オリエント急行殺人事件

 以前、BSで放映していたのがHDDに録画していたのを観た。なので最近リメイクされたものではない。たしか74年に政策されたもの。アルバート・フィニーローレン・バコールイングリッド・バーグマンリチャード・ウィドマーク、マーチン・バルサム、ショーン・コネリー、ジャックリーン・ビセット・ヴァネッサ・レッドグレイブといった錚々たる主役級を揃えた作品。こうしたオールスターを集めた映画の走りだったか。
 とにかくタイトルが出るまでに一枚看板の出演者のクレジットが延々と続く。監督はシドニー・ルメット。まあ有名なアガサ・クリスティのミステリーが原作で、ストーリーもほぼ原作そのまま踏襲しているし、演出もオーソドックス。
 エルキュール・ボワロを演じたアルバート・フィニーは原作のボワロを再現しているようなのだが、大げさな時代がかった演技はもうクサイの一言。この演技はある意味、クリスティミステリーのパロディなんじゃないかと思うくらいである。
 その他の主役級の出演者も突っ込みいれようと思えばいくらでもという感じ。まずマーチン・バルサムは残念ながら、鉄道会社の重役にはみえない。がさつなワーキング・クラスやギャング役が得意なこの俳優には洒落た雰囲気が似合わない。ことあることにあいつが犯人だと断定するあたりは、金田一耕助シリーズの加藤武と同じがさつな狂言回し的役回りなんだが、だとすれば加藤武のほうが数倍上手をいってるようにも思う。こういう役をやらせたら誰がいいだろうか、とすぐにば思い浮かばないのが最近の健忘症のためだろうか。
 女優陣はみんな大スターばかりなんだが、みな往年のという形容詞がつく。カメラが女優をとるときソフトフォーカスになるのはご愛嬌というところか。しかし、これだけの女優陣である、おそらくアップの回数、セリフの量、などきちんときまっているのではないかと思ったりもする。特にローレン・バコールイングリッド・バーグマンの扱いはよく計算されている。バーグマンはあえて老け役であまり美人とはいえない役柄をふられているが、これは本当にあえてというところで、逆に彼女の演技力を際立たせている。バーグマンはこの役でオスカー助演女優賞を受賞している。かっては主演女優賞の常連である彼女が年取ってから脇に周り助演賞をとるというのも、女優冥利に尽きるのかもしれない。
 それに対してローレン・バコールはというと、あくまで主役級である。私は脇には回らないという強い意志さえ感じる存在感だ。この二人の存在に比すとジャックリーン・ビセットなど小娘のようでまるで精彩がない。それに対してバネッサ・レッドグレイブは存在感は際立っているのだが、彼女が演じる意義を感じさせないような役柄である。でもこの女優はもういるだけできまっている。
 この映画、ストーリーはみんな知っているくらいの有名な推理小説。旅客列車という密室の中での殺人劇である。なのでお話的にはとくに意外性がある訳でもない。そういう意味では、ただひたすら俳優陣の演技合戦を楽しむというそういう映画なのではないかと思う。これだけの曲者、往年の大スターを揃えた中でいえば、アルバート・フィニーのクサイ演技も納得である。普通に演技していては、主役の探偵が埋没してしまうということになってしまう。同様にみんな過剰なまでに演技してグイグイ前に出る。その中でも際立っているのがローレン・バコール。やはり大女優である。そしてやや引いた演技で得をしたのがイングリッド・バーグマン、そういうことになるのではないかと思っている。