもする。

 自分はフォークルの頃からの加藤和彦のファンではあるし、プレイヤーとしてもプロデューサーとしても非凡なものがあると思っている。それに対して坂本龍一については、才能は認めるけれどその音楽的指向性はちょっと自分とは合わないと思ったりもする。ただしこのアルバムについていえば加藤和彦は、大貫妙子のカラーとはちょっと違うかなという感じを改めて思ったりもした。

 いずれにしろこのアルバムは懐かしい時分のマイフェバリット・アルバムの一つだ。CDで買い直しても良かったのだけど、なんとなく買いそびれてしまった。レコードで持っているという記憶もあったかもしれない。今回、プレイヤーを入手して久々に聴くことができた。いろいろなこと、自分の若かりし日のことなども自然と思い出された。