宇都宮美術館〜「夢見るフランス絵画」展


宇都宮美術館|スケジュール
 二日目の午後ここに行く。ある意味、今回日光へ行こうと思ったのはこの企画展が行われているのを知っていたから。
 この企画展は去年の秋に渋谷の文化村で行われていた。
Bunkamura25周年記念 夢見るフランス絵画展 印象派からエコール・ド・パリへ | 展覧会情報 | ザ・ミュージアム | Bunkamura
 もともとは兵庫県立美術館を皮切りに、渋谷文化村、今年になって夏に北海道、そして秋に宇都宮が最後という巡回展のようだ。そして宇都宮美術館では9月20日から11月23日までと、ほぼ最後に間に合ったという感じだ。
 この企画展は三部仕立てでまず一章が「印象派とその画家たち」。モネ、ルノワールシスレーセザンヌ、ボナール等が中心。さらに第二章は「革新的で伝統的な画家たち」。まずジョルジュ・ルオーの6作品が圧巻だ。さらにモーリス・ド・ヴラマンクの作品が9点、アンドレ・ドラン、ラウル・デュフィと続く。
 そして第三章は「エコール・パリの画家たち」。ユトリロの絵が10点も展示されているのがまず目をひく。ここからマリー・ローランサン藤田嗣治、キスリングと続く絢爛だ。
 この企画展に展示される名画の解説ラベルには実は、どこの美術館収蔵といった部分が一切ない。これはどういうことなのか。図録の冒頭のごあいさつにはこうある。

 本展に出品される作品は、日本のある収集家がフランスに夢と憧れを抱いて集めたものです。これらの作品を通じて、画家ひとりひとりの夢いを追体験していただくとともに、作品そのものが、私たちの目の前に開いてみせてくれる「夢」をお楽しみいただければ幸いです。

 個人のコレクションなんだ。どんな金満家なんだろうと下世話なことを考えてしまう。しかし大金持ちで品のある紳士が、人生をかけて憧れのフランス絵画を収集した、その集積なのかもしれないと思うと、なんとも感動すら覚えないでもない。とはいえすでに財団法人とかに寄贈とかされていれば別だが、そうでなければ相続対象の資産でもあることだし、散逸しなければいいがとか余計な心配までしてします。しかしこの名画たちがみな個人コレクションだと思うと、次お目にかかる機会があるのかどうか。それを思うととこの日、ここに足を運んだことは人生の行幸のようなものかもしれないとなんとなく思う。
 以下、気に入った絵画たちを。
 まずは冒頭に展示してあるセザンヌの二枚。
<大きな松と赤い大地>

<イル=ド=フランスの風景>

 この企画展のある意味顔でもあり、ポスター等にも紹介されているモネの傑作だと私などは思う作品。
<エトルタ、夕日のアヴァル断崖>

 好きな画家ではあるのだが、やはりモネと比較するとどうしても凡庸に映るシスレー
<サン=マメスの船着場>

 第二章の展示では一番気に入ったモーリス・ド・ヴラマンクの作品。彼の暗いタッチの風景画の建物は一様になにか微妙に傾いている。
<風景>

<踏切のある風景>

 ヴラマンクは元々は自転車競技選手でヴァイオリンの演奏家として生計を立てていたという。そして1900年、24歳の時にドランと出会い画行に励むようになる。スポーツができ楽器もプロ級、そして絵を始める。マルチタレントそのものなのだが、絵の色調は深緑を基調にした暗さだ。どうしたら元自転車競技選手はこんな暗いタッチの絵を描けるのか、どことなく不思議でさえある。
<ラウル・デュフィ「ニースのホテルの室内」>

 フォーヴィズムの画家の一人だが、普通は青を基調にした絵が多いのだが。この絵というと、正直言われなければマチスとかいってしまいそうな絵である。構図の狂いだの遠近の齟齬だのはどうでもいいのかもしれない。ただただ色彩、協調される色彩の華やかさがすべてのようだ。
ユトリロ「雪のモンパルナス」>

 ユトリロも多分相当な多作家だったのだろう。そして彼はまた当時売れっ子の画家だった。沢山の絵を描き、売って金を稼ぐ。ユトリロの場合稼いだ金はある時期までは総て酒に変わってしまっただろうことは想像だにできる。アル中の病んだ精神とは異なっている絵である。
 同じエコール・ド・パリ派、キスリングの作品。
 <裸婦>

 なんとも贅沢な時間を過ごすことができた。