首相の「脱原発」会見〜反対しているのは誰?

昨日の菅直人首相首相の記者会見で原子力を含むエネルギー政策について「原発に依存しない社会をめざすべき」との考えを明確にした。今朝の朝刊でもいちおうフロントに掲載されている。

菅直人首相は13日、首相官邸で記者会見し、原子力を含むエネルギー政策について「原発に依存しない社会をめざすべきだと考えるにいたった。計画的、段階的に原発依存度を下げ、将来は原発がなくてもやっていける社会を実現していく」と語り、「脱原発」社会を目指す考えを表明した。しかし実現のための政治プロセスや原発削減の数値目標、電力需給の見通しなどは具体的に示さなかった。
朝日朝刊一面

asahi.com(朝日新聞社):首相、会見で脱原発の方向打ち出す 具体策は示さず - 東日本大震災
同じ紙面の下段の天声人語が興味深い。

 テレビに横行するトリックは身も蓋(ふた)もない。近例を挙げる。繁盛するペットビジネスの客は店の人、ある飲料でダイエットに成功した女性はそれを売る会社の経営者で、15億円のホテルを買うはずのセレブはその宣伝を手がける会社に勤めていた▼九州電力玄海原発の再稼働をめぐる混乱で、佐賀県知事玄海町長の役どころは「国の迷走を嘆く地元首長」である。ごもっともだが、ご両人が「店の人」や「宣伝担当」だったら興ざめ極まりない▼知事は九電マンの父君を持ち、同社も支援し当選、九電幹部の個人献金を受けてきた。玄海町長も親族の建設会社が、九電から50億円を超す工事を受注してきた仲という▼あらら九電ファミリーと知れば、再稼働に前のめりだったのに合点がいく。住民の安全より自らの選挙や商売を案じているとは思いたくないが、板挟みへの同情はおのずと色あせよう▼なるほど、経産相の安全宣言が尚早なら、それをストレステスト(耐性評価)で覆す首相も間が悪い。地元にすれば、担任は合格点をくれたのに、頑固な校長に追試を命じられた思いか。だが、首長が九電と一体ならば怒りの迫力も知れる▼運転再開を論じる番組への賛成意見は、大量の「九電発」で底上げされた。根深い「やらせ構造」に首長も無縁ではあるまい。それに切り込むべきが、支持率15%の「へたれ政権」とは情けないが、ことは安全に関わるから無関心ではいられない。国民の胃にも障る、とんだストレス試験である。

この間の玄海原発の稼動再開を巡って国の迷走に振り回させる被害者を演じていた佐賀県知事玄海町長が実は原発推進、旗振りのメインプレイヤーだったとの内容。まあ立地自治体に湯水のように金が落ちるのが電力三法を含めて原発を巡る背景にあることなんか、ちょっと考えればすぐに行き当たることである。トリックとしては、お里が知れているということなのだが、それでもけっこう菅政権、いや菅首相に対する批判的言説を補完するうえでは、有効に働いていた。
さらにいえば菅首相に梯子をはずされたとして、やはり被害者面していた海江田経産相についてだって同様なことがいえる。原発推進、とにかく稼動への既成事実作りを進める経産省の権益を重視して、とにかく稼動ありきで先走った責任が一切問われない。経産省、海江田、九電、立地自治体の出来レースだったのである。それに菅が、政権の脱原発グループがストップをかけてのがたぶん真相だろう。
そうなるといつものように、菅直人への個人批判のデマゴギーを集中させる。結局のところそういう図式なのである。
今回、明確に「脱原発」を公式に発表した菅首相に対して、与党、野党を問わず冷ややかな反応、あからさまな批判が相次いでいる。大筋では「脱原発」の流れを首肯しながらも、やれプロセスだの議論がないだと末枝末葉をあげつらっているか、あるいは例によっての菅個人への人格批判だ。ようは大きな流れとして一国のリーダーが「脱原発」を明確にしたこと、それが総てなのである。その大きな流れに対しての肯定否定をないがしろしながら、行程だのといった技術的な部分だけでその「大きな流れ」自体を無効化しようとする。天声人語にならっていえば、ぜんぶトリックということになるのだろう。
さあ、誰が何を言っているか、よく覚えていたほうがいい。

「方向性は間違っていない」が(時間軸があいまい)鳩山前首相

「将来の脱原発は賛成だが、具体性がなく辞める人が言っても説得力がない」与党若手議員

「党内議論を全くやっていない。『またやったな』という話。たわごとにしか聞こえない」民主党執行部の一人(おそらく輿石あたりか)

「大きな政策の転換で、国会で相当な議論がされなければならない。(脱原発への)道のりが示されなければ、単なるポピュリズムにしかならない」自民党石破茂政調会長

「日本の将来をどう考えているのかわからない。それを説明してから(脱原発を)話して欲しい」経団連米倉弘昌会長

脱原発を言う気持ちはわかるが、そんなことをしたら製造業は日本にいられない。雇用も維持できない。」電気大手幹部

エネルギー政策の大幅な見直しは、国の将来の根幹にかかわる極めて重要な問題で、方向を誤れば大きな禍根を残ることにもなる」電機事業連合会八木誠会長

首相が言及した「原発の国有化」やベトナム原発を売り込んだこととの関係が不明だと指摘し、「退陣を表明していて一貫性のない発言がなされることに違和感を覚える。泉田裕彦新潟県知事

さてと、みんな言葉巧みだけど、「脱原発」にシフトされると困る人ばかりなんだと思う。素直に言えばいいのに、これまでの利権構造その他もろもろから、「脱原発」には反対だと。