出版3社、本の流通参入へ

出版大手の講談社集英社小学館の3社は14日、出版物を書店などに流通させる新会社の年内の設立に向け、総合商社の丸紅と協議に入ると発表した。出版物の流通は、日本出版販売とトーハンを中心とした取次会社が主に担っており、出版社が自ら参入するのは異例だ。

 今朝、朝日の社会欄にこんな記事が。

出版3社、本の流通参入へ 無駄な配本、AIで減 講談社・集英社・小学館:朝日新聞デジタル

  出版大手の講談社集英社小学館の3社は14日、出版物を書店などに流通させる新会社の年内の設立に向け、総合商社の丸紅と協議に入ると発表した。出版物の流通は、日本出版販売とトーハンを中心とした取次会社が主に担っており、出版社が自ら参入するのは異例だ。

 国内の出版流通は、取次会社が出版社と書店の間に入って全国の書店に本を配送し、書店から返品された本を出版社に送り返す仕組みが柱。だが書店からの返品率が高止まりし、輸送費などのコストが課題となってきた。新会社はAI(人工知能)を活用して無駄な配本を減らし、返品率を下げるほか、出版物に1冊ずつICタグを張り付けて在庫や販売の状況を管理し、出版流通の効率化をめざす。

 新会社は他の出版社の書籍や雑誌も取り扱うという。講談社の担当者は「無駄なコストをできるだけなくし、主に書店に利益を還元して、書店の経営状態の健全化につなげたい」と話す。(川村貴大) 

 これについては日経にも前日に同内容の記事がある。

講談社など3社、書籍流通へ参入 出版生き残りへDX: 日本経済新聞

  詳細を読むにつけ、新聞記事の見出し「本の流通参入へ」はミスリーディングではないかと思えてきた。当初、AI活用により無駄な配本を減らし返品率を下げるということで、単純にAIに機械的に配本やらせたら、ほとんどの書店への配本はゼロになるんじゃないかと揶揄したくなるような感想を持った。さらにいえば講談社集英社小学館とう業界大手三者が出版流通に直接乗り出す、ようは直の新会社を設立することになるのかという風にも考えた。

  今や出版業界において物流コストや効率性追求、正味問題等もあり、大手出版社は直取引に舵を取っている。KADOKAWAもそうだし、アマゾンとの直取引に乗り出した出版社も多数ある。さらにいえば出版売上の急速な低下と物流コスト増加に悲鳴を上げた出版取次はすでに脱出版化にこれも舵を取り始めたという話もある。

 楽天参加となった旧大阪屋・栗田は楽天BNとなり、最近はその主力帳合だった丸善ジュンクとの取引も絶り、楽天ブックスの流通に特化することで生き残りを図ろうとしている。業界最大手の日販もTSUTAYAに寄りそう形で、全国の書店への物流からのシフト転換を図ろうとしているという。さらにいえばトーハンは電子出版取次大手メディア・ドゥとの提携、所有不動産の有効活用等により、こちらも紙の出版物からのシフトチェンジを始めたと考えてよいのかもしれない。

 取次が紙の出版物の物流から他業種へシフトチェンジを図るなかで、大手出版社が直取引のために協業して流通参入というのは、こうした流れからすると必然かもしれないという気もしないでもないのだが、講談社のプレスリリースを見る限りどうもそういうことではないようにも思える。

出版 3 社が丸紅と新会社設立に向け協議を開始
~出版界と読者の利益のために~
 平素より弊社の出版活動にご理解とご協力を賜り、誠にありがとうございます。このたび講談社(東京都文京区)と集英社(同千代田区)及び小学館(同千代田区の出版社 3 社は、大手総合商社・丸紅(東京都中央区)と、出版流通における新会社の 2021 年年内の設立に向けて協議を開始いたします。
 2020 年の出版売上は 1 兆 6,168 億円(全国出版協会・出版科学研究所調べ)となり、
2 年連続の前年越えとなりました。しかし、近年さまざまに報じられておりますように、出版界は構造的な課題を抱え続けており、各部門においての改善が急務とされています。そのようななか、今回出版社 3 社は、出版界と長年に亘っての取り引きがあり、他業界におけるサプライチェーン改革の実績がある大手総合商社の丸紅をパートナーとし、出版流通における課題を解決していくために、新会社を設立し、いくつかの新しい取り組みをスタートする予定です。

新会社による主な取り組みの内容は以下の二つです。
1 <AI の活用による業務効率化事業>
  書籍・雑誌の流通情報の流れを網羅的に把握し、その際、AI を活用することで配本・発行等を初めと  

  する出版流通全体の最適化を目指します。
2 <RFID (radio frequency identifier)活用事業>
  RFID=いわゆる IC タグに埋め込まれた各種の情報を用いて、在庫や販売条件の管理、棚卸しの効率化

  や売り場における書籍推奨サービス、そして万引き防止に至るまでるまで、そのシステムを構築し運用

  することを検討してまいります。

(2のシステムは1の仕組みの「最適化」の精度向上につながるものでもあります。)

われわれ出版社 3 社は、上記の取り組みをパートナーとなり進めていく予定の丸紅に、全面的に協力、サポートしていくだけでなく、できる限り多くの書店・販売会社及び出版社の方々に、この新しい会社が提供する新サービスをご利用いただきたいと考えております。
そして、そこから生まれる利益を業界内の関係各社に広くシェアすることで、その結果が、1 店でも多くの書店、1社でも多くの出版社、そして何より 1 冊でも多くの出版物を手に取っていただける読者の皆様の利益に資するものと、確信しております。
われわれは、全国の書店の皆様の経営が健全化して行くことを第一義に、出版流通全体が新しく生まれ変わることによって、読者のかたがたが店頭で魅力ある出版物と出会い、快適な読書環境を続けて行けることに、新会社の取り組みが必要と考えます。
出版界のみならず、広く皆様のご理解、ご協力のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。
株式会社 講談社
株式会社 集英社
株式会社 小学館

 これは流通参入というよりも、出版業界の課題でありながらずっと実施先送り、あるいは立ち消えになっていたICタグの導入を丸紅の力を借りて実施するということではないのかということだ。このへんについては直取引出版社として成功したディスカバー21の社長だった千場弓子氏が読み解いている。

講談社など3社、書籍流通に参入 出版生き残りへDX

 ようは出版物においてもデータ活用ができるインフラを3社が先行して行うということになる。それを丸紅との協業で進めていくということだ。講談社のプレスリリースでは、「書店・販売会社、出版社に新しい会社が提供するサービスをご利用いただきたい」とある。しかしそのための設備投資を行えるだけ体力があるところがどれだけあるか。おそらくナショナルチェーンの書店や大手取次はすでにバーコードによる管理を行っており、ICタグによる管理にも対応できるかもしれない。しかし流通させる出版物に新たにタグをつけることが必要になる出版社にそれは可能かどうか。

 これまでもこの業界でICタグの導入が進まなかったのも、在庫品、市中在庫品、新たな商品へのタグをどのようにして付けていくか、そのコストをどうするのかといった点でまとまらなかったからだ。

 今回、新たにRFIDタグの導入ということについていえば、大手3社はそれを新刊書、在庫品に付与してでもシステム化、効率的な管理に踏み出したということだ。すでにこの3社は雑誌の壊滅的状況の中でも、電子書籍やコンテンツマーケティングにシフトさせ、大きな利益を出すようになっている。紙の出版物へのタグの付与とそれによるサプライチェーンを行うことも可能となっているということだ。

 3社は書店・販売会社、出版社の利用をというが、おそらく出版インフラを新たに作るような気はないだろう。あくまで彼らのシステムに乗るかどうかということだ。そして今、紙の出版物の販売において苦境にあえぐ中小書店や中堅以下の出版社には、新たに出版物にタグを付与したり、それにより基幹システムを改良したり導入することはまず難しいのではないかと、そんな風に思える。

 なぜ、この時期に3社がタグの導入に舵を切ったか、紙の出版物の危機の中でのシフトチェンジということだろう。前述したように取次大手は出版流通からの脱却を始めている。アマゾンは各出版社との直取引を進めながらも、自社システムによる物流管理に沿った納品を義務づけている。出版社がナショナルチェーンを中心とした大手書店との直取引を行うためにも効率的な商品管理を行うには、システムによる効率的な管理は絶対に必要である。

 大手3社は取り合えず生き残りのために新たなシステム導入を進める。ついてくる書店、取次、出版社にはサービスの利用を提供する。それが出来ないところは淘汰されてもいいということなんだろうか。

 もはや仕事をリタイアした身からすると、気楽にこんな他人事のようなことを書くことができるけれど、今、そのさなかにある関係者にとっては大変なことがおきているという危機意識が募るのではないかとも思う。ただでさえ紙の出版物の売上は激減している。そこにおいて新たなシステム導入や出版物へのタグの付与である。

 自分は出版流通、物流の現場を転々としてきた。その多くが中小零細だったから、システム化の設備投資の巨大さ、難しさもある程度はわかる。売上が右肩上がりの状況であれば長期的な視点からも導入可能かもしれないけれど、今、タグの付与は相当に厳しいかもしれないと思ったりもする。

 ちなみにRFIDタグは自分にはあまり馴染がない言葉などで簡単におさらいをしておこう。

RFIDとは、電波を用いてRFタグのデータを非接触で読み書きするシステムです。バーコードでの運用では、レーザなどでタグを1枚1枚スキャンするのに対し、RFIDの運用では、電波でタグを複数一気にスキャンすることができます。電波が届く範囲であれば、タグが遠くにあっても読み取りが可能です。

RFIDとは?|自動認識の技術情報|デンソーウェーブ

 ようは1点1点のタグを読むことなしに一気にスキャンが可能ということだ。イメージ的には、ユニクロの自動レジだとカゴに入れた商品が10点あってもそれを一気に読み取って決済できる。ああいうものだろうか。出版物流の現場では基本1点、1点のバーコードを読んで集計する。手作業で1点ごとにバーコードスキャナーで人手により読み取る。大量の商品についてはベルコンベアーで流しながらリーダーで読み取る。そういうものがRFIDであれば一気に読みこめてしまう。倉庫の棚にある商品も1点ずつ出して読み込む必要もなくなるということだ。

 多分、今のシステム化された物流現場ではもうRFIDはかなり一般的なのかもしれないが、出版物流にあっては目から鱗みたいなものかもしれない。ICタグというとプラスチック製のプレートみたいなものをイメージしがちだが、今は紙のタグも出てきているようだし、アパレルなどでは普通になっているようだ。出版物についても表4にシールのような形で貼付することも可能になるのではないかと思う。時代は変わったということかもしれない。

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