太陽を盗んだ男

 DVDになっていたんだね。TUTAYAで見つけて即借りてきました。で、今観終わったばかり。かれこれ十数年ぶりに再見した。もっていたビデオが誰かに貸したままになったかなにかで無くしてしまったからなんだが、ほんとうに久しぶりだ。
 1979年製作だから26年前の作品ということになる。当時、個人的にだが日本映画史上の最高傑作と狂喜した映画。実はちょっとばかり観るのがこわかったよ。若い時分に観た映画をDVDとかで見直すと、いろいろ粗が見えたりもするし、こっちの感性が老化してるんだろうな、ついていけなかったりとかいろいろあるから。ものによっちゃ、なんでこんな映画に感動したんだろうと、当時の感覚を疑うものだってあるからなあ。だから昔の映画って怖くて見直せないものもけっこうあるんだ、実は。例えば『俺たちに明日はない』とか『明日に向かって撃て』など、いわゆる'70年代ニューシネマ系がそうだ。『いちご白書』とかも勇気いるよな。
 で、『太陽を盗んだ男』だ。面白かったね。今見直しても、やはり私的には日本映画の最高傑作だと改めて思った。映画的には黒澤だの小津だののほうが優れているとは思うよ。それでもこの映画が邦画ベストなわけだ。個人が原爆を作って国家を脅迫するというメインテーマがもうきわめて映画的だ。原爆、核という重い主題をもちながら、きわめてB級アクション的な娯楽作品にしあがっている点もグッド。テンポのある演出も素晴らしい。そしてなによりも主演のジュリー=沢田研二がすばらしい。色気があり、虚無的かつ真摯、理知的にして軽薄、といった二面性をもった孤独な若者を見事に演じきっている。もう一人の主役、マッチョなスーパー刑事の菅原文太もやや類型的ながら好演している。この二人のちょっとホモセクシャルな関係性を暗示させる部分も秀逸。
 さらにいえばやや脇役的だが、池上希実子も美しいヒロインとして華を添えている。能天気な'80年代的キャリア・ウーマン風のDJを演じているのだが存在感抜群だ。原爆を作った孤独なテロリストに惹かれていく女性を好演している。スクリーンの中の彼女はとにかくいい女なんだ。
 随所にちりばめられたチャップリンゴダールからの映画的引用も映画好きにはたまらない。長谷川和彦=ゴジの映像作家としての真骨頂でもある。そういえば今回改めてタイトル・クレジットを観ていると助監督にも現在ではおなじみの高橋伴明や今は無き相米慎二が加わってもいる。日活ロマン・ポルノに集った若き映像作家の集大成でもあったわけだね。
 この映画は演出、役者の他にも秀逸な点がたくさんある。その中の一つが音楽だ。音楽担当は井上尭之、これがまったくもってかっこういい。ハリウッド映画顔負けだ。井上はこの頃、TVでも『太陽に吼えろ』とか『傷だらけの天使』とかを手がけて売れっ子だったんだろうけど、この映画ではある意味この時代の仕事の集大成みたいな側面もあると思う。メインテーマ曲なんかはちっとも古びていないと思う。アレンジ担当の星勝は気億違いでなければ、元モップスのギターだったかな。'70〜'80年代にはアレンジャーとして良い仕事をしていたなという記憶がある。
 日本映画としては突出した作品であったはずなのにこの映画、興行的には壊滅的だった。わずか二週間足らずで打ち切りになったという。この映画が時代の先の先を行き過ぎていたからか。あるいは当時噂として小さく語られたことだけど、内容が内容なだけに、権力の介入があったとか、なかったとか。そして興行の失敗によって、天才監督長谷川和彦は永遠に次回作を作る機会が喪われてしまったのだ。あれから26年の歳月がたったというのに、彼のキャリアは相変わらずデビュー作『青春の殺人者』とこの映画だけなのだ。これもまた日本映画の悲劇の一つなんだろうな。
太陽を盗んだ男 [DVD]