ジルベルト・ウィズ・タレンタイン

ジルベルト・ウィズ・タレンタイン

ジルベルト・ウィズ・タレンタイン

 

  このアルバム・ジャケットには見覚えがあった。16くらいの頃だろうか、当時イージー・リスニング・ジャズに傾倒していた。多分、兄が買ったウェス・モンゴメリーの「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」を聴いたあたりからだろうと思う。そこでA&Mレコードの新レーベルCTIを知った。たぶん販促品だったのだろうが、CTIのアルバムを集めた小冊子風にパンフレットがあって、それを毎日のようにして見ていた。そこからこれも聴きたい、あれも聴きたいと思い、通い始めたジャズ喫茶でおずおずとリクエストし始めた。

 最初に買ったCTIのアルバムはというと多分デオダートの「ツァラツストラはかく語りき」だったと思う。これはイージー・リスニング・ジャズというよりはフュージョンだったと思う。当時はクロスオーバーとかいってたのだろうか。

 CTIレーベルには売れっ子のアレンジャーがいたと思う。第一に思い浮かぶのは前述の「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」もそうだがドン・セベスキーだ。さらにはストリングの美しいアレンジが秀逸なクラウス・オーガーマンなど。そしてその次くらいのところにデオダートとボブ・ジェームスみたいな風に思っていた。

 しかし、今思うともっともCTI的なアレンジャーは、特にボサノバに関していえば、実はデオダートだったんじゃないかと思ったりもする。それを強く思ったのはアントニオ・カルロス・ジョビンの「潮流」を聴いた時だったか。洗練度とかそのへんを含めても「WAVE」の方が完成度は高いかもしれないが、「潮流」にはブラジルの粗野な雰囲気、サンバ的な要素と売れ線のポップ風味がけっこううまく融合しているように思った。

 そしてこのアルバムである。ウィズ・タレンタインということでスタンリー・タレンタインとのコラボ作品である。で、今普通に思ったのだが、これってスタン・ゲッツに代わるタレンタインということなのか。アストラッド・ジルベルトスタン・ゲッツに見いだされた人でもある。ゲッツがボサノバを、ブラジルのミュージシャンと演奏する、それが「ゲッツ/ジルベルト」である。スタン・ゲッツジョアン・ジルベルトと共演し、そこにアントニオ・カルロス・ジョビンも参加する。そのスタジオに見学に来ていたジョアンの奥さんだったアストラッド・ジルベルトが急遽歌うことになり、録音されたのが大ヒットした「イパネマの娘」である。

 そのためアストラッド・ジルベルトといえばスタン・ゲッツということになる。この二人は映画に出演して、スキー・リゾート・ラウンジで「イパネマの娘」演奏してたりもする。たしか「クレイジー・ジャンボリー」だったと思う。

 アストラッド・ジルベルトスタン・ゲッツに代わる新たなテナー奏者との共演、そんな意味合いもあってのタレンタインなのかもしれない。まあ後付けっぽいといえばそれまで。でも、そういう意味では企画モノなのかもしれない。とはいえ、デオダートのアレンジはアストラッド・ジルベルトの良さ、ウィスパーで頼りなげなボーカルの魅力を十二分に引き出している。しかもきちんとブラジルテイストの中で。

1.Wanting Things(ウォンティング・シングス)
2.Brazilian Tapestry(ブラジリアン・タペストリー)
3.To A Flame (トゥ・ア・フレイム)
4.Solo El Fin (For All We Know)(ふたりの誓い)
5.Zazueira(ザズエイラ)
6.Ponteio(ポンティオ)
7.Traveling Light(トラベリング・ライト)
8.Vera Cruz(ベラ・クルス)
9.Historia De Amor (Love Story)(ある愛の詩
10.When There's A Heartache (There Must Be A Heart)(太陽をつかもう)

  収録曲の中ではアップテンポの2.5.6.7が秀逸。パーカッションはアイアート・モレイラでサンバテイスト満載である。9はフランシス・レイの有名な映画主題歌、10はバート・バカラック作曲で「明日に向かって撃て」の挿入歌だったと記憶している。