「スノーデン」

スノーデン [DVD]

スノーデン [DVD]

  • 発売日: 2017/07/05
  • メディア: DVD
 前から気になっていた「スノーデン」をようやっとDVDで観た。社会派オリバー・ストーン監督による直球勝負の告発もので、けっこう面白かった。CIAの情報分析官が内部告発したとして割とリアルタイムで新聞やテレビで報道されていたのだが、意外と周辺事情については知らないままでいたんだなと思った。
 アメリカの機密情報を内部告発し、アメリカから追われ世界中に逃げ場がなく、ロシアがアメリカからの要請を断って滞在許可を出しているといったスノーデンの現状については、一応知ってはいた。ロシアがアメリカへの外交カードの一つとして彼を匿っているということなのだろうと漠然と思っていた。しかしどういう経緯で内部告発に至ったのかとかは全く理解していなかった。
 とはいえその辺のことは、実は映画の中でも割とさらっと流しているような気もした。なぜ
情報分析をしているスノーデンが、内部告発したのか。彼の生い立ちや思考、正義感、そういったものも実は映画を観ている限りでは、よく分からないのである。映画の主眼はというと、現代のIT社会にあっては、ネットでのやりとりや個人情報は国家によって全て監視対象となっている。国家はいつでも個人の生活に入り込むことが可能であるし、個人情報はほとんど握られたも同然となっている。映画が訴えているのはこうした情報監視社会の実態であり、それが少し過大な形で表現されている。その狂言回しがエドワード・スノーデンという人物というのが、映画のすべてのようにも思えた。
 実際、スノーデンという人物については正直この映画だけではよく分からない。ウィキペディアの記述などによると、高校を中退し大学受験資格を得て大学に進んだが、きちんと卒業していないという。しかしコンピュータプログラミング技術に対しては天才肌であり、その技術を見込まれてNSA(アメリカ国家安全保障局やCIAにスカウトされ、両機関をいったり来たりしている他、 DELLと契約してNSAに派遣されたりしてシステム管理者となっている。
 普通、NSAやCIAに務める者はハーバードやコロンビア、マサチューセッツ工科大学などのエリートみたいな印象があるのだが、そういうエリートからするとスノーデンは異質過ぎる。ほとんど独習で技術を習得しているらしい。その辺のことは映画ではほとんど分からないが、NSAの教習の中で彼が正規の方法ではなく独自の方法で簡単に課題をこなすエピソードだけで描いていたりする。ある種在野の天才プログラマーを国が雇ったみたいなそういうことなんだろうか。もうその辺からしてスノーデンという人物は普通でない特別な人間なのかもしれないとは、いろいろ後付けで思ったことだ。
 映画はある部分ドキュメンタリーっぽく、ミステリー要素も取り入れている。社会告発ものをエンタテイメントに仕立てるところは、オリバー・ストーンの真骨頂なのだが、IT、インターネットによる情報取得というなんというか身近でありつつ、妙に現実離れした部分もあるせいか、どうも浮ついた感じもする。超大陸アメリカ国家による行き過ぎた情報監視という大掛かりなテーマなのに、映画を観終わった後にいろいろ考えさせるような部分がなく、なんか全部スッキリと忘れてしまうようなそんな話なのだ。
 ITや情報技術といった内容は、実は極めて非現実なものなのかもしれない。我々は日々コンピュータを扱い、日常的にインターネットを利用している。なのにその営みのほとんど監視され、把握されているという告発に対して、どこかお伽話みたいな感覚を抱いている。「本当か」「嘘だろう」みたいな率直な感想。率直に荒唐無稽なSF映画を観ている時のような日現実感、そのためかこの映画を観終わっても、劇場を出た途端すべて忘れてしまっていて、感想を述べ合うことがあったら、「なんか面白かったね、よくわかんない部分もあったけど」くらいのところで終わってしまうような気がしてしまう。
 映画の中でスノーデンの恋人役をしていた女優、なんとなく見覚えがあるなと思い、あとで調べてみると、ジョン・グリーンの青春小説を映画化した「きっと、星のせいじゃない」でガンに侵された女の子を演じていたシェイリーン・ウッドリーだった。目や表情に力があり、真の強そうな雰囲気を醸し出す女優さん。順調にキャリアアップしているんだなと思った。