『ブロークバック・マウンテン』を観る

ブロークバック・マウンテン プレミアム・エディション [DVD]
公開時にけっこう話題になっていた映画だと思うのだが、ようやくDVDレンタルで観た。保守的なアメリカ西部でのゲイをメイン・テーマとした異色映画。この映画のストーリーやキャストとかについては以下に詳しい。
2005-12-21
ブロークバック・マウンテン - Wikipedia
しかしなんていうのだろう、この映画を観て思うのは自分にまったくゲイ体質がないってことを再確認できたことくらいかな。ヒース・レジャージェイク・ギレンホールの絡みを美しいとは思えんのよね。
最近の映画であるわけなので、ある意味セックス・シーンが普通に描かれる。男と男であれ、男と女であれ。普通に体の露出があり、あの「プリティ・プリンセス」のアン・ハサウェイでさえ惜しみなく裸体をスクリーンに露出させてくれる(それはとても有難いかな)。でもだ、レジャーとギレンホールが初めて結ばれるシーンでのレジャーがいざ行為にいく前にペニスに唾つけてみたいな、そういうそこそこのリアリティが本当に必要なのかどうかというと、右腕高く振り上げて「疑問だ」と叫びたくなってしまうな。
こういう時代だから映画表現、映像表現がほとんど規制なく、それこそなんでもありになりつつある。一昔前はというと様々な規制があり、例えばセックス・シーンなんていうのは、いろいろなスクリーン・プロセスで間接表現されていた時代がけっこう長く続いた。例えばだけど、花嫁が初めての夜を迎える時に、新郎新婦がシーツに包まって抱擁、次に意味もなく花びらがポトっと散る、落ちるカットが挿入され、いきなり翌朝、朝日が差し込む寝室なんていうやつだ。あの花びらポトっていうのが、実はけっこう好きだったりするのだよ。かっての映画にはそういう意味深な表現がたくさんあって、それがけっこう映像表現を深めていった部分ていうのもあるのではないかと思う。
なんでもかんでもリアリティ、そこそこのリアリティを求めてもだよ、元来セックス・シーンなどというものはそんなに美しいものじゃないわけだ。男と女が汗だくでまぐわっているのなんかそんなにいいもんじゃないだろう。試しにAVとかのDVDを何本か借りてきて続けて観てみればいい。お好きな人にはたまらんかもしれんが、たいていの場合、いい加減食傷してしまうと思う。「セックスはやるもんで、見るもんじゃねえ」という名言があったかどうかは知らんけど、まあそういうこと。
そういう意味でいうとこの映画の主人公二人、保守的な西部、しかも1960年代であるにも関わらずけっこう大胆に行動している部分もあるなと思ったりする。少なくとも年に一回は釣りと称してブロークバック・マウンテンにキャンプに出かけて逢瀬を共にしていたりもする。このへんがどうも映画の宣伝コピーにあるような保守的な西部での20年にわたる秘めたる愛みたいな部分とちょっと違うよみたいな感じをもつ。
最初期待したのは、ホモセクシャルな心情をお互いに隠し続けて、普通の人生を送るアメリカ中西部のマッチョ系の普通のオヤジの話みたいなものだった。山での日常世界から隔絶された中で一夜の過ち(!?)みたいな感じで関係をもつ。男同士で肉体関係を持ってしまったことへの嫌悪感、恥じ意識などを持ちながらどこかでお互いに好意を抱きあう。
山を降りた二人はそれぞれに結婚し、普通の家庭を持ち、普通にアメリカ中西部の男としての真っ当な生活を送る。映画的には二人の生活をカットバック的に、あるいはそれぞれのシークエンスを並行させて描く。二人のやりとりは毎年交わすブロークバック・マウンテンのポストカードでのたった一言の「元気か」みたいな言葉だけ。そして長い年月を経て、初老になった二人が初めて再会を果たす。その時二人はどんな風に言葉を交わすのだろう、あるいは何も言わずに立ち尽くすのか、それとも熱い抱擁?そんな静的で抑制されたストイックな男同士の愛みたいなものを期待していたんだが、まあそういう意味じゃ見事に期待を裏切られた感じかな。
映像は町での生活はやや灰色がかった撮り方、山での生活は思い切り美しくみたいな風でそれなりに工夫されている。でもなんとなく最初から最後まで感じたのは、アメリカ映画風じゃないな〜と。どこかヨーロッパ的な感覚かなとも思ったし、監督の名前がアン・リーというので、イギリスの女流監督みたいなこと勝手に想像してしまいました。ぜんぜん知らなかったんだが、台湾出身で近年最も活躍しているアジア系の監督さんなんだってね。まあ、こういう映画取れるんだからそこそこ優秀な監督なんだろうけど、あんまり好きになれんタイプの映画、監督さんのような感じ。
とりあえず一見の価値ある映画だとは思う。でも二度観たいと思わせる映画でもないな。二人の若手男優、ヒース・レジャージェイク・ギレンホールはけっこうこれから伸びそうな感じがする。ギレンホールのブルーアイはけっこう魅力的だし人気でそうな気がする。いやもうすでにそこそこ人気あるのかな。確かあの氷河期映画「デイ・アフター・トゥモロー」に出ていた数学部の高校生だよな。レジャーにしろギレンホールにしろ、こういう映画に出るとゲイ関係者からやっぱり熱い注目を浴びてしまうのだろうか、などと余計な心配もしてしまうな。
しかしこういうゲイ映画が普通にメジャー映画として公開されるのであれば、誰か吉田秋生の『バナナ・フィッシュ』をハリウッドに売り込んでこないかなと思う。舞台はニューヨークだし、主人公も登場人物のほとんどがアメリカ人だし、ストーリーも面白いし。チャイニーズ・マフィアもけっこう重要な位置を占めているから、こういう映画こそアン・リーにあってないか。