『定本黒田三郎詩集』

『定本黒田三郎詩集』 西武2Fでやっていた古本市でゲット。2000円とお買い得。

ずっと欲しかったというか、読みたかった「窓を開いて」という詩にたぶん30数年ぶりに再会した。60年安保の共稼ぎ夫婦の日常をうたったものだ。

窓を開いて−黒田三郎

先に帰って ユリの面倒みてね
きょうは わたしが デモにゆくわ
とも稼ぎの妻が言う

買い物と つくろいものと
家族のエゴイズムのなかで
暮らして来た 妻が
亭主関白を押しのけて
出て行った彼女のことを
八時半になれば 寝床に入るユリに
どう話してやればよい

隊列と 歌声と
シュプレッヒコール
「キシタオセ」の嵐のなかに
いま彼女はいる
窓開いて
家族の内側に鎖ざされた窓を
ひろく外に開いて
父と娘とふたり 真暗な夜空に向う

昔、この詩に曲をつけて歌っていたことがある。簡単なコード進行、スリーフィンガー・ピッキングで、どことなく加藤和彦の初期の曲をイメージしたような曲だった。今でもふいにこの詩と歌を口ずさむこともある。
この詩の何に心を揺さぶられたのかはわからない。まだ学生時代で、当然共稼ぎとか子育てとかにはまったく無縁の頃だった。結局、後の人生は黒田三郎ほど無頼に飲んだくれるわけでもなかったが、そこそこに駄目な男、駄目な父親の道を歩んできたかもしれない。共稼ぎの結婚生活、一人娘をもうけた。子どもが小さい頃は、けっこう子どもを叩いたりもしたし、それでいて滅茶苦茶に可愛がった。まさに黒田三郎を地でいっていた。
今でも、時々子どもを叩いたこと、それもひどく叱った時の記憶が蘇る。子どもにとってあの時の自分はきっと鬼に見えたのではないかとも思う。たぶん私にとっては一生消すことのできないどうしようもない記憶ではある。
今、私は時々デモに行く。行って誰かとつるむこともなく、参加者と共に国会前に立ち、小さく安保法制反対の声をあげる。