ライフ・オブ・パイ

映画「ライフ・オブ・パイ」オフィシャルサイト 2013年6月5日ブルーレイ&DVD ON SALE!
話題になっていた映画。劇場で見逃していたので、DVDがレンタルされたので借りてきた。劇場では3D版もあって、漂流もので3Dとは?みたいな感じだったのだが、観終わって思いました、これは3D版で観たほうがたぶん面白いかなと。
お話的にはまさしくトラと漂流した少年の物語なのだが、相当に奥が深い。たぶんいろいろな解釈が可能。とにかく着想の独自性、ユニークさ、これが総てだろうなというのが感覚的な一番の感想。とにかく原作が凄いんだろうと。そのうえで映画の視聴覚効果、演出の冴え、映像美の見事さが続く。こういう映画を観ると、映画の基本は徹底的に映像の凄さに尽きるということなのかもと思ったりもする。まあ平たくいって、メリエスの時代から映画は見世物(=スペクタクル)であるということかな。まあCDとか最新の視聴覚効果技術を駆使したんだろうね、とにかく映像が本当に感動的。
映画の意味はというと、とにかく暗喩、隠喩の数々散りばめられている。まあ表層的に漂流のお話としても面白いことは面白いのだけども。たぶんに宗教的な意味合いとか、たぶんリアルな漂流にあってはたぶん普通に想像がつくようなサバイバルな困難さとか、えげつない食人とかその他もろもろ。それらをうまいこと寓意性と綺麗な映像でぼかしている。そのへんがこの映画が成功している要因の一つなんじゃないだろうか。
かって同じ監督の出世作である『ブローク・バック・マウンテン』をそのリアルなゲイ同士のセックスシーンの感想として、この手のテーマにそこそこのリアリズムはいらないとあげつらったことがある。そういう意味じゃ、今回はこういう寓意性に満ちた表現手法をとったことに、それこそ諸手をあげて賛辞を捧げたいと思う。
自然の猛威とか驚異とかその手をCG駆使して見事に描く映像表現は、リアリズムを超えた幻想的な美を観る者に与える。その対象としてこの映画では実は生存のためのリアリズムは実はほとんど描かれてはいなかったりもする。少年は16歳とはいえ、200日を越える漂流生活でありながら髭ののびず髪型も変わらない。日焼けと衰弱による変化もほとんどない美しい少年のままであったりもする。リアリズム的にどうよと問えば、この映画は寓話なのでそこは突っ込むところではないの一言で片付けがつく、まあそういうよう映画だ。
最後、救出された若者が保険会社の社員(これが日本人として描かれている!)から海難事故と漂流について事情聴取を受ける。最初にトラとの漂流の話をしても取り合ってもらえず、次にコックと船員、母親の4人で漂流した話をする。そこで語られるのは、陰惨な殺し合いや食人の漂流生活だ。保険会社の社員は結局報告書に記載するのはトラとの漂流という奇妙な話だ。それはおそらく容易に想像がつく食人の惨たらしいリアリズムを禁忌しようとするためでもあるのだろう。
そして映画は観る者に、あなたはどっちの話を採用しますかと問うて終了する。いわゆる映画的には『羅生門』のごとく、お話としてはまさしく芥川の『藪の中』を思わせる。でもちょっとそれでも皮相な顛末だなと思う場合には、以下のサイトがたいへん興味深く、なおかつ納得させてくれる素敵な謎解きを提示してくれている。私もある種モヤモヤ感というか、ようは単純な『藪の中』でもないだろうみたいな感想を抱いていたので、なんだか目から鱗みたいな感じをもちました。
漂流中に描かれるパイとトラは、パイの分裂した精神の具象表現であるみたいなお話しはなるほどとストンと落ちるものがあります。そして物語の通底するのはカニバリズムを含む漂流の過酷さであると。なるほどトラと少年の漂流であり、そのせめぎ合いやら、自然の猛威やらが描かれているのに、どこか爽快感とかと無縁。どことなくメルヘンチックなのに不気味や雰囲気を個人的に感じていたのは、どうもそのへんかと妙に得心できたりもしました。
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ライフ・オブ・パイ(ネタバレ)/神の愛は森に隠れてる - 雲の上を真夜中が通る
この映画、たぶん10年に一度か二度あるかないかみたいな傑作、名作の部類にはいると私は思います。たぶん機会があれば(おそらくそう遠くない時期に)、また観るだろうとは思う。でもね、正直にいうと微妙にこの映画のもつある種の雰囲気は、ちょっと苦手かもしれないなとも思う。ようはオジサン的にはもう少しスカっとした漂流生還物語やもっとメルヘンチックにトラと友情通じさせてしまうような、ようはその手のチープな御伽噺を求めているように思う訳、率直にいってね。もう齢だしね、あんまり映画観てえらいこと考えたり、謎解きとか解釈とかそういうのがちょっとシンドクなってきたりもする。なのでまともに論じることはちょっと難しい。まあそういう映画です。