コッポラ

 フランシス・コッポラの旧作を3本観た。『ゴッド・ファーザー』『ゴッド・ファーザーPART2』『コットン・クラブ』。『ゴッド・ファーザー』は実は一度も観ていなかった。第1作はテレビとかで観たような気もするが、気を入れて観てなかったのかな、あんまり印象ない。しかしこれだけ有名な名作とされる映画を観てなかったのも、ちょっと不思議だ。
 で、感想はというと、まあ良い映画だとは思う。でもそれ以上でも以下でもないってところかな。そして暗い。評価の定まった映画だから、そうした評価を追認するだけなんだが、1作よりも2作目のほうが出来がいい。マーロン・ブランドは圧倒的な存在感があるけど、それ以上にアル・パチーノの熱演、演技力には感心した。でも、この人は演技派は演技派だけど華がないな。パート2で青年時代のドン・コルレオーネを演じた若きロバート・デ・ニーロのほうが印象深い。でも今や演技派の頂点にあるデ・ニーロやパチーノを抜擢したコッポラの眼力みたいなものには感服するな。
 パート1では公開時にもいろいろ話には出ていたと思うが、長男役のジェームス・カーンはやっぱりミス・キャストだな。なんつうかイタリア人ぽくない。演技派ぞろいの顔ぶれの中では浮いているなとは思った。
 で、『コットン・クラブ』。劇場公開時にも観ていてそれなりに面白かったような気がしたけど、改めて観てみると今ひとつの印象だな。リチャード・ギアがミュージシャンぽくない。ミュージカル的な部分とギャング=マフィアものとがうまくこなれていないような。金はずいぶんかけたみたいだが、コッポラの才気も朽ちてきたということなのかな。
 しかし、コッポラのこの手の映画の底流にはイタリア系移民としての自己のアイデンティの追求みたいな部分がある。イタリア・マフィアを描くのも自己の出自へのこだわりなんだろう。そうやって観てみるとマイケル・チミノの『ディア・ハンター』や『天国の門』にしても東欧系移民の話だし、みんな同じようなこだわりが映画作りに反映しているんだな。
 古くはジョン・フォードの一連の作品群だって、アイリッシュものばかりだし。結局アメリカという移民によって成立した国ならではの事情なんだろうとは思う。でも、コッポラやチミノの暗さとジョン・フォードの明るさとの相違っていったいなんだんだろうな。
 やっぱり最近ビデオで見返してみたんだが、『静かなる男』みたいなアメリカン・ドリームを実現することなく失意のままアイルランドへ帰ってきた男が故郷で癒されるだけというお話が、なんとも楽しい映画になる。ジョン・フォードは、結局のところ人間の明るさとか善意とかを信じていたんだろうな。アイルランドの人々って、イングランドから徹底的に弾圧されていて、それはそれは悲惨な状況だったという話だ。それでもこの映画の中では、人々は笑い、酒を飲み、陽気に喧嘩しあっていた。男の故郷への帰還をこれだけの面白い映画に仕上げてしまうフォードの素晴らしさは、コッポラとかチミノの暗い暗い映画を観た後ではより一層引き立っちゃうと私は思うわけだ。
ゴッドファーザー DVDコレクション 製作30周年記念 スペシャルBOX ディア・ハンター [DVD] コットンクラブ [DVD]
静かなる男 [DVD]