上野の美術館巡り

 子どもがレポートを書くので西洋美術館の「アルチンボルド展」に行きたいというので、家族で付き合うことにする。せっかく上野に行くのだからと東京都美術館の「ボストン美術館の至宝展」に最初に行くことにする。アルチンボルドもボストンもすでに一回一人で行っているのだけど、こういうのは何度行っても楽しめる。子どもはというと芸術専攻なのに、科学博物館の「深海展」に行きたいとのたまう。一応前まで行くが、こちらには長蛇の列が。入るまでに1時間くらい待つという。日本人、どんだけ科学好きかとも思ったが、ひょっとしたら夏休み終わったけど、この土日で終わってない宿題やるとかで、ギリのタイミングでネタ漁りみたいな需要でもあるのかなどと、いい加減な想像。
 東京都美術館はまあ程よく混んでいる感じだが、長蛇というわけでもない。とはいえ、カミさんが車椅子で観て回るには少しばかり混みすぎ。混んでいる美術館でいつも思うのだが、絵の前に止まってじっくりと解説を読んでいる人、音声ガイドの解説が終わるまで絵の前離れない人、けっこう多いなと思う。もう少し絵を観ようよ、絵をと思ってしまう。そして混んでいるんだから、ゆっくりとでも動く。もし絵をじっくりと観たいなら、二列目、三列目に下がって観ようよと、まあそれが多分混んでいる時のルールなんだけど、ブツブツと心の中で呟いた。車椅子の人はけっこうストレス溜まるよとも。
 展示品はもう二度目なので余裕。日本画曾我蕭白や英一蝶という目玉を眺め、フランス絵画の階へ。ミレー、コロー、ブータンと続いてシスレーの「サンマメスのラクロワブランシュ」。前回行った時にもこの絵が多分一番気に入ったのだが、その時の印象そのままで今回もやっぱりこれが一番という感じだ。とにかく構図、色使い、雰囲気、すべてが素晴らしい。これぞ印象派という感じである。絵の具のテカリでさえが、光の表現と思えるほどにキラキラとしている。
 あとは、モネの数枚、そしてシスレーセザンヌ、ファンタン=ラトゥール、クールべ、ルノワールという静物画5連発。絵画の絵画史的重要度、凡庸か非凡かとか、そういう見地からすれば断トツでセザンヌなんだろうなと思える。多視点の導入とかセザンヌ入門、あるいはセザンヌを解説するのにうってつけの作品だとは思ったけど、個人的趣味としてはやっぱりシスレー。そして静物画としての古典的完成度はファンタン=ラトゥールかなと思ったりもした。
 東京都美術館の次は西洋美術館でアルチンボルド。正直、これは一回観ればいいかなという感じ。野菜や果物、動物とかの寄せ絵による人物画も、奇抜で面白いけれど、それを除けば図鑑に載っているような絵の集合体だし。まあこれが16世紀であるという時代性を思えば、その斬新さは脅威ではあるにはあるけど。
 子どもがレポート用に使うから図録を買わないかと言ってくる。企画展に行くとほとんどの場合、図録を購入しているからあえて聞いてきたのだろうが、「アルチンボルドは今ひとつ気分乗らないから買わないと」一言。代わりに売店で「芸術新潮」のアルチンボルド特集を買ってやる。
 土曜日で西洋美術館は夜9時までやっているというので、最後にのんびりと常設展示を観る。ここがやっぱり一番落ち着いていられる。子どもにいろいろと解説しながらルネサンスからバロックロココあたり観て、近代絵画からは離れて一人でのんびりと印象派を観る。西洋美術館の常設展示はいつも空いているので、ここに来るとカミさんも一人で車椅子自走してやっぱりのんびりと自分のペースで観ることができる。なので家族三人がバラバラで好きな絵をゆっくりと観て回る。
 まあこういう一日もあってもいいかもしれないという土曜日。