『ヤクザと家族』

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https://www.netflix.com/jp/title/81424705

 これもNetflixで観た。

 『新聞記者』の藤井直人監督作品でけっこう評判が良い。一部、Twitterとかで陰惨な内容といった声もあった。たしか社会学者のどなたかがそういうことをつぶやいていたように思う。で、どうだったかというと、まあまあ面白かった。ダレずに最後まで寝なかったし、いうほど陰惨な内容とも思わなかった。ヤクザ映画はそこそこリアリズム追及すれば陰惨、凄惨な内容になるし、それこそたけしのバイオレンスものに比べればはるかにまとも。

 父親が覚せい剤で亡くなり自暴自棄になっていた少年が、ヤクザの親分に拾われる。親分を父と慕いヤクザ一家が疑似的な家族となる。少年はいっぱしのヤクザものとして成長するが、地方のヤクザ同士の抗争で人を殺め刑務所へ。10年以上の刑期を終え出所すると、状況は一変している。いわゆる暴対法によりしのぎを奪われたヤクザたちの生活は悲惨な状況にあり、親分もガンに侵されかってのオーラも失っている。

 ヤクザから足を洗い堅気の生活をしようとしても、元ヤクザに世間の目は冷たい。ようやく後輩のつてで仕事を得るが、ネット社会の噂から仕事を失う。最後に男が選んだものは・・・・・。

 ありきたりな話だが、ある意味たんたんとヤクザ社会を生きる男の生活が描かれる。そしてヤクザが足を洗って社会人として生きていくことのシビアさもリアルさも。ガンに侵され病床にある親分が、組を解散しなかった理由を語るシーンも切ない。それは組員が他に生きていく術をもたない連中だからだ。組員は社会に居場所がない半端ものばかりであり、組という家族を離れては生きていけない。

 陰々滅滅とした話だが、ラストに死んだヤクザの娘と半ぐれの若者の交流が描かれ、すこしだけ明るい未来を予感させて終わる。そこが救いといえば救いだが、たぶんその先にはあまり楽しい未来は待っていないだろうとも思えてしまう。リアルな社会には応分にリアルな現実があり、多分それはたいていの場合ハッピーエンドではないだろうということだ。ましてヤクザの家族とヤクザ予備軍の若者なのだから。

 主役の綾野剛は好演、脇を固める役者陣も上手い。なによりも監督藤井直人の演出っ力、脚本力によるところが大きい。『新聞記者』、『ヤクザと家族』の二本だけでいえば外れていないと思う。この監督は買いだ。