西原理恵子

 今朝の朝刊で西原理恵子が『上京ものがたり』で手塚治虫文化賞の短編部門を受賞したとのこと。「この賞をねらっていた」との本人談話もあったが(どこまで本当か、どこからギャグか)、確かにこの作品は彼女のもう一つの特徴でもある抒情性が前面に出ている佳作だと思う。賞受けというか、漫画も文化みたいなオピニオンにうまくはまる作品だとは思った。そういう意味じゃ西原の思惑通りの展開なのかもしれん。でも、けっこう奥が深い部分もあるし、単なるほのぼの系ではないんだとは思う。
 思えば『毎日かあさん』で彼女の”笑かし+ほのぼの+しんみり”みたいな芸風は、かなりの完成度を増しているようにも思ってきた。そこから、いかにもという感じの”笑かし”がすっぽり抜け落ちて作家性が顕著になってきているようにも感じた。もはや単なるお笑い漫画から一ランクあがったということなんだろうな。
 そんな『上京ものがたり』の前編にあたる、自伝系の作品『女の子ものがたり』を本日購入した。4月に出たものらしいが、今日書店にふらりと寄ってみるまで刊行されていることなど全然知らないでいた。今回は彼女の小学生から高校中退までの時代をともだちとの交流を中心に描いている。面白かった。個人的には『上京ものがたり』よりたぶん好きだな。
 しかしこんな風に自伝風に生い立ちを面白おかしく、自虐的で、それでいてしんみりと描く技量がいつのまに研ぎ澄まされていったのだろう。ある意味じゃそこそこの小説なんかより遥かに深みがあると思う。彼女のコンプレックス、上昇志向がどんな風に形成されたのかが、なんとなくわかるような気もする。それでいてこれは彼女が言うように、ひとたび作品化されたらそれはすべてフィクションなんだということ。ちょっと不幸な少女と彼女の周囲にいた、もっと不幸な少女たちの物語=フィクションなんだとも思う。
 この作品に描かれた様々なエピソードは、かなりの部分西原の体験したこと、身の回りで起きたこと、見聞きしてきたことなのかもしれない。でもこの作品はまさしくフィクションとしての真実性を獲得しているんだろうな。彼女は齢40を越えて、自分の生い立ちを完全に客観視して、そこから見事な物語を紡ぎだしたということ。
 多分これからは、すでに漫画家としてはある種のステータスを獲得している彼女だから、こうしたもろに作家性の強い作品が強まっていくんだろうと思う。もはや単なる体を張った自滅型のギャグマンガ家じゃない。本人も受賞談話で、これまでも何度も口にしている「体を張ったギャグは正直しんどい」と語っている。でもそれ自体がある種のギャグ性を帯びてもいるような気がする。この人はまたやるよきっと、みたいな期待感があるんだな。絶対また海外の危険地帯にいったり、キャバレーのホステスをやったり、大博打を打ったりするんだよと思う。それでこそ西原だもの。
 個人的には最高傑作だと思っている『脱税できるかな』のパート2が見たい。あのページ単価115万円のギャグ。あれに匹敵するやつを実はひそかに期待している。だって西原だもん。
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