ロジャー・ニコルズ ROGER NICHOLS&THE SMALL CIRCLE OF FRIENDS

 還暦ゴールの第4コーナー回っているというのに、我が人生でも最良の1枚をみつけた感がある、というくらいに感動している。もうすべての曲がアレンジがヴォーカルが、ハーモニーが素晴らしい。
発端は例のBSTの「NEW BLOOD」である。そこで演奏されたキャロル・キングの「SNOW QUEEN」。これのオリジナルを聴きたいなと思いYoutubeで検索すること5分、たどりついたのがこれ。

 これがなんともジャズ・テイスト満載のナンバーなのである。明らかな変拍子デイブ・ブルーベックあたりの影響だろうか。全体として60年代のメイン・ストリームジャズの香りがする。そこにキャロル・キングのやや生硬な雰囲気のヴォーカルと素晴らしいコーラス。全体としてソリッドというかエッジが効いているというか、硬質な印象である。
 さらにこの曲でヒットしたというか行き着いたのが、表題のロジャー・ニコルズの「SNOW QUEEN」。

Roger Nichols & The Small Circle Of Friends – “Snow Queen” (A&M) 1968
キャロル・キング版のジャズ・テイスト、硬質な部分をそぎ落として、よりソフィストケートにふった感じである。そしてなによりも全体に漂うセンチメンタルな雰囲気、叙情性。一言でいえば「切なさ」、なんとも聴いているうちに知らず知らず泣きそうになるくらいに感情移入してしまう。これは名曲かつ名アレンジ、名演奏と三拍子揃った傑作ではないかと思った。
 しかしロジャー・ニコルズ、まったく知らないミュージシャンである。長く洋楽を聴いてきているのに一度として名前すら聞いたことがない。ただしこのサウンドは一度ならず聴いたことがある、そういう感じがする。さっそくググってみると、1968年に表題作1枚だけを出しだけのバンドである。ロジャー・ニコルズはその後、ソング・ライターとしてカーペンターズなどに曲を提供してそこそこにヒット・メーカーになったとも。
さらに1990年代日本で渋谷系ミュージシャンに取り上げられて話題となりCDが再発されたとも。この渋谷系とかっていうのが、実はようわからん。なんかオザケンとかいたよね程度の理解しかないのだが。あの小西康陽がフォロワーとなって、このサウンドを元にピチカート・ファイブのコンセプトを固めたとかいう記述を目にするとなるほどなるほどみたいな感もあったりもした。
 ロジャー・ニコルズ スモール・サークル・オブ・フレンズについて詳しいサイトはこのあたりか。
http://www009.upp.so-net.ne.jp/wcr/rnichols.html
ソフトロック、AOR、渋谷系サウンドの源流 ロジャー・ニコルズ&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズが、40年ぶりに夢の傑作アルバム『フル・サークル』を発表 | MediaSabor メディアサボール
Roger Nichols & The Small Circle Of Friends「Roger Nichols & The Small Circle Of Friends」(1968) : 音楽の杜
http://www009.upp.so-net.ne.jp/wcr/roger_nichols_and.html
 そしてすぐにアマゾンで購入、届いたのが昨日のこと。それからそれから、もう限られた時間だけどず〜っと聴いています。選曲の良さ、アレンジ、コーラス、ハーモニー、寸分の隙の無い作りですな。1968年製作などとは信じられない斬新さです。ビートルズの曲も2曲カバーしているが、ほぼ同時代的にカバーされているところはビートルズがそれだけ大きな影響力を持っていたということの証でもあるのかとも思う。
ロジャー・ニコルズサウンドは一般的にはソフト・ロックとくくられるようだが、それではソフト・ロックとはなんぞやというと今一つ定義が確立されているわけでもない。
ソフトロック - Wikipedia

リトル・ロック、イージー・ロック、メロー・ロックとも言う。柔らかくて、聞き心地がよく、仕事をしながらでも聴ける音楽のスタイルなどと。「イージーリスニング 音楽」という取り上げ方をされている。

 イージー・リスニングというのが一番近いものかもしれんし、私なんかにも理解しやすい。まあここからは個人的な感想ではあるが、ロジャー・ニコルズの曲作りには、このアルバムを出したレコード会社のカラーもけっこう影響しているかもしれないとも思う。A&Mレコード、プロデューサー、ジェリー・モスとマリアッチテーストなポップ系トランペッター、ハーブ・アルバートが作ったレコード会社である。
A&Mレコード - Wikipedia
 ここに所属したアーティストは例えばセルジオ・メンデスクロディーヌ・ロンジェバート・バカラックカーペンターズなどなど。洒落た都会的なイージー・リスニング・ミュージックが得意なレコード会社という印象がある。
またA&Mはジャズにも進出し、クリード・テイラーを引き抜いてCTIレーベルとして同じく洒落たイージー・リスニング・ジャズの名盤を量産した。イージー・リスニングはある意味、A&Mレコードの独特のカラーだったんじゃないかと思う。そしてこのレコード会社だからこそロジャー・ニコルズのこの名盤が生まれたのではないかと、なんとなくそんな思いがする。
 さらにいえばA&Mのカラーを基底部分で支えているのは個人的な感想では、間違いなくバート・バカラック・サウンズじゃないかと、そんな気もしないでもない。あのカーペンターズでさえも最初のヒット作「CLOSE TO YOU」はバカラックの曲だったし、デビュー当時はバカラックの秘蔵っ子みたいなコピーもあったような気もする。サウンドも確かにバカラックサウンドだったと思う。
 そしてこのロジャー・ニコルズ ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズである。アレンジを担当したのはニック・デカロを中心にマーティ・ペイチ、モート・ガーソン等だというが、全体にバート・バカラックサウンドの影響は確かにあるように思う。
ストリングス、ブラス部分もトランペットの使い方、さらにはコーラスなどにもなんとなくバカラック的である。そうかだからすんなり入ってくるのかとあらためて納得してみたりもする。中学生時代からのバカラック好きの私には、ロジャー・ニコルズサウンドバカラックのフォロワー的なものとして入ってくるのだ。勝手な思い込みかもしれないけど、個人的には絶対バカラックっぽいよなと思う。
 さらにいえばこのアルバムには作家性というか、かなりの作りこみを感じる。何気に流して聴くと、それこそムード・ミュージックの類にくくってしまいそうになる。凡庸なムード・ミュージックと一線を画しているのが演奏やコーラスの工夫の行き届いたアレンジや多重録音等のスタジオ・ワークだろうか。そうした創意工夫の徹底した作りこみのうえで聴きやすい万人受けするアルバムを作りだしたのだと思う。
 しかしなぜ売れなかったんだろうかね。1968年という時代の限界なのかね。ようは時代の相当先をつっぱしていたということか。そういう風に思えば、確かに相当な前衛性もないではない。前衛性がいつもいつも難解なものだとは限らないからね。思い切りわかりやすいものの中にだってフロントラインは存在するということだ。