パーマネント野ばら

パーマネント野ばら [DVD]

パーマネント野ばら [DVD]

  • 発売日: 2011/01/07
  • メディア: DVD
ようやくTSUTAYAで借りてきて観た。公西原のファンだし、公開時から気になっていた映画だったので、DVDが出てからというもの、いつ借りるかいつ借りるかと、そんな面持ちだった。
映画的にはなかなか良い出来だと思う。映像もきれいだし、役者もみんなうまいし。原作をそれなりにうまく消化している。
ただし原作のもっている様々なエピソードを複層的に積み重ねたような、あるいはコラージュのような雰囲気とはしょうしょう異なり、もっとわかりやすいものになっている。
さらにいえば原作のもっている猥雑でアーシー=土着的な部分もすっぽり抜け落ちている。元々が美容院を舞台にした女性たちのたくましさや、弱さ、恋することの悲しさ、可笑しさ、そういったものをてんこ盛りにした群像劇みたいな漫画である。そのへんがえらく弱い。
漫画にあっては単なる狂言回しにしか過ぎない美容院の出戻り、こぶつき娘、なおこの妄想癖がある意味前面ででてきている。まあ菅野美穂がヒロイン役なのだから、それはそれでいたしかたないか。
彼女の妄想が原作では暗示的かつ、牧歌的なのに、映画ではより直裁的で分かりやすく表現されている。この分かりやすさは、観客へのサービスなのかもしれないけれど、ある種安直な了解可能性は、若干興ざめな部分もあるかもしれない。
個人的にはもっと複層的な意味あいがあるんじゃないかと思わないわけでもないのだが、この映画ではきわめて単純な解釈を観客に結果として押し付けているような、そんな気さえするから。
以前にも書いたことだが、この映画、というよりこの原作は、ハーバート・ロス監督作品「マグノリアの花たち」にインスパイアされた作品だと個人的には思っている。アメリカ中西部の田舎町にある一軒の美容室を舞台に、そこに訪れる客との会話のなかで描かれていく、女たちの人生劇。あの映画はきわめてよく出来ている名作さと思っている。
西原はおそらくこの映画が好きで、そのシチュエーションやテーマを、彼女が子ども時代を過ごした高知のど田舎の港町を舞台にして描いてみせたのではないかと、まあきわめて個人的な思い込みとして、そうふんでいる。
マグノリアの花たち」に比較してしまうと、どうしても映画「パーマネント野ばら」には、限界となるような部分もないではない。まあこのへんは単純に好みの問題かもしれないが。
マイナスなことをぐだぐだ記してはいるが、この映画けっして嫌いではない。どちらかといえば好きなタイプかもしれない。
そしてなによりもヒロインの菅野美穂がたいそう魅力的である。どこにでもいそうな、ちょっと頼りない、地に足がついていないような出戻り娘という役柄を好演している。本当に魅力的な女優さんだとは思う。
そのほかにも夏木マリもいい、小池栄子もいい、池脇千鶴もいい。とにかく女優陣はみんないい。さらにいえばヒロインの義父役を演じた宇崎竜童もいい。あの有名な「真夜中のスナック」のセリフもうまくはまっていた。
そういう意味じゃ、最近観た映画の中ではけっこういい順位に位置していそうだ。
最後にヒロインの一人娘を演じた子役がいいね。一人で遊ぶシーンが何度か出てくる。たいていは後姿なんだが、その一人遊びがどことなく寂しげである。あれは監督の演出だとしたら、えらくはまっていたように思う。
西原は「毎日母さん」の最初の巻で、自分の小さな娘が庭で一人でおままごとをする姿を描いた回がある。その最初のコマは女の子のおままごとをする後ろ姿を描き、そこにこういうネームを入れている。

娘は1歳になるかならないかのうちから おままごとがとても好きで
庭の小さな台所をいじっている
そのうしろ姿を私はいつだって思い出せる

そこには小さな女の子が一人ぼっちの寂しさを必死にがまんしながら一人遊びに興じているということがしっかり描かれている。
この映画に何度も挿入されるヒロインの娘の一人遊びのシーンはなんとなくそんなことを思い出させる。
この映画はとりあえず買いである。

パーマネント野ばら

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